尾上先生の勉強風景 (13) ヴァンデンバーグ『エスニック現象』

尾上正人 @9w9w9w92

van den Berghe, Pierre L. (1987) The Ethnic Phenomenon, Praeger. ヴァン・デン・バーグ（と読む？ベルギー領コンゴ生）はハーバード大学で社会学の巨人パーソンズの指導院生だったが、同じハーバードの生物学者Ｅ.Ｏ.ウィルソンに触発され転向、民族・家族の社会生物学者に…現在86歳の重鎮(^ ^;)

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冒頭、ダーウィンの一節と並べて初期マルクスのパリ草稿が引用されとる(^ ^;)…「人間の科学が自然科学に包摂されるように、自然科学はやがて人間の科学に包摂されるだろう。１つの科学となるだろう」 セーゲルストローレの評価では、初期マルクスは社会生物学的で、後期マルクスは社会構築主義的だと

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「社会生物学からは、保守的な結論だけでなくリベラルな結論を引き出すことも至極簡単だ。例えばヒトの社会生物学は、人間行動の基礎的レパートリーが通文化的にいかに似ているかを強調するので、人類の統一性と『人種的』違いの取るに足りなさの紛れもない再確認として読める」x

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「進化生物学と社会生物学は、今日の多くの『ラディカル』な思考とも完全に両立する。…古典派・新古典派経済学とマルクス主義とダーウィン的進化理論は全て、マルサス、リカード、アダム・スミスの思考に知的なルーツを持っている」x

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「エスニシティと『人種』は親族の延長であり、それゆえ、集団の成員性と結びついたエスノセントリズムとレイシズムは、血縁者間のネポティズムの延長である。…我々の生物学に深く根ざしており、資本主義であろうが社会主義であろうが産業社会においてすら存続し得ると予想される」xi

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「両方のイデオロギー的伝統［リベラリズムと社会主義］は、進んだ資本主義・社会主義社会双方でのエスニック・人種的感情の存続、さらに復活を説明するのに等しく困っている。これらの感情は、両イデオロギーが予想したようには、簡単には消え失せないだろう」xi

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「ウィルソン（1978）［『人間の本性』］のような、社会生物学に新しい倫理の科学的基礎を見る人々とは異なり、私は、社会生物学の価値は、我々が倫理的に直面していることのモデルを与えることだと見ている。社会生物学は有機体を、自らの繁殖成功を最大化すべく盲目的に選択されたものと見なす」xii

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「社会生物学がその最も偉大な約束をするのは、［E. O. ウィルソンとは逆に］<反ー倫理>としてである。我々は、我々のうちにある野獣の性質を消滅させるためには、その性質を知らねばならない。もしその両方［知ることと消滅させること］がー速やかにーなされなければ、われわれは種として終わる」xii

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リチャード・アレグザンダー、ナポレオン・シャグノン、リチャード・ドーキンズ、アーヴィン・デヴォア、ウィリアム・ハミルトン、ロバート・トリヴァーズ、エドワード・ウィルソンといった錚々たるメンツに謝辞が(^ ^;)

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「知的な振り子はもう一度、環境［決定］主義の方向に振れ始めた。1920〜30年代までに米国は社会科学の中心舞台となり、人類学ではフランツ・ボアズの、社会学ではロバート・パークの学生たちが、極端な文化的な相対主義と決定論の福音を広め、それは1960年代に支配的になった」p.2.

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「社会ダーウィニズムがまずレッセフェール資本主義のイデオロギーになり、最終的にはファシズムとナチズムにその政治的表現を見出したように、環境［決定］主義と文化決定論は、第二次世界大戦での共産主義とリベラリズムの同盟の政治目的に奉仕した」p.2.

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パークのシカゴ学派の同化主義イデオロギーとマルクス主義の民族論の相同性と、それらの利用価値…全ての国家は国民国家とされ、その中にいる真の民族は「部族」として矮小化され「部族主義」はスティグマ化、第三世界の支配階級の諸々のイデオロギーは「ナショナリズム」として権威づけされた。p.3.

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「エスニック集団は今や、国連の賛同を得て抑圧され、物理的根絶の手前にあるのではないか」p.3. 手厳しい…

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「エスニシティは深い根を持つ帰属だという立場は、社会科学ではしばしば『本源主義者』とラベル付けされる。…本源主義の立場は1950～60年代には厳しい攻撃を受けた。その頃には、大部分の社会科学者たちはエスニシティを、多くの中の１つの帰属であり、環境に反応して非常に変わり得ると見なした」17

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「近年になってようやく、エスニシティの復活とともに、『本源主義的』な立場がもう一度主張されるようになった」p.17. 本源主義（primordialism）の弱点—— ①エスニック感情の根源的性質をなぜそうなのか説明しない ②エスニック感情の増減や境界の変化を説明できない。pp.17-8.

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「道具主義」ないし「状況主義」的立場…「エスニシティは、操作可能で変わり得る、［いくつも］同時に表現され、主観的に定義される何ものかであり、多くある帰属の中のあり得る１タイプにすぎない」p.18. 「［本源主義と道具主義の］両立場はともに正しく…相互補完的である」p.18.

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「私の基本的な議論はとても単純だ。すなわち、エスニックで人種的な感情は親族感情の延長である。かくしてエスノセントリズムとレイシズムは、ネポティズム——親族を非親族よりもひいきする傾向の拡張形態なのである」p.18.

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血縁淘汰（包括適応度）原理から導出される単位「エスニー（ethny）」…「エスニックな境界内の、自己を中心とした親族同心円の重なり合った群」pp.21-23. pic.twitter.com/j8wTywHpos

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「エスニーは限られた規模（通常は数百人）の繁殖集団で、大部分のメンバーは互いに血縁関係にある。…エスニックな境界は、<内婚の選好>により<社会的に>、また<領地>により物理的に創られる。…プロトタイプのエスニーは、同系交配により社会的に、領地により空間的に区切られた血縁集団である」23-4 pic.twitter.com/Br3xD7StSq

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「エスニーは、自身の集団の女たちへの性的アクセスの独占を得ることにより、互いの適応度を強化しようとする血縁関係の男たちの団体である。…男たちは他の集団の男たちから、『彼らの』『女たち』を嫉妬深く防衛し、エスニックな外婚を深く恨むが、同時に他の集団の女たちへのアクセスを求める」p.26

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「いかなるエスニーも、完全に閉じた同系交配システムではない。…女の循環…<エスニー間>で、男たちは他の集団の女たちへのアクセスを確保しようと権力や暴力を用い、それによって同系交配のレベルは下がる」p.26. まさにヤノマミ

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「エスニックなヒエラルキーでは一般に、従属集団の男たちの適応度は下がる。…男と女のエスニックな連帯は掘り崩される。従属集団の男たちは常に敗者なので、システムを転覆させることに繁殖利害を持つ。しかし従属集団の女たちにはしばしば、支配集団の男たちとの繁殖に成功する選択肢がある」pp26-7

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「親族のフィクションは、現代の産業社会ですら、エスニックな連帯が効果的になるに十分なほど信頼できねばならない。神話を創造することで即席のエスニーを作り出すことはできない。神話は、受け入れられる歴史的現実に根ざしていなければならない。エスニシティは<操作し得る>が<製造はできない>」27

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「レイシズムは、次のような時にのみ現れると予想できる。すなわち、遺伝的な表現型が集団間を区別する上で頼れる基礎になるに十分なほど外見が異なっているかなり多くの人々が、長距離の移民によって突然出現した時である」p.32. 近距離移民は表現型が似ているのでレイシズムは現れないと…本当か？

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「レイシズムは集団間関係において法則よりもむしろ例外であり、人種に根ざしたシステムは特異に紛争を抱え、不安定である」p.33. これは現代では通用せんテーゼだろう