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ベトナム人プログラマーはロン毛をかきあげていらついた調子で喋る。 ”いらないけど引き取る。とりあえず飯を持っていけ” 「え?俺のこと餌付けした豚かなんかだと思ってるの?」 なんだこの日本人デブという目を向けながらタッパーを押し付けてきた。 鳥肉をレモンぽい味の草で味付けしたやつ。
2019-01-30 18:56:41◆◆◆◆ 帰宅してベトナム料理をレンジで温めて食べ終えてしばらくすると、急にすべてが虚しくなった。 「死にたい」 女にモテたかったのに、なんで男とデートしただけでウキウキしてんの。しかも別の男目当てのやつと。 土方くんは竹刀で打ち込み用の的を激しくたたいた。
2019-01-30 18:59:29「…ぐす…」 出会い系アプリを起動。いいね!は相変わらずゼロ、ではない。 一人いた!ってベトナム人プログラマーじゃん!とっさにいいね!し返してから詰める。 「なんのつもり」 ”お前の写真笑える。国元の友達に拡散しておいた” 「キレそう…」 ”これ自撮り?” 「キレそう…」
2019-01-30 19:04:25SNSももういいや。ソシャゲしよ。 はいSSR出ない。課金をね。しないから。なぜなら出会い系アプリの方にお金がかかっているから。もうニュースでも見ようとアプリ起動。 "辻斬り魔足取り掴めず” "トランプ永世大統領、貧困世帯にハンバーガー配布。バーキンは排除" "東西刀剣展覧会巡回展示へ"
2019-01-30 19:09:13「…刀剣の展覧会か…あの子喜ぶかな…いやいやいや!!いや!」 デート誘うとか。男を。ない。 だが出会い系アプリを起動してもベトナム人プログラマーからの煽りしか表示されない。 「死にてえ…」
2019-01-30 19:11:54◆◆◆◆ 「お誘いいただいてありがとうございます」 「いやなんかほら。俺もね…剣の道に一度はたずさわったものとしてね」 適当なことを言うデブ。 東西刀剣展覧会は、名前はかっこいいが。最近亡くなったとある個人コレクターが脈絡なく集めた各国の刀剣を、遺族が適当な団体に寄贈。
2019-01-30 19:14:11引き取った方は 「お、全然無銘で価値がないやつ」 ということで保存費用に困り、 「うちで管理してる有名なのと一緒に展示して寄付も募ればあるいは」 と企画したもの。
2019-01-30 19:15:28「なるほど…死刑執行用の剣…海外にはそういうのもあるのか」 「偽物ですね。人の血を吸ってません」 「分かるんだ」 「僕、刀剣ですから」 あいかわらず刀剣設定は守ってるっぽい男子。
2019-01-30 19:17:07今日はスーツではなくカジュアル。しゅっとしてる。 若い女性が結構振り向く。そして横のデブに気づき驚愕する。 「…つら」 「どうしました?」 「いや…別に…あれ?あ…」 なんと展示コーナーの奥に伊東がいる。そう同窓の。イケメンの、むかつく元剣道部エースの。
2019-01-30 19:18:59隣の男子に教えてやろうとしてためらう。 いや素直に言ってあげよ。男が男を慕ってるだけなんだし、女が好きな土方くんには関係ないんだから。 でも、伊東と引き合わせてしまったら、もう刀剣の男子は向こうへ行ってしまう。デートできない。 「…えっと、外でお茶でも」 「見つけた」 ああだめだ。
2019-01-30 19:20:39ほかの入場者などいないかのようにまっすぐ目当ての人物に駆け寄ろうとする男子の手をすばやく土方くんは掴む。 「い、いくな」 「!?どうやって…」 やたらびっくりする男子に、へどもどするデブ。
2019-01-30 19:22:43「いや、あの…混んでるから…走るのは…」 「おいお前、何やってる」 いきなりまた伊東とは全然関係ない、目つきの鋭い男二人に寄って来られ、肩を掴まれる土方くん。 「え?」 「警察だ。お前痴漢か?」 「いやこの人、男だし…」 「最近いるんだよ。男を痴漢する男」 「ちょっと来なさい」
2019-01-30 19:25:09「すいません。その人は僕の友達なんです」 割って入る男子。 「本当に?」 こんな豚みたいなのを友達認定していいいの、みたいな眼で見る刑事。 真剣なまなざしで頷き返す男子。
2019-01-30 19:26:35男子のさわやかさと誠実さが伝わったのか、刑事二人は挙動の不審なデブを離した。 「これにこりて、いやらしいまねをするんじゃないぞ」 「してないが!?」 「疑いをもたれるようなことをやめなさいという意味だ」 「してないが!?」
2019-01-30 19:27:43悔しさに震えながらいつものカフェでコーヒーを飲む土方くん。 「男に痴漢て…失礼にもほどがある…いや女に痴漢でも失礼…痴漢呼ばわりは失礼だろ…」 「検非違使(けびいし)も民草に紛れて見張っていたのですね」 向かいの席で感心したようにつぶやく男子。
2019-01-30 19:30:42「はい?」 ケビイシ?さすがにソシャゲのやりすぎでは? いくら美人とはいえ男だし変な設定ついてるし、女が好きな身としてはそろそろお別れすべきでは。だが相手のまっすぐな視線に合うと言い出せない。 「気をつけないと」 「…え?何が?」 「今、検非違使の手に落ちる訳にはいきません」
2019-01-30 19:34:08「ケビイシて…警察のこと?」 「あの方の…伊東さんのお側へ参るまでは」 「そ、そう…」 男子の目つきがちょっと怖いので、ぶるっと震えるデブ。 「あのさ。君って、辻斬りとか…興味ないよね?」 沈黙。 「何のことでしょう」 冷え切った声。
2019-01-30 19:35:53いやな汗をかく土方くん。 「い、いやなんでもない。なんでもない。今日も俺が払うから」 息が苦しくなるのをこらえて、支払いを済ませ、それからトイレにかけこんで吸入を済ませる。
2019-01-30 19:37:19デートのあと、夜はベトナム人プログラマーにしつこく誘われて日本語の通じない団地のそばの料理屋で焼酎と焼鳥で飲んだ。向こうは知り合いとすごい喋ってたが、英語じゃないので何を言ってるか分からなかった。 "お前の出会い系アプリの写真見せたらめっちゃウケたとこ" 「キレそう…」
2019-01-30 19:40:01Nep MoiとGa nuongです。それ自体はおいしかった。 ぐでぐでに酔ったプログラマーを家まで送ったら、 "泊まってけ泊まってけ" とうるさいが吐かれたらいやだったし、まわりガイジンばっかで怖いから、ご近所っぽいガイジンの女性に預けて帰った。
2019-01-30 19:43:46刑事にめっちゃ痴漢を疑われたあとなので警察を怒らせたくなく、酔った以上は最寄り駅からママチャリに乗らず押して帰る。 「はあ…死にたい…モテたい…モテモテになりたい…死にたい…」 独りごとがはかどる。
2019-01-30 19:46:36「モテてえ…あんな刀剣設定でケビイシとかいってるソシャゲやりすぎな男子じゃなく、もっとこう…でもあんな美人はそうそういねえな…いや男だから…俺は女の子が…はあ…」 アパートに到着。いつものゴロゴロタイム。 ゴロゴロ。ゴロゴロ。トド。アザラシ。セイウチ。なんでもいい。
2019-01-30 19:48:27「刀剣なあ…あいつ本当に辻斬りじゃないよな…」 携帯を開いてニュースをチェック。ついでに色々調べる。文明の利器ゴッゴルを使って検索する。 「ぜんぜんわかんねえな…」 でも一応分かったこともある。本当に東西刀剣展覧会のコレクションの元の持ち主は殺されてた。刃物で。
2019-01-30 19:49:56