ストレイトロード:ルート140(40周目)

オリジナル短編「ストレイトロード」のコンビが毎日お届けしている、掌編という名の習作。今回は1951~2000。 終盤のリクエスト回を除き、共通のテーマとして「金属・鉱物」を設定していました。 今後も引き続き1日1組つぶやいていきます。 続きを読む
0
前へ 1 2 ・・ 6 次へ
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

狭い棚に大小の結晶や鉱石が並ぶ。どれも日用品の器や瓶の中に収まり、採取日と場所を記した板が添えられていた。「こういうインテリア欲しい」「適当にその辺の物に入れただけだよ」藍の率直な感想に持ち主が答えた。「薬の瓶に水銀を入れたときはさすがに叱られたけど」「え?」説明すべきか迷った。

2019-02-04 18:47:15
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、1963。水銀。 どちらかというと教養の問題。

2019-02-04 18:47:15
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

綺麗な水を求めて山間に建てられた工場が、その環境を求めて集まったクリーチャーの巣箱になっていた。繊細な部品の製造ラインには異形の足跡と攻防の痕跡が刻まれている。侵入に抵抗した作業員達がいたらしい。「必死に戦ったのね」藍が歪んだ板を拾ってプレス機に立てかけた。壊れた盾に見えてきた。

2019-02-05 19:12:30
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、1964。製造。

2019-02-05 19:12:31
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

工場の裏に回ると、成形済の板が無造作に積み上げられ雨を浴びていた。ある回路素子の生産が途絶えた為に製品を造れなくなり、行き場のない部品がここに集められたという。「替わりになる物なかったの?」造る時間も金もなかったはずだ。髪一本分の誤差も許されない工程、と言って藍に伝わるだろうか。

2019-02-06 18:49:12
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、1965。素子(そし)。 本当はもっと細かい。

2019-02-06 18:49:12
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

旧校舎の最上階は屋根も壁も崩れ、辛うじて残る梁には不自然なたわみが生じていた。そこに乗ってこちらを見下ろす怪鳥を想像しただけで頭の奥が冷える。『何がある?』「人の持ち物は、何も」足元には羽毛に混じって食い散らかされた肉片や包み紙も転がり悪臭を放っている。藍が同行を拒否するわけだ。

2019-02-07 18:56:50
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、1966。たわみ。

2019-02-07 18:56:50
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

小さなコマがレールの上を浮遊したまま往復している。超伝導の仕組みを簡素化した実験装置を藍は興味深そうに鑑賞し、珍しく私の解説を素直に聴いてくれた。だが本当に驚くべきは装置が稼働していること。液体窒素は昔より貴重で高価になった。常温でそれを補う手段が確立されたなら大発見のはずだが。

2019-02-08 18:54:04
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、1967。超伝導。 現実に一部で実用化されてはいるけど、その活躍と発展にはたくさんのテクノロジーと安全な(少なくともクリーチャーの踏み台にされない)環境が不可欠なわけで……

2019-02-08 18:54:05
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

木に引っ掛かった高級車の中に人がいる。車体の真上まで登った藍に鎚を投げ渡した直後、腕を掴まれた。「やめろ!それ以上傷をつけるな!」車の所有者が叫んだ。藍は下を向き、わざわざ目を合わせて懇願を聞いてから、無慈悲に鎚を振り下ろした。三度目でガラスが砕けた。悲鳴への反応は全くなかった。

2019-02-09 19:13:21
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、1968。鎚(つち)。 ヘッドの素材によって漢字を使い分けるそうで。

2019-02-09 19:13:22
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

崖下の窪地に鉄屑の山が築かれていた。「もったいない。高く売れるのに」資材不足の時代に育った藍は首を傾げ、私は後ろめたい事情を想像した。山奥とはいえ金になる鉄屑を誰も嗅ぎ付けないのは不自然だ。「あれ見て」運搬車が崖下でひっくり返っていた。指した藍にはその下に散った骨も見えるらしい。

2019-02-10 19:22:31
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、1969。鉄屑。

2019-02-10 19:22:31
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

世界各地の貨幣を収めた額縁には、藍が先日見つけた一枚も加わっていた。各々に刻まれた数字そのものが財産の価値ではない。「あれは何?」壁にはコインの意匠や来歴をまとめたポスターも貼られていたが、部屋の端に飾られた古い銅貨にはそれがなかった。「最初に稼いだ金だ」収集家の顔が一瞬緩んだ。

2019-02-11 19:26:11
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、1970。銅貨。

2019-02-11 19:26:11
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

村の担い手達が幼かった頃、高台に設置された鐘は憧れの一つだった。こっそり櫓を登って勝手に鳴らし、きつく叱られたという。「わかる」うなずいたのは藍だけで、当人やその子供の表情は暗い。最近は村を襲う災厄が自力で鐘を鳴らしてくれる。撤去したくても近づけない。「それでわたしを呼んだのね」

2019-02-12 19:39:49
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、1971。鳴らす。

2019-02-12 19:39:50
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

「資源不足って言うけど、案外そうでもないよ」都市の片隅で出会った整備工は奇抜な二輪車を持っていた。彼は処分場に通い、廃棄物から部品をかき集め、自力で愛車を造ったという。「そんなに使える部品があったの」「使える物は売った。値がつかない奴を直して組み立てた」藍の目が説明を求めている。

2019-02-13 19:25:13
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、1972。二輪車。

2019-02-13 19:25:14
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

辛うじて原形を留める壁には包丁が刺さっていた。その柄もまた壁紙や家財道具と同じ色合いの花柄で、家主の物に違いないとの見解は藍と一致した。「料理の途中だったのでしょうか」「抵抗しようとしたのよ」藍が指した床に足跡が残っている。三角形の陥没が踏み潰した花はよく見ると模造刀の柄だった。

2019-02-14 19:04:37
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、1973。柄(え/がら/つか)。

2019-02-14 19:04:38
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

『きっとキミの役に立つよ』車の屋根に乗っていた贈り物は蒸気機関の本だった。藍が操る対象が空気そのものと仮定すれば、その能力で動くエンジンが作れる。手紙の主はどんな魔女を見たいのか。「本当に役立つ?」「熱力学を学べば、あるいは」入門書なら彼女の親に言えば喜んで買い与えるに違いない。

2019-02-15 18:54:59
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、1974。熱力学。 日本では高校生になってから(物理を履修すれば)触れる範囲。その手前で既に苦手だとちょっと険しい。

2019-02-15 18:54:59
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

「何かの延べ棒がそこに積まれた状態は見ました」「曖昧な言い方でごまかすな」棚を指す私に警官が詰め寄る。盗まれるまでそれが純金と知らなかったのは事実だ。「本物と偽ってチョコレートを渡された経験があったので」最近騙された話を正直に説明すると、隣で藍が嫌な笑みを浮かべた。警官は黙った。

2019-02-16 18:44:21
前へ 1 2 ・・ 6 次へ