【書き起こし】特集「?なぜ人と人は支え合うのか?『こんな夜更けにバナナかよ』の映画化でも話題のノンフィクションライター渡辺一史さんと障害と福祉の観点から考える」2018年12月6日(木)放送分 TBSラジオ 荻上チキ・Session-22 #ss954

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橋本 至 @kid75

1年ほど前から、首の筋力低下によりほとんど寝たきりの生活になっていた。動くのは両手の指がほんの少しという、第1種1級の重度身体障害者である。できない、といえばこの人には全てのことができない。かゆい所をかくことができない。自分のお尻を自分で拭くことができない。

2019-01-25 20:52:27
橋本 至 @kid75

眠っていても、寝返りがうてない。全てのことに、人の手を借りなければ生きていけない。さらに大きな問題があった。35歳の時、呼吸筋の衰えによって自発呼吸が難しくなり、喉に穴を開ける気管切開の手術をして、人工呼吸器という機械を装着した。

2019-01-25 20:52:27
橋本 至 @kid75

筋ジスという病気が恐ろしいのは、腕や脚、首といった筋肉だけでなく、内臓の筋肉をも徐々にむしばんでいくことだ。以来、1日24時間誰かが付き添って、呼吸器や気管内に溜まる痰を吸引しなければならない。放置すると痰を詰まらせ、窒息してしまうのである。

2019-01-25 20:52:28
橋本 至 @kid75

「なんでこいつ、24時間介助されてて狂わないんだろうって、みんなが不思議がるわけさ。そこで色々と発見が始まる。ふしぎ発見、だね」身動きできないベッドの上で、鹿野はそう言って愉快そうに鼻を鳴らす。

2019-01-25 20:52:28
橋本 至 @kid75

「何故なんですか?」「それは自分をさらけ出すことによって。だってさらけ出さないと、他人の中で生きていけないわけでしょ。できないことはしょうがない。できる人にやってもらうしかない」。

2019-01-25 20:52:28
橋本 至 @kid75

シュッ、シュッ、シュッ。ベッド脇のワゴンには、オーディオチューナーのような計器や目盛がたくさん付いた箱型の人工呼吸器が据え付けられており、そこから伸びる管が鹿野の喉とつながっている。部屋には人工呼吸器の音が絶え間なく響く。その音が、この人の呼吸音でもある。

2019-01-25 20:52:28
橋本 至 @kid75

「それでも人は生きなきゃならない。弱音を吐くときは、それはありますよ。呼吸器のメインスイッチ切って『僕は死にたーい』って。ありますよ、それは。でもみんなに迷惑かけるし、『やっぱりねー』とか言う人もいるっしょ。言わしたくない。プライドがある。これがあるうちは大丈夫」。

2019-01-25 20:57:32
橋本 至 @kid75

もともとが虚勢の人なのである。付き合ううちに、そうした性格が徐々に飲み込めてきた。しかし、強いようで弱くて、弱いようで強い。臆病なくせに大胆で、わがままな割に結構優しい。いくつもの相反する性格をさらけ出し、その度に私は首をひねった。「この人は一体、どういう人なのか?」と。』。

2019-01-25 20:57:32
橋本 至 @kid75

荻:さて、この鹿野靖明さんとの出会いで、実際のボランティアの現場や介護の現場、そして障害当事者の生活を追っていくということになるのですが、鹿野さんは実際にお会いするとどういう方だったのでしょうか?

2019-01-25 20:57:32
橋本 至 @kid75

渡:非常にうまく読んでいただいたんですけど、比較的天然キャラっていうか、真面目な話をしていても、どこかユーモラスというか、カッコつけて言っているなっていうのが見え見えの感じの人なんですけど、付き合っていくうちに、

2019-01-25 20:57:33
橋本 至 @kid75

とにかく介助者・ボランティアにあれしろこれしろっていうのを容赦なく頼みますよね。それから食べ物の好き嫌いが激しいとか、人のうわさ話大好きとか、おしゃべりで、ちょっと気に入らないことがあるとかんしゃくを起こして周囲の人に八つ当たりするとか、

2019-01-25 20:57:33
橋本 至 @kid75

取材してすぐ「なんてわがままな人なんだろう」と口をついて出かけて。でもそういうことを障害のある人に対して言っていいんだろうかとか、この人をありのままに書いちゃっていいんだろうかみたいな。先ほど「ガラガラと崩れ去った」って言いましたけど、

2019-01-25 20:57:34
橋本 至 @kid75

ノンフィクションって、見た現実を書くわけですけどね、この人の現実をありのままに書いちゃっていいんだろうかっていう、そこから再構築しなければいけない。で、この人がわがままに見えるのはなぜだろうっていうのは、単に健常者のわがままとはやはり違って、体が全く動かない人のわがままなので、

2019-01-25 20:57:34
橋本 至 @kid75

そこが考えどころで、その意味を深く問うていくことによって、やっぱり切実な問題を抱えた人のわがままというのが、実は私たちの社会に重要なメッセージを含んでいる側面があるんじゃないかっていうことに気づき始めたところから再構築が始まったというんですかね。

2019-01-25 20:57:34
橋本 至 @kid75

このわがままはありのまま書いちゃっていい、と。でもそれには、理由っていうんじゃないけど、実はそこにすごいメッセージが含まれているっていう、そこを書かなきゃ意味がないんだなと思い始めたということですね。

2019-01-25 21:01:40
橋本 至 @kid75

荻:実際渡辺さんは、今南部さんが読んだ部分でも書いていますけれども、この鹿野さんの介助を実際にされていますよね。これ取材といいつつ、ボランティアに参加するような形だったのですか?

2019-01-25 21:01:41
橋本 至 @kid75

渡:それはですね、もう巻き込まれていったんですね。巻き込まれた。要するにボランティアは常に人不足なので、その当時はまだ今ほど在宅福祉の障害者の制度が充実していない時代だったので、ボランティアがどうしても必要だったんですね。

2019-01-25 21:01:42
橋本 至 @kid75

当然ですけど簡単に集まるものではないので、取材をしているうちに「いついつがどうしても埋まらないから、渡辺さん来てくれないか」っていうことで。私も取材の一環で、初めて入ったボランティアの人たちに介助の仕方を教えること自体が鹿野さんの仕事なんですよね。

2019-01-25 21:01:43
橋本 至 @kid75

自分の体を使って自分の介助の仕方を、それこそ先生口調で教えるんですよね。周りにこうずらっと新人ボランティアを集めて「君たちいいかい、僕を介助するにはこういうことに気をつけなくてはいけないよ」みたいな。

2019-01-25 21:01:44
橋本 至 @kid75

なんというか弱者と強者というか、支える方と支えられる方の奇妙な逆転を目撃しているような感じで。それで、ボランティアの人たちが帰っていく時に、鹿野さんの方が当然「きょうは来てくれてありがとう」とボランティアにお礼を言うかと思ったら全く逆で、

2019-01-25 21:01:45
橋本 至 @kid75

新人ボランティアたちの方が「鹿野さん、今日は勉強になりました。ありがとうございました」と言って帰っていくっていう。なんというかすごいバイタリティというか厚かましさというか、障害を逆手に取って、何もできない人なんだけれども、

2019-01-25 21:01:47
橋本 至 @kid75

それをできるというものに変えていく不思議な場面が多々あって、それこそがまさに人間関係の不思議さですよね。弱者とか強者、あるいは支える人支えられる人っていうのは固定したものではなくて、状況によって流動的なものであるということですよね。

2019-01-25 21:01:47
橋本 至 @kid75

荻:ちなみに当時ボランティアは何人ぐらいで回されていたのですか? 渡:常時来ていたのは40人ぐらいで、不定期な人も結構多いんですよね、月に1回とか、だから私も一応研修を経て、一通り痰の吸引、呼吸器を付けていると痰の吸引をしなければいけないんですけれども、それから食事介助とか、

2019-01-25 21:01:48
橋本 至 @kid75

あとは着替えのサポートだとか、体位交換、体位変換とも言いますけど、そういうのを一通りマスターしたので「じゃあいついつ入ってくれ」という形で、月2回ぐらいですかね、泊まりの介助によく入っていて。だから60人ぐらいはいたかもしれないですね。

2019-01-25 21:06:30
橋本 至 @kid75

毎週来るような人は40人弱ぐらいで回していたという感じですね。 荻:鹿野さんとの、特に強烈な出来事といいますか印象深いエピソードというのはいかがでしょうか?

2019-01-25 21:06:31
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