ストレイトロード:ルート140(39周目)

オリジナル短編「ストレイトロード」のコンビが毎日お届けしている、掌編という名の習作。今回は1901~1950。 最後のリクエスト回を除き、共通のテーマとして「壊れる」を設定していました。 今後も引き続き1日1組つぶやいていきます。 続きを読む
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Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

焦土の上に新しい街を建てる計画が中断された。最初の工事現場が爆破された事件をラジオが伝えている。「縄張り争いが長引いてるのかな」「人間の仕業だと聞こえる表現ですが」私の意見に藍は一言「だから?」具体的な指示を出さない。爆破の詳細を聞きながら、私達の車はその地域に向けて走っている。

2018-12-29 18:51:11
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、1926。爆破。

2018-12-29 18:51:11
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

怪物の謎を明かす未発表論文が流出したという。藍が入手した資料に目を通したが、解明と結論づけるには程遠い内容だった。「ボツの原稿?」「偽物の可能性も」どのみち馴染みの研究者の信用は落ちると聞いた藍は出発を命じた。私達が研究所に着いた頃には噂が広がり、職員総出で火消しに追われていた。

2018-12-30 19:29:32
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、1927。火消し。

2018-12-30 19:29:32
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

外に出て冬空を見上げていたら冷たい塊が頬にぶつかった。雪玉でも投げられたかと思って車を見ると、右半分が雪に埋もれていた。大きな顔と目が合った。「何してるの」藍は助手席からフロントガラスを見上げていた。逃げろと言わない。怪物風の顔の正体が割れた看板だと確認してから、雪かきを始めた。

2018-12-31 19:17:05
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、1928。冬空。 本年もお付き合いいただきありがとうございました。

2018-12-31 19:17:05
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

平坦な道を直進しているうちに夜が明けた。町の影も対向車もない。日が昇る頃には助手席にいる藍を起こそう、などと考えた一瞬が油断になった。「ちょっと!何してるの!」急ブレーキで目が覚めたらしい。怒鳴る雇い主の顔は見えないが、感嘆する顔は想像できた。平坦な道の先に太陽が顔を出している。

2019-01-01 19:11:50
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、1929。平坦。 今年も続けます。 そして、このシリーズの過去ログまとめ本「ルート140」の最新巻を次回 #テキレボ にて出します。表紙も決まった!あとは編集だけ!

2019-01-01 19:11:51
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

「燃料の買い占め?」今朝の市場で小耳に挟んだ話が別の経路で藍の元にも届いたらしい。彼女は通話を切った後しばらく難しい顔で考え込んでいたが、急に真顔を作って私の方を見た。「いつでも走れるようにしておいて。今すぐに」言われた時点で点検も燃料の補充も済んでいたが、私は黙ってうなずいた。

2019-01-02 19:28:53
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、1930。補充。

2019-01-02 19:28:53
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

「いまいち変装した感じがないんだよね」人に散々着せ替えをさせてから言うことがこれだ。藍は私を前後左右から眺め、化粧道具を借りてきたかと思えば、眉を作るためのペンで私の頬に何か描き始めた。「どこかにはインクで顔に落書きする罰ゲームがあるんだって」楽しそうな一言に思わず眉をひそめた。

2019-01-03 18:54:10
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、1931。眉。

2019-01-03 18:54:10
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

下り坂で加速した台車は食料品店の店先に突っ込み、テーブルや桶を盛大にひっくり返した末に止まった。桶を被った姿で顔を出した藍は泡まみれだった。「怪我はありませんか」「大丈夫。それより弁償の相談よろしく、わたしはあいつ追うから」彼女は指示を残して走り去った。驚きも心配も追いつかない。

2019-01-04 19:03:09
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、1932。店先。

2019-01-04 19:03:09
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

修復中の橋の崩落は向こう岸から始まった。しかも私が工事の様子を見て真っ先に想像した壊れ方そのもので、言葉も出ない。「よかった、誰も渡ってないときで」隣で藍が呟いた。橋に関わる人々を気にしつつも、内心では向こう岸へ向かう渡し守を案じていただろう。先程会った彼はお役御免を恐れていた。

2019-01-05 19:28:02
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、1933。向こう岸。

2019-01-05 19:28:02
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

旅の間は私が藍の付き添いでも、友達と行く観劇に同伴するなら本来の保護者でいい。今日は父親の車に乗る彼女を見送るだけのはずが、何故か充電式の小型ケトルを預けられた。「絶対ママにだけは貸さないでよ」理由は当人の長話から引き出した。給水の目安となる線を無視して注いでは本体を壊すらしい。

2019-01-06 18:57:56
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、1934。目安。

2019-01-06 18:57:56
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

檻が破られたと聞いて見に行くと、想像と全く違う惨状があった。鉄格子が数本曲げられて抜け道を作るどころか、床を中心に開いた花のようだった。天井は破片も残っていない。「ここにはどんな猛獣がいたの?」藍の声に感情の色がない。明らかに抑えている。前から檻の中身を知っていたのかもしれない。

2019-01-07 19:48:38
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、1935。猛獣。 なにものかが唸る姿は、まだ見えない。

2019-01-07 19:48:38
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

若者の集団が街を囲む壁を工具で削り始めた。すぐ大人達に囲まれても作業は止まらない。破壊と制止が幾日も続いていると聞き、藍が近くの大人に声をかけた。「どうして壊されると困るの?」「そりゃ、街の外は野蛮な人間しかいないからで……」振り向いた警備員が言葉に詰まった。余所者と気づいたか。

2019-01-08 18:47:29
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、1936。野蛮。

2019-01-08 18:47:29
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

破格の宿賃はその宿の入口が工事中ゆえだった。大きな柱時計を解体しているらしい。「壊すの?」「それがねえ」跡取りがプロポーズを決行したが、肝心の指輪を床板の隙間に落とした。以来その真下にある時計が笑うような音を立てるという。「時計がかわいそうでしょう?」女将の言葉に藍が吹き出した。

2019-01-09 19:34:23
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、1937。指輪。

2019-01-09 19:34:23
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

今夜の空に天体ショーの予定はなく、火の番が要る場所でもない。誰かを探しに行く様子もない。藍が夜更かしする態勢を整えたのは何故なのか。「気にしないで、先に寝てて。明日も仕事あるし、体壊されても困るから」いつになく優しい言葉の陰に企みの気配がする。迂闊に眠ったら巻き込まれる気がする。

2019-01-10 18:38:38