日向倶楽部世界旅行編第76話「それぞれの想い」

準決勝の前日、伊勢という危険な存在に頭を悩ませる日向の元に、扶桑が訪れる。
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三隈グループ @Mikuma_company

「奴は何か知っているらしい」 「本音を言えば、今すぐにでも止めたいところです」 「良い機会に恵まれたね」 「私もその一人です」 「私だってもう、艦娘として戦えるわ!」 「たった一人の妹なのじゃぞ」 「あれから何処まで研究を進めたのか、よーく見させてもらうよ」 日向倶楽部、この後21:00! pic.twitter.com/GbUUbKcxqL

2019-03-05 20:46:25
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【前回の日向倶楽部】 扶桑です。 準決勝第一試合が終わりました。激しい戦いでしたが、最上さんと足柄さんは無事勝利し、決勝戦へと駒を進めます。 それにしても、対戦相手の加賀という人の歌は、初めて聴く様な荒々しい歌でした。最近はああいう歌もあるのですね、今度映画だけでなく音楽も色

2019-03-05 21:00:20
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【前回の日向倶楽部その2】 艦娘になる、それに特殊な事は必要ない。しかし艦娘になれば、初めての事を多く経験する。その新鮮な経験は時に、人を変えてしまう事だってあるだろう。 その変化が良いものか悪いものか、決めるのは誰なのだろう?否、決められはしないだろう。誰も、彼も、自分自身さえ…

2019-03-05 21:01:03
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日向倶楽部 〜世界旅行編〜 第76話「それぞれの想い」

2019-03-05 21:02:33
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〜〜 準決勝前日、日向はホテルで一人、休んでいた。 「次勝てば、決勝か…」 不本意ながら伊勢と共に戦ってきた大会も、残すところ二試合。ここまでの試合、ひどく苦戦したものは一度も無かった。最上達に一敗したが、概ね順風満帆といったところだ。

2019-03-05 21:03:35
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その理由…日向が強かったというのもある。だが間違いなく、伊勢の力によるものも大きいだろう。 伊勢は危険な人物だ、しかし戦力として見ればこれ程心強い者も居なかった。 最悪の人間にして最高のパートナー、この大会における伊勢は、日向にとってそういう人物だった。

2019-03-05 21:04:39
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(優勝すれば、鼓動と波紋の情報を教える…奴はそう言っていた。) 彼女は伊勢との約束、そして脅迫を思い出す。この大会で優勝する、伊勢の提示した条件はそれであり、日向が果たさなければならない条件だった。 だがそれに、彼女はずっと疑問を抱え続けている。伊勢の目的が、何なのかと。

2019-03-05 21:05:52
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(この大会で優勝…奴は何が狙いなんだ?金目当てなら、賞金などよりも稼げる仕事を奴は見つけるはずだ。この目立つ場所で、一体何を企んでいる…?) この大会の賞金は破格だ、獲得すればしばらくは寝て暮らせるだろう。しかし、あの強さと残虐さを持つ伊勢が、そんな動機で動くのか疑問であった。

2019-03-05 21:07:11
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何が目的なのか、日向は思い悩む、答えは未だ出ていない。 するとその時、部屋のドアが、コンコン、とノックされた。 「こんばんは、日向。」 ノックの主は扶桑であった。 「ああ…キミか。どうかしたか?」 見上げる程大きな彼女を招き入れながら、日向は微笑んで言った。

2019-03-05 21:08:43
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「いえ、用という訳ではありませんが、少しお話をと。」 扶桑は前屈みになって部屋へ入ると、着物をふわりとさせながら椅子へ腰掛ける。 「何か飲むか?」 「いえ、大丈夫ですよ。」 扶桑の答えを聞くと、日向もベッドにどっかりと座る。

2019-03-05 21:09:51
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そしてすぐ、扶桑が口を開いた。 「…明日は準決勝ですね。」 「ああ、そうだな…」 日向が何気なく答えると、彼女は一呼吸置いて訊ねる。 「…大丈夫ですか?」 「何がだ?」 突然の問いに、日向は軽く笑いながら反応する。質問の意味に心当たりはあったが、表には出さなかった。

2019-03-05 21:11:56
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そんな彼女に、扶桑は諭す様に言った。 「…大会が始まってからの貴女は、随分思い詰めているように見えます。それが心配なのです。」 「別に、そんな事はないが…」 日向が誤魔化して言うと、彼女は首を横に振る。 「予選で最上さんと当たった時、心配していたでしょう?」

2019-03-05 21:13:11
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彼女の言葉に、日向は頷く。 「そりゃあ心配だったさ…。でも、その心配も今はない、別に悩む事など無いよ。キミの方こそ心配し過ぎなんじゃないか?」 日向は笑いながら、口調を明るくして言った。しかし、扶桑は退こうとしない。 「組んだ相手が相手です、心配するのは当然でしょう。」

2019-03-05 21:14:59
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彼女の言う組んだ相手、つまりは伊勢だ。 これまで、一行は伊勢と何度か交戦していた。 それはいずれも命に関わる戦い、伊勢は、強さを命にぶつける確かな殺意を持っている。危険視するのは当然だったし、何も言わずそれと組んだ日向を、扶桑が心配するのは無理もなかった。

2019-03-05 21:16:52
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「何か考えあっての事というのは承知しています…しかし、考えがあるという事と抱え込む事とは違います。今の貴女は後者、だから心配なのです。」 彼女の言葉に、日向は黙り込む。 「…話してはいただけませんか?何故、貴女が彼女と組んだのか…それによって、どんな利があるのか。」

2019-03-05 21:17:53
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扶桑の、宝石を思わせる真っ赤な瞳が日向を覗き込む。 日向は少し考え込んだ後、口を開いた。 「瑞雲の鼓動、晴嵐の波紋…それについて、奴は何か知っているらしい。」 「波紋を…」 扶桑がそう言うと、日向は頷く。 「この力、一体何なのか…助けられてはいるが、未だ何も分からん…」

2019-03-05 21:19:16
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瑞雲の鼓動には、最上も日向も助けられていた。だがその詳細はおろか、断片的な事すら分かっていない。 「万に一つという事がある…少しでも情報が欲しいのだ。たとえ、眉唾な出所だとしても…手がかりにはなるかもしれん。」 日向の言葉を、扶桑は黙って聞いていた。

2019-03-05 21:20:40
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日向は続ける。 「キミや横須賀にとっても、鼓動…いや、波紋についての情報が集まるのは悪い話じゃないはずだ。だから奴と組んでいる…危ない橋だとしてもな。」 その言葉には、強い覚悟と意志があった。 「…そういう事でしたか。」 彼女の言葉を聞き入れ、扶桑は静かに頷く。

2019-03-05 21:22:13
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日向の行動は、危ない橋という言葉で済ますにはあまりに危険だった、博打と言っても良いかもしれない。それを思いつつも、扶桑は口を開く。 「…そういう事なら、致し方無いのかもしれませんね。貴女の意思を尊重して、見守る事としましょう。」 彼女は重々しく言うと、日向の手を取る。

2019-03-05 21:23:17
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「しかし、これ以上一人で何とかしようなどとは思わないで下さい。何かあれば、その兆候があれば、必ず言うのですよ。」 彼女の大きな手が、日向の手を包み込む。 「…ああ、約束する。」 手を包まれながら、日向はこくりと頷いた。その反応を見て、扶桑はゆっくりと手を離す。

2019-03-05 21:24:29
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そして目を逸らしながら、哀しげな表情で言った。 「…本音を言えば、今すぐにでも止めたいところです。貴女を上手く言いくるめられるだけの賢しさがあれば、そうしていたでしょう。」 「…すまないな。」 彼女の言葉に、日向はぽつりと呟く。

2019-03-05 21:25:52
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すると扶桑は、向き直って言った。 「…バヌアツに行った時を、覚えていますか?」 その問いに、日向はすぐ答える。 「ああ…もう、随分前だな。」 バヌアツ、日向達が三番目に訪れた国である。そこまで前の事では無かったが、日向には不思議と懐かしく感じられた。

2019-03-05 21:27:33
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扶桑は言う。 「あの時もそうでしたね。貴女は一人、俯いて…普段が明るいから、すぐに分かる。」 「参ったな…そんな分かりやすいのか」 日向が苦笑いすると、扶桑はクスクスと笑った。 「ええ…多分。貴女自身が思ってるより、貴女は表情豊かな人です。」

2019-03-05 21:28:55
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彼女は穏やかな表情でそう言い、目を閉じる。 「もう、貴女達と知り合って随分と経ちました…旅の日々は、とても楽しい…」 扶桑はしみじみと呟く。旅を始めた頃は、扶桑の強い力や守護神という立場から、日向達との間で少なからず隔たりというか、遠慮の様なものがあった。

2019-03-05 21:30:56
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だがそんな時期は、もう遠い昔に思えるほど、皆と扶桑の距離は縮まっていた。皆、気軽に彼女と言葉を交わしたりしている。 「私も楽しいよ。上手く言えんが、キミといると和やかな気分になる。」 日向は笑みを浮かべて言った。友人として随分親しくなったものだと、感慨深く思えた。

2019-03-05 21:32:32