日向倶楽部世界旅行編第84話「黄昏の空が終わる時」

激闘の終わったブルネイ泊地で、戦士達はそれぞれの結末を迎えた。優勝の栄冠を手にした足柄は、一人、ブルネイの道を歩いていく。
0
三隈グループ @Mikuma_company

「足柄さんは…那珂さんの事、どう思いますか…?」 「…それは、どういう意味?」 日向倶楽部、この後21:00 pic.twitter.com/FHRdvQGlYP

2019-05-14 20:45:33
拡大
三隈グループ @Mikuma_company

【前回の日向倶楽部】 この、ブルネイ泊地水上スタジアムで行われた初の大会に、数多の名勝負が生まれた事、ブルネイに住む者として誇りに思う。 どの試合も心躍るものであった、私も混ざりたいと何度思った事か、両手両足では数えきれない程だ。私自身もも自らの衝動と戦っていたよ。

2019-05-14 21:00:27
三隈グループ @Mikuma_company

【前回の日向倶楽部その2】 それ程だ、ここで行われた闘いは。 しかしそれを塗り替える、次なる激闘が必ずここに起こる事も私は確信している。戦士達、そしてまだ見ぬ戦士達、いつの日かまた、この地に闘いの旋風を巻き起こして欲しい、それが私の願いである。 (閉会式、武蔵のスピーチより抜粋)

2019-05-14 21:02:16
三隈グループ @Mikuma_company

日向倶楽部 〜世界旅行編〜 第84話「黄昏の空が終わる時」

2019-05-14 21:03:05
三隈グループ @Mikuma_company

〜〜 準優勝の横須賀利根姉妹は、主である扶桑の元にいた。 「申し訳ありませぬ。筑摩はよく働いておりましたが、我輩に至らぬ部分があったばかりに、この様な結果となってしまいました。」 利根は筑摩と共に跪き、扶桑に謝罪の言葉を述べる。

2019-05-14 21:04:21
三隈グループ @Mikuma_company

「この度の敗北は我輩の慢心によるものであります、横須賀鎮守府親衛隊隊長の名に泥を塗ってしまった事、我輩はどんな処分も甘んじて受ける覚悟に…」 頭を下げたまま言い続ける利根、そんな彼女を扶桑は諌める。 「もう、そんな風にするのはおやめなさい、私はそんなに偉くありません。」

2019-05-14 21:05:32
三隈グループ @Mikuma_company

「しかし…」 「良いですから、顔を上げて椅子に座って下さい…」 扶桑は困った様な顔をしながら、二人を椅子に座らせる。 「貴女達はよく頑張りました、それは横須賀で貴女達を見て、今回の試合を見続けていた私が一番よく知っています…あまり自分を責めるのはおやめなさい。」

2019-05-14 21:06:48
三隈グループ @Mikuma_company

彼女がそう言うと、利根は神妙な顔つきで頷く。 「…ありがたきお言葉にございます。今後も我等が横須賀鎮守府親衛隊、横須賀の地を守護すべく、一層の精進をして行く所存にございます。」 その言葉に、扶桑は微笑んで応える。 「是非そうして下さい…ただし、あまり根詰めたりしない様にね。」

2019-05-14 21:08:39
三隈グループ @Mikuma_company

優しく労わる様な言葉を扶桑は述べる。それを聞くと利根は、少し黙り込んでから口を開いた。 「…ありがとうございます。扶桑様も旅路の中、お身体に気を付け下さい。」 「ええ、ありがとう。」 畏まり続ける利根に、扶桑は穏やかに言葉をかける。

2019-05-14 21:10:00
三隈グループ @Mikuma_company

そうしているうち、利根は妹と共に立ち上がって言った。 「では、我々はこれにて失礼致します。」 「あら…もう行ってしまうのですか?」 残念がる扶桑に、利根はこうべを垂れて答える。 「申し訳ありません。ですが、親衛隊である我々が横須賀を長く空ける訳には参りませんので…」

2019-05-14 21:11:05
三隈グループ @Mikuma_company

それを聞くと、扶桑はやはり残念がりながらも、ゆっくりと頷いた。 「分かりました…私がいない間、横須賀をお願いします。那智にもよろしくね。」 「ハッ、ではこれにて…。行くぞ筑摩。」 利根姉妹は改めて頭を下げると、談話室を後にした。

2019-05-14 21:12:25
三隈グループ @Mikuma_company

談話室を出た利根姉妹は、ブルネイ泊地を歩いていく。その間、筑摩は難しい顔をして黙り込んでいた。 頭を下げ、責任を負おうとする姉を見るのは苦痛だった。自分がもっと強ければ、もっと上手くやれていれば、今頃姉は優勝の栄冠を手に堂々としていたに違いない。

2019-05-14 21:13:12
三隈グループ @Mikuma_company

悔しさが心の底から溢れる、気付いていないが、彼女の顔にそれは滲み出ていた。 「…姉さん、ごめんなさい…」 居た堪れなくなり、口から言葉が零れ落ちる。 たとえ自分がこう言っても、姉は自分を責めたり叱ったりはしないのだろう、それが嫌だったし、姉もそれに気付かない。

2019-05-14 21:14:43
三隈グループ @Mikuma_company

そんな彼女に、利根は口を開く。 「…筑摩」 「…何、姉さん…」 また自分が悪いと、そんな風に言うのだろうか、筑摩は答えを待つ。すると利根は、微笑んで言った。 「…何か食べるか?」 「えっ?」 「昼時も過ぎておる、何か食べても良いじゃろう。」

2019-05-14 21:15:45
三隈グループ @Mikuma_company

遠くで時計の鐘が鳴る、時刻は午後二時を回っていた。 「でも、横須賀に戻るんじゃ…」 筑摩は利根が扶桑に言った言葉を思い出す。だが、利根は笑って言った。 「大丈夫じゃ、我輩達が食事をする位の時間はある、心配せんでも良い。何が食べたい?何でも良いぞ。」

2019-05-14 21:17:04
三隈グループ @Mikuma_company

彼女がそう言うと、筑摩のお腹が突然、ぐぅーっと鳴る。 「…!」 筑摩は顔を赤くしてお腹を抑える、それを見て、利根は崩れた笑みを浮かべる。 「…くくっ、我慢せず言うてみよ」 「う、うん…じゃあね、えっと…」 昼時を少し過ぎたブルネイ泊地を、姉妹は並んで歩いて行く。 〜〜

2019-05-14 21:18:27
三隈グループ @Mikuma_company

〜〜 大会の閉会式が終わり、その後の記者会見などを経て、最上はようやっとホテルへ戻った。 「はぁ、疲れた…」 ソファに身体を投げ出し、最上は溜息をつく。ああいう場というのは、慣れた戦場の何倍も疲れる、カメラのフラッシュやシャッター音には辟易としてしまう。

2019-05-14 21:20:01
三隈グループ @Mikuma_company

「お疲れちゃん、あたしゃああいう場ァ嫌いだから、疲れるって気持ちは分かるぜ。」 そんな彼女に、鈴谷と 「でも優勝なんてすごいのであります、あんな強豪相手に!」 あきつ丸が声をかける。予選落ちで暇だった二人は、彼女の付き添いとして行動を共にしていた。

2019-05-14 21:21:13
三隈グループ @Mikuma_company

「ははっ…ありがとう二人共。まあ優勝っても、決勝戦のボクは何もしてなかったけどね…」 最上はぽりぽりと頬をかき、苦笑いして言った。決勝戦で早々にリタイアした最上は、観客達同様、足柄がどうやって勝ったのか分からなかった。あの嵐のスタジアムで何が起きたのか、全く知らなかった。

2019-05-14 21:22:20
三隈グループ @Mikuma_company

そこへ、鈴谷は軽い調子で言う。 「ま、勝ちは勝ちさ。戦いってのはどんな要素が結果に現れるか分からない、最上ちゃんの何かが優勝に繋がった…そう思っときゃ良いよ。」 「そ、そうであります!そう!」 あきつ丸も便乗して励ますと、最上は二人に笑って答える。

2019-05-14 21:23:26
三隈グループ @Mikuma_company

「大丈夫、そこまで気にはしてないよ、ちょっと締まりが悪かったなぁってだけさ。勝ちは勝ちなんて経験、反攻作戦の時に何度もしてるしね。」 長年艦娘をやっていると、綺麗な勝ち方より地味な勝ち方の方が多く経験していた。故に最上も、勝ち方に拘泥するタイプではない。

2019-05-14 21:24:21
三隈グループ @Mikuma_company

その答えを聞いて、鈴谷は面白そうに笑う。 「流石第一世代って感じだねェ、クレバーで頼もしい限りだ。」 「そういう鈴谷はいつから艦娘なんだい?」 「そいつぁ秘密だね。恨みを買いやすい仕事柄、余計な情報は出さないのさ。」 「ははっ、流石プロだ」

2019-05-14 21:25:29
三隈グループ @Mikuma_company

軽いノリで二人は話す。そうしているうち、ふと鈴谷が訊ねた。 「そういや、優勝賞金っていくらなんだ?予選落ちしちまったから、あたしらは参加費払っておしまいなんだけど。」 彼女がそう言うと、最上はうーんと唸る。 「えーっと確か、1チームで二百万ブルネイドルだったから…」

2019-05-14 21:26:58
三隈グループ @Mikuma_company

二百万ブルネイドル、日本円にして 「…一億七千万円くらい?」 である。 「い、いちおくななせんまんえん…」 「ま、こんだけやったんだしそんなモンだよね」 艦娘としては良くも悪くも普通のあきつ丸と、色々やってきた鈴谷、同じ一億に対しての反応は随分違った。

2019-05-14 21:28:19
三隈グループ @Mikuma_company

「一億かぁ…」 最上もまた、ぼんやりと呟く。そこへ、あきつ丸は戸惑いながら訊ねる。 「い、一億でありますよ!?お二人ともなんでそんななんか、どっしりと構えてるのでありますか!?」 育った施設へお金を入れる為に艦娘となった彼女にしてみれば、一億円など目玉が飛び出る金額である。

2019-05-14 21:29:55