刀剣の男子と一般人の俺が運命の出会いをしてラブラブになった訳だが

帽子男 @alkali_acid

メッセンジャーアプリに連絡。例のクソ案件で一緒だったベトナム人プログラマーから英語で。 「角煮作りすぎたから取りに来ていいよ」 みたいなの。 「角煮て」 ベトナムの角煮はおいしい。

帽子男 @alkali_acid

正社でも派遣ですらもない、請負で将来はどうなるか分からない土方さんではあるが、今のところなぜか仕事はある。 でも取引先が絶対に正規雇用しないあたりそのうち切る気は満々なのは分かる。 「見とけよ見とけよ。そうなったら絶対俺の竹刀であそこの社長ボコボコにしてやっから」

帽子男 @alkali_acid

とか考えてたら、また呼吸が苦しくなってきたので吸入器をカシュッ。 「あー効く効く」 ヤバい薬じゃないです。気管支拡張剤とステロイド。酸素がね。キマる。

帽子男 @alkali_acid

喘息患者は、吸入して呼吸が楽になるとめっちゃ酸素がキマって気持ちいい。 「はーもう…なんで女の子からいいね！来ないかなあ…」 出会い系アプリの写真を確認。めっちゃアイドルに似てる写真を選んだのに（昔の女性アイドルを百倍ぐらい太らせた感じのやつ）。

帽子男 @alkali_acid

「モテてえ…モテてえよ…男じゃなくて女にモテ…男からも来ねえ…男からすすらモテねえ…もう死んじゃえばーか…皆死んじゃえ」 床でのたうちながら世界を呪詛する男、土方。得意言語はC#、C/C++などです。あとJava。

帽子男 @alkali_acid

「誰か氏ごはん…」 SNSに投稿するが、誰か氏などいない。 "角煮を取りに来い” するとSNSにもベトナム人プログラマーから英語で返信がつく。 ちなみにThịt kho（ティット・コー）と言います。 「…うう…」 起きたくないけど仕方なく角煮を取りに行く。

帽子男 @alkali_acid

「ぐす…ぐす…」 土方お前泣いてんのか？ベトナム人プログラマーの前でベソかいて 「え、日本人デブこわ…」 と思われるぞ。

帽子男 @alkali_acid

自転車（イケITおじさんが乗ってるかっこいいやつではなく5000円のママチャリ）こいで駅まで行って電車乗って日本語の通じない団地いって角煮もらってきた。あとお米ももらった。長くてパサパサしたやつ。角煮に合う。 ”てかお前飯も作らないのになんでそんな太ってんの？” 「分からない」

帽子男 @alkali_acid

”てかもうここ一緒に住むか？多分やせるし健康にもいいぞ” 「え、ガイジンいっぱいだし怖いしいい…」 ”！？？” なんだこいつみたいな目で見られながら帰る。

帽子男 @alkali_acid

「はー角煮うまいな…このパサパサしたご飯とめっちゃ合うな…あ、そうだコーラ飲もう」 それだよそれええ！太るのは！！！ だが土方を止めるものはない。誰も、止めないのだ。

帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 結局ね。土方くんはまた会ってしまった訳です。例の男子に。 そしておしゃれなカフェで、おいしい、らしいコーヒーをおごってもらいながら重大な打ち明け話を聞いた。 「土方さん。僕は…刀剣なんです」 「刀剣…？」 「かたな…の精とでも言いますか」 「あったねそういうソシャゲ」

帽子男 @alkali_acid

会話が途切れる。 いつの間にかテーブル近くまで来てたイケメンな黒人のウェイターがコーヒーのおかわりを注いでくれる。 無料らしい。すごい丁寧に淹れてたがいいのか。 最近の店はガイジンが多くて色々常識も違い、よく分からない。

帽子男 @alkali_acid

「あ、まじの話？」 「まじの話です」 「あ、ふーん」 「刀として多くの肉と骨を斬ってきました」 ちょっと返事に困って携帯をいじる。ニュースアプリで話題探し。 ”現代の辻斬り、ついに通り魔被害五人に” 「ふぁっ！？」 「どうされました？」 「えっと」

帽子男 @alkali_acid

土方くんはあらためてじっと目の前の若者を見つめる。 きれいな顔。ほっそりしてしかし鋭さもある体つき。 なんか高そうなスーツ。高そうなネクタイ。高そうな腕時計。 人は斬りそうにない。 「はは。まさかね」 「だからどうしても、伊東さんに紹介いただきたいんです」 「？」

帽子男 @alkali_acid

「伊東さんからは、現代には数少ない、真の剣客の薫りがします」 「そ、そう？」 「この前の実業団剣道大会での試合を見て確信したんです」 「へー。ちなみに俺は？薫り？」 「？特に何も」 「あ、そう」 脂くさいとか豚くさいとか言われなくてよかったね。

帽子男 @alkali_acid

「伊東かあ…でもあいつさあ…」 「お願いします…僕は、刀剣ですので、人と人との付き合いみたいなものはうまくありません。携帯やアプリが便利なので、うまくつながれると思ったのですが、糸口は土方さんしかありませんでした…こんなに親身になっていただいて、申し訳ないとは思うのですが」

帽子男 @alkali_acid

アイドルソシャゲのお姉さんキャラみたいな顔で真剣にほかの男の話をされると、さすがに土方もしんどくなってくる。 「ごめんちょっと」 トイレへ立席。また吸入器をキメる。

帽子男 @alkali_acid

「相手は男だぞ！！きれいでも男！くっそくっそ！ほかの男の話なんぞされて腹立ててどうする！かーぺっ！何が真の剣客だ伊東あの野郎！！」 ここで回想シーン。 黄昏の剣道場。ボコボコにされる小デブ。ボコボコにする美少年。 防具つけてるから分からんけど中身はそうなの。 「ぶひー…ぶひー…」

帽子男 @alkali_acid

「どうした速攻の土方！来い！」 「ぶひー」 よろよろ。面、面、面、胴、小手。足払い。足払いはよくない。 あ、倒れた相手を竹刀で打ってる。反則反則。これは暴力事件。いじめだ。 「土方！そんなもんか！」 「ぶひー！！」

帽子男 @alkali_acid

げらげら笑うほかの部員。マネージャーの女の子まで。 なにこれ剣道部ぐるみかよ。 「お前、うちにいても意味ないから、さっさと辞めろよ」 「ぶひー…お、生おぼえてろ…月夜の晩ばかりじゃ…」 「るっせーよ！」

帽子男 @alkali_acid

余計なことを言うから余計にボコられる。 回想シーン終わり。 「はー！！最悪じゃんあいつ！俺の恨み補正がかかってるとはいえ！今の回想シーンだけでもクズだって分かるわ！」 でも帝大に入り都市銀にいったのは伊東くん。 専学に行き請負IT土方になったのは土方くん。 「くっそー…」

帽子男 @alkali_acid

「ごめんな待たせて」 戻ってくると、また請求書がない。 「あれ」 「あ、領収書でしたら」 「いや今日は俺が払うよ」 負けたくない。伊東に。俺も都市銀プロパーには及ばぬながら奢れる男としてふるまいたい。 「え、でも相談に乗っていただいてるのは僕ですし」 「いいから！」

帽子男 @alkali_acid

「いくら？」 男子はお代を答える。 「え、やっす…いやこんな高そうな店でそれはないでしょ」 領収書を見せてくる。 「やっす…この店経営成り立つの？」 まあ関係ないので書いてある額を相手に渡して終わった。威厳は見せられなかった。

帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 刀剣の男子と会ったあとはでもなんかちょっと気分が良い。女子とデートしたあとのようだ。女子とデートしたことはないが。この嬉しさを分け与えたい。 ”角煮のお礼を持ってく” と英語でベトナム人プログラマーに伝える。 ”ノーサンクス” と返事。

帽子男 @alkali_acid

「は？俺のことを餌付けした豚かなんかだとでも思ってんのか？ふざけんな恩返しぐらいするっつーの」 コーラの徳用2Lボトルを買って4本持っていった。 「これで好きな時にコーラが飲める」 ”いらない。持って帰れ” 「死ねっていうこと？ここまで持ってきただけで死にそうなんだけど？」 ”いらない”