尾上先生の勉強風景 (12) ラランド『ダーウィンの未完成交響曲』

尾上正人 @9w9w9w92

Laland, Kevin N. (2017) Darwin's Unfinished Symphony: How Culture Made the Human Mind, Princeton University Press. ラ・ラ・ランド（笑）もこないだの日経サイエンス特集「新・人類学」寄稿者の１人。表紙のデザインが素晴らしい pic.twitter.com/ytT70qIqDL

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裏表紙でトマセロとボイドがご推薦―― pic.twitter.com/qOdrTNkMoc

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「進化生物学は、煙突や自動車や電気の存在を、自然界と同じくらい確信を持って説明できるのだろうか？　祈祷書や教会のコーラスの起原を、種の起原のように叙述できるのだろうか？　私がタイプしているコンピュータ、人工衛星、あるいは重力の科学的概念の、進化的説明などあるのだろうか？」pp.1-2.

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「この本は、ヒトの文化のもつれた塊の起原と、ヒトの心の動物的ルーツを探求する」p.2.

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「どんな法則が、技術の絶え間ない進歩と多様化や、変わりゆく芸術様式を説明するのか？ 文化進化—それにより文化的形質間の競争が行動と技術の変化を生み出す—に基づく説明は、いかに複雑な文化を生み出せる心が最初に進化したかについて明らかにすることによってのみ、満足な形で考察を始められる」3

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「ヒトの心の進化に責任を負う単一の原動力はない…その代わりに私は、進化的フィードバックの加速するサイクルの意義を強調する。そのサイクルによって、文化プロセスの織り合わされた複合体は、心の息をのむような計算能力を設計した抵抗し難いランナウェイ・ダイナミクスの中で互いを強化し合う」p3

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「他の動物のよく似た性質と比較することを通じて、人間性の区別できる特徴を把握することも、本書のもう１つの中心的なテーマである。…我々は、技術・科学・言語・芸術の起原を科学的に説明しようとするだけでなく、これらの現象のルーツを動物行動の領域にまで遡って辿ろうとする」p.3.

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「『文化』によって私は、共有され学習された知識の大規模な蓄積、技術の時間をかけた反復的な改善を意味する」p.7.

Masato ONOUE @9w9w9w9

@99mina_jeju 20世紀に戦争で失われた人命は、対人口比で見るととても少ないですよ。ここまで戦争での死亡率が下がったのは「理性」のおかげ、とすら言えなくもないと私は思いますがね twitter.com/9w9w9w92/statu…

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20世紀には戦争関連で１億人が死んだとされ「国民国家に分かれたことに近代人が支払った対価」と見なされているが、これが国民国家ではなく、毎年戦争関連死亡率が５%の部族・首長社会だったとしたら、死者はその20倍（20億人）と推測される。p.93.

2016-09-26 15:46:55

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ヒトが持つ「累積的な文化」の証拠は、種々の精巧な道具を作るチンパンジーやカラスにおいてもいまだ示されていない。pp.8-10.

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「彼［ダーウィン］は、どんな性格においてもヒトは十分に動物に似ており、あるいは動物は十分にヒトに似ており、中間形態の鎖を自然淘汰ならば作り得たであろうことを示すことによって、ヒトと他の動物の知的能力の外見上は深いギャップを縮めようとした」p.13.

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「ダーウィンのスタンスは、同時代人のラッセル・ウォレスとは決定的に正反対…ウォレスは、ヒトの複雑な言語・知性・音楽・芸術・道徳は自然淘汰だけでは説明できず、神的創造者の介入から生まれたにちがいないと結論づけた。歴史は彼に厳しい判断を下したが…当時の知識の状態の正直な反映だった」13

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「ダーウィンの立場は、将来は科学が精神的分断に橋を架けるより具体的な証拠を与えてくれるという堅い信念に基づいていた。今や立証されつつあるスタンスだ。ヒトの心の進化を把握することは、ダーウィンの未完成交響曲である…今日まで認識されなかったのは、心の起原に文化が果たす中心的役割だ」14

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「過去には多くの動物学者は、ヒトの進化を全否定する者の立場を強める恐れから、これ［ギャップ］を認めるのを嫌がったのではないか。…他の動物の知的信任状をインフレ化するか、またはヒトの野蛮な性質を誇張することにより、ヒトと他の動物の表面的な類似について多くのことが言われ過ぎた」pp14-5

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「我々の精神的能力の他の現生動物との連続性を示すことによってヒトの進化を『証明する』いかなるアジェンダも、もはや必要ではない。つまり、そんなのはアナクロになってしまったのだ。…ヒトと他の現生霊長類の間の精神的能力のギャップの信憑性を示すことが、本書に必要なプラットフォームだ」15-6

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「科学で最も誤解された統計はたぶん、ヒトとチンパンジーは遺伝的に98.5%似ているというものだろう…1.5%は、この２種の間のおよそ3500万のヌクレオチドの違いを表している…［違いにより］影響を受ける遺伝子の多くは転写因子をコードし…それにより種間の小さなシーケンスの違いが増幅され得る」p16

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遺伝子をOn／Offするプロモーターとエンハンサーや、遺伝子の欠失・重複によっても種間の多様性は増える。重複の結果、ヒトの全ゲノムの6.5%はチンパンジーとコピー数が合わない。選択的スプライシングはヒトの遺伝子の90%以上で起き、その6～8%はチンパンジーとスプライシングのされ方が異なる。p16-7

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「アラン・ウィルソンとマリー=クレール・キングは、最初にヒトとチンパンジーの驚くべき遺伝的類似性に注意を引いたバークレーのパイオニア的科学者だが、彼らは２種の間の違いは遺伝子の配列の違いよりも、いつ・どのようにしてそれら遺伝子がスイッチオン／オフされるかと関係があると考えた」p.17.

尾上正人 @9w9w9w92

「進化発生生物学（あるいは『エボ・デボ』）…進化は典型的には遺伝子規制マシーンの変化を通じて——『古い遺伝子に新しいトリックを教えること』を通じて進展するという知見…。ヒトとチンパンジーの違いは、配列の小さな違いよりも<全ての>我々の遺伝子がスイッチオン／オフされる仕方と関係する」18

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「ヒトとチンパンジーで異なる遺伝子サンプル中、不釣り合いに多くが脳と神経システムで表現される。脳で表現される遺伝子はヒト亜科系列では強い正の淘汰を受けており、そうした遺伝子の90%はチンパンジーに比べ活動を上方制御[?]している。そうした違いは脳の機能に大きなインパクトを及ぼしそうだ18

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「多くの他の期間とは異なり、チンパンジーの脳における遺伝的表現のパターンはヒトよりもマカクザルのそれに遥かによく似ている」p.18.

尾上正人 @9w9w9w92

「チンパンジーは我々に最も近い親戚であるかもしれないが、それはただ、我々の属の他の全てのメンバー…と、アウストラロピテクスと他の全てのヒト亜科…が滅んでいるからだ。もし彼らが生きていたなら、チンパンジーはヒトの心に今より低い地位しか占めず、彼らに期待することも少なかっただろう」18

尾上正人 @9w9w9w92

↑上記文、最後の「彼ら」は絶滅人類ではなくチンパンジーを指すものと思われます

尾上正人 @9w9w9w92

トマセロらがチンパンジーにやらせた最後通牒ゲームの簡略版（半々か、相手より多く取るかの二択）では、相手にフェアかどうかは考えず自分の取り分を最大化した…「ヒトと比較して、チンパンジーは利己的にふるまうようだが、彼らの行動は我々よりもむしろ合理的な反応なのだ」p.20.

尾上正人 @9w9w9w92

「コミュニケ―ションシステムは、ヒトの言語がスペクトラムの一方の極にあり、いくつかの高度に複雑な動物の原言語と緊密に繋がり、ますます洗練度が下がる動物のコミュニケーションシステムを経て、他方の極の単純な嗅覚メッセージで終わるという、似た形態の連続体の上に配置することはできない」p23