アニメ『さらざんまい』に影響を与えた、芥川龍之介『河童』の考察 ~「僕は生まれてきたくありません」という視点と、社会問題との関係~
togetter.com/li/1368899 『さらざんまい』全体考察 ~カズキたち登場人物たちの短評と、カッパやカワウソなどの物語要素が、現実では何に相当するかの話~
2019-06-23 23:13:20今日は、テレビアニメ『さらざんまい』に影響を与えた、元ネタのひとつだろう作品、芥川龍之介の小説『河童』について、お話ししていきます。
2019-06-23 23:15:52先にお断りしておきますと、芥川賞の名前にも使われている文豪・芥川先生の作品ですし、さらにそれを思想や社会に応用する、という比較的高度な話題なので、論じきれるかどうか自信がありません。
2019-06-23 23:18:14あいにく私は、芥川先生のような天才的な頭脳を持ち合わせていないので(笑)、扱う話が難しすぎて、議論のアラが目立ってしまうかもしれません。しかし、今の社会に必要な視点なので、ぜひ一度言及したかった。
2019-06-23 23:19:55では、本題に入ると、まず『河童』の情報を確認しておくと、「芥川賞」で有名な、文豪の「芥川龍之介」によって描かれた、90年ほど前の小説。私は岩波文庫で読んだけれど、今でも普通に読めるはず。
2019-06-23 23:21:43togetter.com/li/1364984 『さらざんまい』10話予告考察 ~芥川の『河童』との関係、なぜカッパは「カエル」と呼ばれると怒るのか?~
2019-06-23 23:25:58上記の記事で、「河童が蛙と呼ばれると怒る理由」について、すでに考察した。しかし、今回触れる問題の方が、より難解だが深淵なテーマになっている。
2019-06-23 23:27:53今回、『河童』で取り上げたい部分は、「河童の胎児に質問する」というシーンだ。妊娠した母親の胎内にいる胎児に、父親が「この世界へ生まれてくるかどうか」を質問する。
2019-06-23 23:31:44この河童の胎児への質問と堕胎のシーンは、一見して、シュールかつグロテスクだ。しかし、私は衝撃を受けて、ここに芥川の天才性を感じる。それが、今の時代や社会でどういう意味を持つのか、解説していきたい。
2019-06-23 23:35:09初見では意味が分からないかもしれないが、たとえばこういう比較ができる。やはり文豪の太宰治は、「生まれてすみません」というキャッチフレーズで有名だろう。対して先の河童は、「生まれてきたくありません」。
2019-06-23 23:37:43太宰の「生まれてすみません」は、何となく意味が分かるし、心情的に共感できる。私小説的だから。しかし、芥川の「生まれてきたくありません」は、すぐに意味が分からない。寓話的だから。
2019-06-23 23:39:04だから、河童の胎児のセリフを解釈していくが、その前に、「芥川は遺伝病を心配していたから、そのような文章を書いたのだ」という説がある。しかし、たんに芥川個人の事情だと見ると、批評的にはつまらない。
2019-06-23 23:42:09もちろん、「胎児が言葉を話すわけがないではないか」、という単純な感想もありえるし、奇をてらっているようにも思えるかもしれない。しかし、私には今の時代や社会を考える上で、重要な視点だと思う。なぜか?
2019-06-23 23:43:54「僕は生まれてきたくありません」、という河童の胎児のセリフと、「出生前診断」や「遺伝子診断」を対置してみると、その意義がよく分かる。要するに、生まれてくるかどうかを選択するという問題だから。
2019-06-23 23:48:48なお、私が後知恵で、現代医療の問題を勝手にこじつけている、と批判する人が出てくるかもしれないので、『河童』原作の堕胎の後のシーンを読んでみると、「遺伝的義勇隊」の話が出てくる。
2019-06-23 23:50:17この「遺伝的義勇隊」は、良い遺伝子を残そうという、要するに「優生思想」の体現みたいなエピソードなのだが、現実世界でも、20世紀初頭には、優生学が台頭していたので、当然その当時の社会を反映している。
2019-06-23 23:52:04ちなみに、芥川の『河童』には、「ホロコースト」を連想させるような、河童を虐殺するエピソードも載っている。ナチスは優生思想を支持していたのだし、たんなる偶然ではないだろう。
2019-06-23 23:53:3590年前にすでにそういうことを書いていた時点で、芥川の天才性を感じるという、私の意見を少し分かってくれたかもしれない。しかし、ただ「出生前診断」を予見していたからすごい、という単純な話ではない。
2019-06-23 23:55:01胎児の視点で見る、というのは、いわば不可能な視点で見ることだが、しかしこれこそ、今の社会に必要な視点でもあると考えている。それはどういうことで、なぜ必要なのだろうか?
2019-06-23 23:57:15たとえば、今の日本の少子化問題を考えてみればよい。言ってみれば、「僕は生まれてきたいです」という、胎児の権利が保証されないようなものだ。
2019-06-23 23:58:50