日向倶楽部世界旅行編第76話「それぞれの想い」

準決勝の前日、伊勢という危険な存在に頭を悩ませる日向の元に、扶桑が訪れる。
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三隈グループ @Mikuma_company

そんな風にしばらく、二人は静かに笑っていた。やがて、扶桑はスッと立ち上がる。 「あまり長居しては明日に響くでしょう、私はそろそろ失礼します。」 「そうか。じゃあ、また明日。」 「ええ、おやすみなさい。」 短くやり取りをすると、扶桑は部屋の外へ向かう。

2019-03-05 21:33:39
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だがドアの前で立ち止まると、振り返って言った。 「…日向、貴女には大切な人達がいるでしょう。その人達は、貴女が思っているのと同じくらい、貴女を大切に思う人達です。それを忘れないで。」 「ああ…分かった。」 日向が頷くと、扶桑は穏やかに微笑み、もう一言言った。

2019-03-05 21:34:57
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「私もその一人です。何かあれば、いつでも気軽に話すのですよ。」 彼女はそう言い終えると、おやすみなさい、と言いつつ、ドア枠に頭をぶつけながら部屋を後にした。 部屋はまた、日向一人になる。静かになった部屋の中、彼女はぽりぽりと首筋をかく。

2019-03-05 21:36:14
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「やれやれ…心配かけまいとしても、すぐに悟られてしまう。皆よく私を見ているものだ…敵わないな。」 日向は部屋で一人はにかみながら、ベッドにごろんと横になる。 「準決勝…勝たんとな。」 自分に言い聞かせるように、彼女はぼそりと呟く。その日は、いつもよりよく眠れた。 〜〜

2019-03-05 21:37:57
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〜〜 翌日、デスメタルピースとWヴィーストによる準決勝第一試合が終わった。 (最上達は勝ったか…) 控え室で試合速報を聴きながら、日向は心を落ち着ける。勝てば、決勝戦でこの大会二度目となる最上達との試合だ。 だがそれは、勝てばの話である。

2019-03-05 21:40:25
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日向を待ち受ける準決勝の相手は、横須賀鎮守府親衛隊の横須賀利根姉妹。 隊長の利根は、晴嵐の波紋使いとして凄まじい実力を誇っている。また、妹にして副長の筑摩も同じく強いと言われている。 要するに日向の相手は、強敵中の強敵、これまでで最も厳しい戦いとなるだろう。

2019-03-05 21:42:05
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(利根と筑摩か…山城は今、何をしてるんだろうな) 山城、連絡のつかない親友をふと思い出し、日向の意識が試合から逸れる。 そうしていると控え室のドアが開き、伊勢が飄々とした態度で入ってきた。 「にひひ…相変わらず早いねぇ」 挑発する様に、彼女は日向の肩に手を置く。

2019-03-05 21:43:06
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「…ああ、そうだな。」 それに日向が落ち着いて答えると、伊勢は意外そうな顔をした。 「おやおや、今日は機嫌が良いのカナ?」 彼女がおどける様に首を傾げて言うと、日向は素っ気なく返す。 「…お前の相手も慣れた、そんなところだろう。機嫌は普通だ。」

2019-03-05 21:44:46
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伊勢の挑発に激昂していた様とは違い、落ち着き払う日向。伊勢はそんな彼女を、やはりニヤついた笑みで見て言った。 「へぇ…まあ、今日もよろしく頼むよ〜?」 彼女はそう言うと、その笑みを浮かべたまま、低い声で言った。 「今日は特に大事なんだ…全力で、戦ってよね…」

2019-03-05 21:45:48
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その声はいつもと違う、刻み込む様な声だった。しかし、日向は普通に返す。 「…そのつもりだ。」 日向が答えると、伊勢のそれはまたへらへらとしたものに戻る。 「にひひ…よろしく頼むよ、ひゅうがちゃん。」 伊勢はそう言って、椅子にだらりと腰掛ける。試合開始は、もうすぐだった。 〜〜

2019-03-05 21:47:14
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〜〜 放送席。 「さあ準決勝第一試合が終了し、スタジアムはこれより第二試合の舞台となります。」 ケン・ホリウチは空の紙コップを脇に退け、続ける。 「第二試合はEリーグ一位の横須賀利根姉妹とCリーグ二位のなかよし伊勢型というカードとなっています。」

2019-03-05 21:48:25
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ケンは続ける。 「第一試合はCリーグ一位のWヴィーストが勝利を収めています。第二試合でなかよし伊勢型が勝利した場合、決勝ではCリーグ同士の再戦が行われますねぇ。この試合どう運ぶのか、目が離せません!第二試合も引き続き、三隈さんと武蔵さんに…」 〜〜

2019-03-05 21:49:53
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〜〜 試合が始まった。 艦娘を長くやっていれば、出撃には慣れる。大会を準決勝まで進めば、試合開始にも慣れる。ドックで待機し、試合開始のブザーを待つ時間など、意識しなければ一瞬だった。 「横須賀利根姉妹…本領は接近戦だが…」 海を駆けつつ、日向は呟く。

2019-03-05 21:51:08
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利根と筑摩の戦いは、故あって何度も見ていた。その強さも戦い方も、この大会の出場者の中ではよく知っている部類だ。 (これまでの試合の録画を見る限り、以前から大きな変化はない…警戒すべきは接近後の一撃、距離を取って戦うのが正解か…) 日向は主砲を素振りする様に動かし、前を睨む。

2019-03-05 21:52:36
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利根姉妹は機動性に優れる、艦載機だけで制圧するのは不可能だろう。こちらの砲撃の間合いに入り、持てる全てで向かわなければジリ貧となる。 だが近づき過ぎれば、取り付かれてあっという間にやられかねない。艦娘同士の戦闘において近接戦闘能力というのは侮れない要素、極まっているなら尚更だ。

2019-03-05 21:54:16
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(結局、強い方が勝つ…力量勝負か。) 強敵だが、負けるつもりはさらさらない。日向は身体に力を込め、相手の動向を伺いつつ速度を徐々に上げていく。 伊勢もそれと同様、日向の隣を進んでいく。各個撃破されぬよう、相互支援の行える距離を維持した陣形で進んでいく。

2019-03-05 21:56:08
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だが、戦闘の予兆はすぐに現れた。偵察に出していた瑞雲が、正面に艦載機群を察知したのだ。 「広範囲にバラけているな…」 艦載機群は広い範囲を制圧する様に広がっている。こちらへ攻めようとするのではなく、網を張ってジリジリと押していくような動きだ。

2019-03-05 21:57:12
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その数は日向達の艦載機を上回る数、艦載機同士の戦闘は良くて痛み分けになるだろう。 (攻め手が減れば、機動力に優れる向こうが優位に立つ…無闇な消耗は出来ん…) 日向は前進しつつ、思考を巡らす。相手は近接戦特化、ペースを握られればあっという間にこちらがやられる。

2019-03-05 21:58:23
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(攻めようとすれば、攻める意識の虚を突かれる可能性もある…守りを固めるのがベターか…) 日向は策を講じ、伊勢へと言った。 「伊勢、ここは守りを固める…迎え撃つぞ」 彼女がそう言うと、伊勢は日向をちらりと見て、口角を上げる。 「そうだねぇ…それが良いかも、しれないねぇ…」

2019-03-05 21:59:22
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その笑みには不穏さもあったが、日向は気付いていない。 ともあれ、伊勢は日向の提案を受け入れ、瑞雲を展開しつつ迎撃態勢を取る。 (さて…随分遠回りをしたけど、良い機会に恵まれたね…) 伊勢はジッと前を見据えながら、その時を待つ。 〜〜

2019-03-05 22:00:42
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〜〜 日向達が待ち構える一方、その彼方では横須賀利根姉妹が前進していた。 「相手は待っているようじゃな…我輩達をよく見ているという事よ。」 利根は鋭い目で前を見ながら、落ち着き払って言った。 利根の艦載機攻撃を警戒し、接近して速攻をかけようとする者は多い。

2019-03-05 22:01:47
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だがそういった者達は大抵、利根に接近戦を仕掛けられて討ち取られる。無論、そうしなかったとしても、未熟な者では艦載機攻撃の時点で勝負がつく事も多い。 艦載機攻撃を捌ききる力量、待つ事を選ぶ判断力、そして接近戦への対応力…利根と戦うにはそれらが求められる。

2019-03-05 22:02:51
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だから利根は強かった。常識破りの実力を持つ彼女に対し、生半可な策や力比べは通じないのだ。 ここまでの試合、利根は常に圧倒していた。ベスト8での長門でさえ、実力差は歴然と言わざるを得ない戦いを強いられ、敗北した。 無敵、ここまでの利根にはその言葉がよく似合う。

2019-03-05 22:04:58
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利根は拳を握り、姿勢を低くする。 強力な晴嵐の波紋と優れた身のこなしは、彼女の徒手空拳を兵器へと変貌させる。背中の飛行甲板もあり、彼女の姿は海の精霊の様だ。 そんな利根は、並走する妹の筑摩に向けて言った。 「筑摩、敵は待ち構えておる。我輩が先陣を切り、これを切り崩そう。」

2019-03-05 22:06:12
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正面から切り崩す、それは一見すると無策な突撃だったが、利根程の実力があればその行為そのものが策として成立する。 その策を通すべく、利根は速度を上げようとする。しかしそれを、筑摩が止めた。 「姉さん、私が行くわ。」 「何じゃと?」 利根が驚いて訊くと、筑摩はもう一度言う。

2019-03-05 22:07:43