日向倶楽部世界旅行編第79話「一人の世界、不変の刻、それでも貴女に手を伸ばす」

絶対にやり遂げたい事、永遠に忘れられぬ気持ち。今はどうにもならない、止まった刻の中、足柄は言葉を紡ぐ。
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三隈グループ @Mikuma_company

「やめろォォォッ!」 「そんなに私が信用できませんか…!?」 「失礼しちゃうなぁ…」 「ビールは美味しいんだよなぁ…」 「まだ隠し玉はあるんじゃないの?」 「那珂?夜にごめんなさいね」 「貴女はとても強いから」 「…だから、見て頂戴、那珂。」 日向倶楽部、この後21:00! pic.twitter.com/eCx4wEh9AG

2019-03-27 20:45:35
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日向倶楽部 〜世界旅行編〜 第79話「一人の世界、不変の刻、それでも貴女に手を伸ばす」

2019-03-27 21:01:22
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〜〜 「ここは…?」 日向はふと、目を覚ました。白いベッドの上、ここは医務室の様だ。 「確か私は、戦いに敗れて…」 頭がボーッとする、上手く考えられない。日向は目を擦り、考えを整理しようとする。 すると、誰かの声がした。 「あ、気が付いた!」 それは女の声、聞き覚えがある。

2019-03-27 21:02:47
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声のした方を見ると、窓際に女の背中があった。彼女は背を向けたまま、窓の外を見ている。 「お前は…」 日向はその背をぼんやりと見る。そこへ女は、振り返らずに言った。 「ふふっ、ぼんやりしてどうしたの?」 そう言った瞬間、彼女は忽然と消えた。 「なっ…!?」

2019-03-27 21:03:48
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日向は驚いてベッドから立ち上がる。その時急に、彼女の首に細い手がかけられた。 「ねえ」 凍り付く日向の耳元で、女が囁く。 「また、死ンジャウヨ?」

2019-03-27 21:05:19
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〜〜 「やめろォォォッ!!」 絶叫と共に、日向は目を覚ました。そこは白いベッドの上、何処かの医務室であった。 「ここは…ここは…!?」 肩で息をしながら、日向は辺りを見回す。そんな彼女を、心配そうに何者かが見つめていた。 「大丈夫ですか?」 聞き覚えのある声が問いかける。

2019-03-27 21:07:00
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日向は思わず身構える、また、恐ろしいものが居るのではないかと思ったからだ。 「ハァ…ハァ…!」 その声の主が扶桑であると分かっても、彼女は怯える様にベッドの上で後ずさる。様子のおかしい日向に、扶桑はそっと訊ねた。 「日向…大丈夫ですか?嫌な夢を見ていたのですか?」

2019-03-27 21:08:27
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彼女の問いに、日向はコクリと頷く。 「ここは…ここは何処だ、キミは本当に扶桑か?」 息を荒げ、震える声で彼女は問う。そこに普段の頼もしい姿は無い、日向はまるで別人の様であった。 その震える彼女の手を、扶桑はそっと手に取る。 「大丈夫…ここはブルネイ泊地、貴女の現実よ…」

2019-03-27 21:09:47
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扶桑の大きな手は、日向の手をすっぽりと包み込む、すると日向はいくらか落ち着いた様に、深く呼吸をした。 「ハァ…ハァ……すまない…ちょっと、動揺していた様だ…」 落ち着いた日向は、呼吸を整えつつ言った。だがすぐ、ハタと思い出した様に口を開く。

2019-03-27 21:11:16
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「…ッ!そうだ…試合は、試合はどうなった!?」 焦燥して言うと、扶桑は首を横に振る。 「残念ながら、貴女達の負けです…でも…」 そこまで言って、彼女は日向の健闘を讃えようとする。しかし日向はその言葉を聞く前に、ベッドから飛び起きた。 「負けたのか…私は…!?」

2019-03-27 21:12:48
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彼女はそう言いながらベッドを這い出し、おぼつかない足取りで外へ出ようとする。 無論、扶桑は慌ててそれを止める。 「待ちなさい、まだ安静にしていなければ…」 「うるさいッ!奴が、奴が来るんだ、負けたから!刀は何処だ、拳銃でも良い、武器を寄越せ!」

2019-03-27 21:14:19
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壁に身体を打ち付けながら、外へ出ようとする日向。されどその動きは止まる、彼女の手を扶桑が強く握ったからだ。 「離せ!行かなければ…」 日向は抵抗し、前に進もうとする。そこへ扶桑は、声を荒げて言った。 「日向!いい加減にしなさいッ!」 彼女は日向の腕を引き、自身の方へと引き寄せる。

2019-03-27 21:15:28
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「貴女、私の話を何も聞いていなかったのですか!?そんな身体で、一体何を守ろうと言うのです!」 「もう動ける、私は平気だ!」 声を張り上げる扶桑に、日向も負けじと言い返す。だが扶桑は、そんな日向の目を深く覗き込む。 「日向…!貴女、そんなに私が信用できませんか…!?」

2019-03-27 21:16:39
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静かに、しかし迫力のある言葉が日向にぶつけられる。 「私は横須賀の守護神、扶桑です…暴力は嫌いですが、私は強いのです…分かりますか…!」 扶桑の大きな手は日向を包み込み、ガッシリと掴んで逃さない。彼女の気迫に、日向は反論も出来ずに黙っていた。

2019-03-27 21:17:56
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扶桑は続ける。 「…私だって旅の一員なのです、怪我をした貴女に何もかも押し付けて傍観するなど、私自身が許しません。」 真剣な眼差しの彼女を、日向は黙って見つめる。その強い視線は、彼女を押さえつけるようでもあった。 扶桑はそんな彼女を軽々持ち上げると、ベッドにポンと寝かせた。

2019-03-27 21:19:28
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そして布団を被せ、言い聞かせるように言った。 「…危険が迫っていると、伊勢が来ると言うのなら、私はこの力の一切を出し惜しみせず、貴女の大切なものを守るわ。だから今、貴女はゆっくりと身体を休めてちょうだい…良いわね?」 珍しく砕けた口調で言った彼女に、日向は唇を噛んで頷く。

2019-03-27 21:20:48
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「…すまない、皆を頼む…奴は狡猾だ。」 切実な願いに、扶桑は力強く頷く。 「ええ…後は、私に任せて。」 彼女はそう言い、おやすみなさい、と言い残し、静かに医務室を出て行った。 日向は扶桑の背を、閉じられるドアを、一人きりになるまでジッと見つめていた。

2019-03-27 21:21:53
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その視線を向ける表情には、悔しさが滲んでいる。 「…クソッ」 日向は苛立って一言呟き、拳を強く握る。付け入られ、こんな風にまでなった自分が情けなかった。 扶桑に休めと言われても、彼女の心中は決して穏やかにはならない、心の中では自責の念と苛立ちが燻っている。

2019-03-27 21:23:33
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その苛立ちが引いてしまう程の衝撃を覚えたのは、直後だった。 「失礼しちゃうなぁ…人をまるで、殺人鬼か何かみたいに言ってさ…」 「…ッ!?」 聞き覚えのある声、今一番聞きたくない声。自分しかいないはずの医務室に、伊勢の声が現れた。 何処だ、何処にいる、日向は飛び起きる。

2019-03-27 21:24:41
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すると彼女の首筋に、ひやりと冷たいものが当たった。 「大きな声は、出さないでよね…貴女を切るつもりはないけど、自分が危なくなれば流石に迷わない…」 それは刃物、刀だ。日向の脈打つ頸動脈に、伊勢の冷徹な刃が、そっと当てられた。 〜〜

2019-03-27 21:25:50
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〜〜 ベスト4が決定し、大会スケジュールは残すところ決勝戦のみ。 しかし、決勝戦の前には一日のインターバルが設けられている。大トリに相応しい戦いをする為の休息が、戦士達に与えられるのだ。 無論休息といっても、一日中寝ている訳ではない、休息と書いて準備と読むのだ。

2019-03-27 21:27:35
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「よっ…と!」 ブルネイ泊地演習場、艤装を付けた最上が、主砲を次々ぶちかます。放たれた弾丸は複数浮かぶ演習用ドラム缶に全て命中し、カラーペイントをべったりと着けた。 「うーん、問題無いか」 最上は主砲をリロードし、手首を慣らすようにぐりぐり動かす。

2019-03-27 21:28:58
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そうした後、彼女は離れたところで待機する鈴谷に言った。 「じゃあ行くよ、手加減は無しだ!」 「おうよ、任して頂戴!」 鈴谷は義手をギチギチと鳴らし、主砲を構える。そこへ向け、最上は主砲を放ちながら突撃した。 これは決勝戦に向けた、最上の最終調整であった。 〜〜

2019-03-27 21:30:08
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〜〜 調整という名の模擬戦を終えた最上は、鈴谷とあきつ丸を連れてステーキハウスへとやって来ていた。 「いやぁ、付き合わせちゃって悪いね」 最上はそう言って、鈴谷にメニュー表を手渡す。 「別に構わないよ。ピンのワタリ艦娘は信用第一、頼みは一通り聞くもんだぜ。」

2019-03-27 21:31:23
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鈴谷は、それをあきつ丸に手渡しながら言う。受け取ったあきつ丸はそれを開き、メニューをふむふむと見て鈴谷に返す、そんなこんなで注文が決まる。 「サーロインのラージ、あと生のジョッキ」 「ビーフバーガーとコーラ氷抜き、ゼロじゃ無い奴ね」 「チーズハンバーグとオレンジジュースで…」

2019-03-27 21:33:04