ゴブリンとかいう害獣を正規軍で効率よく殲滅する方法

まずドラゴンを使います。
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帽子男 @alkali_acid

影にわだかまる男は口を開く。 「姿を隠す妖精の粉とやらは厄介ですが、ずっと消えていられるものでもありますまい。ほかの品は戦いにおいて脅威とはなりませぬ。守人にはか弱き女もおりませぬゆえ…しかし、こたびの生き残りのゴブリンは恐らくそれとは別口やもしれませぬ」 「ほう」

2019-02-11 20:49:02
帽子男 @alkali_acid

竜影の守人を率いる統領は、淡々と語句を紡いだ。 「ゴブリタウンに舞い戻ってきたのは、“腐肉漁りの鴉の兄弟団”とか名乗る一党。陛下が滅ぼされたゴブリンキングの子飼いの連中です」 「皆殺しにしたはずだが」 「そう考えておりましたが、ドラゴニアの栄光をねたむクレセント帝国が匿ったかと」

2019-02-11 20:51:34
帽子男 @alkali_acid

ガイゼスは美しい髭をしごいてから、今度は黒髪褐膚の麗人を引き寄せ、顎を掴む。 「このルーナの生国とな…ありえるか?古き闇を滅ぼした英雄の子孫が築いたと称する国が、邪悪の種族を匿うなど…」 「ん…ありえるでしょう…ね…皇帝…陛下なら…」

2019-02-11 20:53:17
帽子男 @alkali_acid

肩口に甘噛みを受けてか細く震えながら、かつてクレセント帝国最強の刺客、三日月の運び手として刀を振るった剣豪は答える。 「ゴブリンを滅ぼすため、国と国の垣根を超えて、皆が一つにならねばならぬという時に…なお愚かにも…いずれ思い知らせてやらねばならぬな…で、生き残りの数はどれほどか」

2019-02-11 20:55:43
帽子男 @alkali_acid

ガイゼスの問いかけに、守人の長はまた抑揚を欠いた口ぶりで話す。 「すでに配下を送り込んでおりますが。いまだ全容がつかめておりませぬ。ただ百を超えぬかと…二十か多くて五十。それ以上は天竜の見回りの目を欺けませぬ故」 「二十匹のゴブリンか。一匹でも多すぎる…我が軍の主力を当たらせよ」

2019-02-11 20:58:39
帽子男 @alkali_acid

間諜の頭目はかぶりを振る。 「お言葉ながら大軍を動かせばゴブリンどもはまたクレセント帝国に逃げ込むかと…ここは我等、竜影の守人にお任せを」 「狩れるか?そなたらのみでの狡賢い害獣どもを」 「むろん…我等こそ奴等にとってのゴブリン…必ずしとめてみせます…一匹残らず」

2019-02-11 21:00:33
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 君主のほかは、竜影の守人だけが知る秘密の通路を抜けて、頭領は仲間の元へ戻った。鱗を持つ相棒が放つ独特の体臭がこもる竜舎に、そろって黒装束の男達が待ち構えている。 「小鬼狩りの許しが出た」 「おお。いよいよ」 「最後の掃除が叶いますな」 「御頭の宿願も」

2019-02-11 21:03:19
帽子男 @alkali_acid

守人の長は剣のような視線をひとなぎして周りを黙らせる。 「お役目だ。私情は挟むな…“腐肉漁りの鴉の兄弟団”…生易しくはない」 「むろんのこと」 「油断はありませぬ」 声を抑えながらも力強い応えに、密偵の首魁はやっとうなずいた。

2019-02-11 21:05:39
帽子男 @alkali_acid

「すでに闇の国の探索で失った仲間は少なくない。こたびのお役目の場となるゴブリンタウンの廃墟は、飢えと乾きは敵とはならぬが…クレセントが後ろにいる…すでに四隊を先に遣わせたがつなぎが遅れている…こたびは私が自ら赴き、采配をとる」 「御頭が…」 「いよいよぬかりがあってはならぬ」

2019-02-11 21:09:06
帽子男 @alkali_acid

ドラゴニアを闇から守ってきた誉れなき戦人は厳かに顔を見合わせる。 「我等今使える走竜はすべて引き出す」 「天竜の騎士にも空からの援けを得ようぞ」 「だがおおげさになってはならぬ。クレセントの物見に気取られる」 「しかし二十のゴブリンを殺しつくすには十分にすぎる兵をそろえるべし」

2019-02-11 21:11:13
帽子男 @alkali_acid

男達は意を通じ合わせると、さっそく用意にかかった。

2019-02-11 21:12:02
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 「びぇーっくしょ」 ゴブリンタウンの精鋭、腐肉漁りの鴉の兄弟団の生き残り、ボルボは土を運ぶ手を止めてくしゃみをした。 「ギイ…やになるぜ。世の中うっとうしいことばっかだ。どっかもっとゴブリンに優しい土地で、気楽に盗んだり殺したり犯したりしてえもんだ」

2019-02-11 21:14:09
帽子男 @alkali_acid

「ぼ、る、ぼ」 「ボルボの判断は意味不明。有用な道具を埋設しては作戦行動に支障の可能性」 どこか少年を思わせる、触手を束ねた妖怪と、上半身が女で下半身が蜘蛛の化物がそろって声をかける。 「ギイ!!このオークの血とかいうのがあるとあんたらが盛って仕事にならねえからだろ!」

2019-02-11 21:15:43
帽子男 @alkali_acid

ゴブリンは言い返すと、土をかけたあたりを腹立たしげに踏み固め、上から枝と草をかけた。 「だいたい好きなおべべが作れる織機だの、腹がいっぱいになる豆の苗だのだって、便利は便利でも、これからやる盗みの役にゃ立たねえ!あの竜の王様にとられずに済んだお宝の中で、使えるのといったら」

2019-02-11 21:18:26
帽子男 @alkali_acid

「ギ…気配を消す妖精の粉だけだ。これだって無駄遣いはできねえ。ほら、必要なだけまぶしたらさっさと行くぜ。ドラゴニアだのクレセントだの、おっかねえ人間の大戦士に見つかったら、ぶった切られるに決まってんだ。急いで盗んで、さっさとずらがる!」

2019-02-11 21:20:22
帽子男 @alkali_acid

ボルボは煌めく粉を連れの魔性二匹に振りかけると、自分の緑の禿頭にも散らしてから進む。 「いいか。おいらの考えじゃ、この妖精の粉ってのは姿が見つかりにくくなるだけじゃねえ、音も匂いも隠してくれる…なんていったらいいか…そこにいねえような…まあとにかくだ。優れもんだが限りはある」

2019-02-11 21:22:36
帽子男 @alkali_acid

講釈を続けながらも、三匹の怪物は、獣じみた素早さで焼け落ちた街へ向かってゆく。 「妖精の粉が吹き飛ぶようなまねを自分からしちゃならねえ…例えば…おいら達ゴブリンだったら、うまく隠れて近づいてくる斥候をひっかけるためにまぬけ騙しって罠を…」

2019-02-11 21:24:51
帽子男 @alkali_acid

道の真ん中に手足を切り落とされ、鼻と耳をそがれた人間が木の杭に縛り付けてある。 「ギヒヒ…ああいうのさ」 ボルボは指さす。血のにじんだ黒装束からは素性は知れないが、どこかの兵士であろう。逞しい体つきをしている。まだ生きている。 「ギヒ…面白ぇ…でもよ」

2019-02-11 21:27:34
帽子男 @alkali_acid

「人間てのはどういう訳かああいうのを見ると近づいて助けたくなるらしい…意味が分からねえがギヒヒ」 「社会性動物の心理としては妥当」 「ぼ、る、ぼ」

2019-02-11 21:28:53
帽子男 @alkali_acid

触手の少年がいきなり肉蔦を伸ばして、呻吟する兵士に巻き付かせた。 「ギイイイ!!?」 「ご、は、ん」 「何やってやがる!!!!」 ゴブリンが止めるまもなく、ローパーはおいしそうな生餌を杭からもぎ取る。

2019-02-11 21:31:06
帽子男 @alkali_acid

たちまち爆風とともに悪臭ふんぷんたる煙があたりを包み、小鬼を猛烈にせき込ませる。 「ギイイイ!!!ゲホゲホゲホ!!ギイイイイイ!!!」 急ぎ絹布を引き出し携行する筒の水で湿して裂けた口と鼻をおおう。 「ギギ…ムッゴゴ…ギ…」 転がりながら場を離れようとする。

2019-02-11 21:33:34
帽子男 @alkali_acid

「ボルボ、敵襲」 「ご、は、ん」 相変わらずの連れ二匹にかまっていられるかと一人遁走しようとしたところで、目の前に短箭が突き刺さる。 「ギ!?」 鏃は不吉に変色し、いやらしい棘の返しがついている。明らかに小鬼の武器だ。

2019-02-11 21:35:31
帽子男 @alkali_acid

「ボルボ。包囲された。強行突破を提案」 「ご、は、ん」 我関せずと捕えた人間を生きながら貪り食う触手の少年と、糸を吐かなんとする態勢の蜘蛛の少女。だが緑肌の若者は慌てて叫んだ。 「降参!降参!降参だ!命ばかりはお助けを!」

2019-02-11 21:37:20
帽子男 @alkali_acid

這いつくばって命乞いを始めるゴブリンに、ほかの二匹の怪物はおとなしく従う。 「ギヒ、ギヒヒ、あわれなゴブリンをいじめねえでくれ…おいらはただ通りがかっただけで…」 焼け跡に繁茂するようになった丈の低い灌木をかき分けて、しゃがんだまま弓を構えた同族が器用に歩いて来る。

2019-02-11 21:39:34
帽子男 @alkali_acid

「ギ…こいつぁ」 「ボルボ…ついてこい」 腐肉漁りの鴉の兄弟団の手練れは、そう見習いに命じて向きを変えると元来た方角とは別の場所へ足音も立てずに駆けてゆく。 「ひえ…よりにもよって…一番めんどうなのに会っちまった…」 がっくりうなだれた下っ端ゴブリンは仕方なく後へ続いた。

2019-02-11 21:42:25
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