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出会い系アプリにプロフィールをさ、登録するじゃん。正直に。 大手IT企業系列勤務(本当は孫会社に派遣どころか請負の一人親方で入ってる土方) 高校・専学時代は剣道に打ち込みました(本当は幽霊部員) 現在でも時々竹刀を握ります(ストレス発散のため奇声を発し狭い室内で的をめった打ち)
2019-01-30 17:21:55「あ、男かー…」 「大手ITの**勤務で…剣道のご経験もあるとか」 高そうなスーツ。艶やかな黒髪。土方くんより背は低いが、はるかにしゅっとしてこう、しかし曲線を描く体つきはまさに日本刀という感じの。 「うん。ほら、現代のサクラダ・ファミリアと呼ばれたあのプロジェクトなどにもね」
2019-01-30 17:28:00本当は同じ職場のベトナム人プログラマーの方が百倍仕事できたけど別にいいんだ。嘘はついてない。 「**高校は剣道で有名ですよね」 「詳しいね…ま、中学でもね、速攻の土方などとね。言われていました」 理由は長丁場になると息が切れるから。
2019-01-30 17:29:34「ではもしかしたら、伊東さんをご存知ないですか」 「伊東…」 「多分、土方さんと同じ剣道部でいらしたと思うんですが」 「ああ…」 知ってる。高校剣道部のエース。強くて女にもてて勉強もできて嫌なやつだった。さらに某都市銀のシステム開発担当として某クソ案件で顔を合わせたことがある。
2019-01-30 17:32:55「ご紹介願えませんか」 「あ、ふーん」 出会い系アプリって何これリンクトインじゃねえんだぞ。だいたいなんで男に見栄はってんだ俺は。 「いやーどうかな最近はあんまり連絡してないし…」 「そうですか…」 「ま、次会う時までに何とか都合つけとくよ」
2019-01-30 17:35:01「本当ですか!?」 「ああ、まあね。忙しくなければ」 なんで男相手にこんなひっぱりかたしてんだ。土方くんは拳を握り固める。切ない。どうしてこんなところまで堕ちたのか。ちょっと呼吸まで苦しくなってきた。 「ごめんちょっと失礼」 お手洗いへ。
2019-01-30 17:36:26ポケットから吸入器を取り出して回し、口に咥え、ゆっくり息をする。クスリである。あ、やばいやつじゃないよ。気管支拡張剤と言いまして、喘息のね。
2019-01-30 17:38:06「はーもう帰ろ。帰ろう」 いくら顔がよくても男じゃな。 いや女の子とつきあったことないけど。 でも男じゃな。専学時代にそっちの行ったやつもいたけど、土方くんは女がいいなって思ってた。いやなんとなく。 「しかしアイドルソシャゲのお姉さんキャラみたいな顔してたな」 でも二次元で例える。
2019-01-30 17:40:33席に戻る。まだきちんと姿勢を崩さず待ってる。 「あのさ。さっきの話だけどやっぱ俺も忙…」 「いえ。せっかく席を設けて頂いたのに僕のわがままばかり…土方さんが優しいから甘えてしまって」 「はは」 え、あ、やばいちょっとキュンと来たじゃん。
2019-01-30 17:42:00「ま、いいんだよこういうのもね経験だから」 何の経験。よく分からないことを言って請求書をとろうとするとない。 「あれ?」 「すいません。お会計はこちらで済ませました」 「え、まじ…?」 惚れてしまうやろ。 「あ、領収書、よければどうぞ」 「気遣い…」
2019-01-30 17:43:25土方くんは出会い系アプリで求めていた女じゃなく、男とマッチングしてしまったにもかかわらずちょっとるんるんで帰った。 帰ったが。 「領収書くれたの俺が請負だって気づいたってことかーい!!!!!!」 家に入ってから叫ぶ。
2019-01-30 17:44:41説明しよう。請負というのは一人親方ともいい、何というか会社員のようで会社員ではなく、個人事業主じゃないようで個人事業主。 自分で確定申告とかをしなければならず、経費をいっぱい書いておかないと税金がいっぱいとられる。だから領収書を沢山集めなくてはいけないのだ。
2019-01-30 17:46:26大手IT企業**勤務ならもちろん選ばれし民、正社員であるはずなので、領収書など 「いや打ち合わせの経費精算は正社でもある…大丈夫…普通普通…」 ほんとか?**のプロパーがそんなみみっちいまねするか?
2019-01-30 17:48:08まあそんなことはどうでもいい。 「あああ!!なんで俺は男と恋愛しようとしてんだおらああ!!!」 竹刀で打ち込み用の的を乱打する。 「あああああ!!ああああ!!!!!!しかも向こうは伊東目当てじゃねえかおらあああ!!!!」
2019-01-30 17:49:29「はあ…つらい…つら…」 また苦しくなってきたので吸入器カシュッ。そしてごろり。トドのように横になる。 「あーどっかから可愛い子降ってこないかなー。アイドルソシャゲのお姉さんキャラみたいな子…あー…」 陸に上がったトドのようにのろくさく転がりながら腹を叩く。
2019-01-30 17:51:11「今度こそ女の子と出会お…」 腹をズッズッと床にこすらせつつ移動し、携帯のロック解除して出会い系アプリを立ち上げる。 ほかのユーザーからのいいねゼロ。 ゼロて。 「アップした写真が悪いのかな…」 素体がよくない。
2019-01-30 17:53:59「もういいや」 あきらめが速い。そもそも例の男子だって向こうが先にいいね!して連絡くれなければわざわざ会わなかったし。っていうか写真で女だと思ったのに。プロフィール確認怠った。 この出会い系アプリの仕組みご存知ない方に説明しておくと、お互いにいいね!した人同士だけ連絡とれます。
2019-01-30 17:56:34「はーソシャゲしよ」 1時間ぐらい流行のアイドルのやつと歴史の偉人がやたら露出度高めてくるやつをやった。 「…SNSすっか…」 新SSR引けたとか、実業団剣道大会で誰が優勝したとかで盛り上がってる。 土方くんは引けてない。優勝したのは同窓の伊東がいる銀行だった。 「ツマンネ」
2019-01-30 18:01:21「はー…ニュース見るか」 ニュースアプリ立ち上げる。 "猫カフェならぬ龍カフェのうわさ" "ゴキブリから不勃起に効く新薬開発か" "現代の辻斬り?通り魔殺人被害三人目" "トランプ永世大統領の誕生祝いに話題のあのセレブ"
2019-01-30 18:04:45「どうでもいいや」 トドのように転がる。 すべてにやる気がなくなってきた。 「何かもう生きる気力なくなってきたな…せめて死ぬまでに一度は恋愛したかった…かわいい女の子と…アイドルソシャゲのお姉さんキャラみたいな…」
2019-01-30 18:05:51