ア㊙️イさんのお尻と学ぶ宗教改革(全5回)

最近出版された宗教改革に関する実証論文の中から、「これは…!」と感じたものをまとめたのだ。大量に出版されている研究の中のごく一部でしかないから、今後追加する可能性があるのだ。 史実に関する部分での誤りがあるかもしれないのだ。お尻さんはドイツ史も宗教史も専門ではないから、あまり鵜呑みにしないことをオススメするのだ!
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宗教改革の起源:プロテスタンティズムの拡大と活版印刷術

ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

買えば罪が許されるとかいうソシャゲもびっくりの教会による贖宥状販売を稀代の同人活動家ルターが批判して始まった宗教改革は、ドイツのヴィッテンベルクから急速に全ヨーロッパに拡大したのだ。その拡大には、世界史の教科書でも言われているように活版印刷が重要な役割を果たしていたのだ。 (1/8) pic.twitter.com/pFY4xgVT8u

2019-05-13 05:32:41
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

活版印刷術が実用化されたのは1450年前後、ドイツはマインツでグーテンベルクが印刷業を始めて以後なのだ。マインツを中心に活版印刷術は瞬く間に広まっていき、「グーテンベルク聖書」と呼ばれる世界初の印刷聖書も刷られたのだ。 (2/8) pic.twitter.com/lfJFSYaiwC

2019-05-13 05:33:25
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

活版印刷術は(写本と比較して)廉価で、高速に、かつ大量に本を生産出来るのだ。特に宗教改革に関しては、「複写」がモノを言ったみたいで、著作権なんかないからパンフがバンバン刷られたのだ。そのおかげでプロテスタントの拡大にブーストがかかったのだ。 (3/8) pic.twitter.com/RFkLSPUl9i

2019-05-13 05:33:57
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

宗教改革のきっかけとなった、ルターによる『95ヶ条の論題』が書かれたのが1517年だけど、その後プロテスタントを受け入れたか否かは地域によってかなり差があるのだ。そのタイミングを説明するのが活版印刷術だという統計分析があるのだ。よく活版印刷のデータなんてあったのだ…。 (4/8) pic.twitter.com/oxveUra5Bz

2019-05-13 05:39:00
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

この研究では、1500年までにヨーロッパの各都市で活版印刷術が導入されていたのかのデータを集め、1530、1560、1600年というそれぞれの年までにプロテスタントを受け入れたか否かとの関係を分析したのだ。操作変数法(マインツとの距離)みたいなテクニックもちゃんと使っているのだ。 (5/8) pic.twitter.com/c4kJeMploa

2019-05-13 05:40:39
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

分析の結果、宗教改革以前に活版印刷を導入していた地域では、そうでない地域と比べ、1530年で52%、1560年は41%、1600年でも29%、プロテスタントを受け入れる確率が高かったのだ。まさにグーテンベルク様様なのだ! (6/8) pic.twitter.com/igYGKEIRiF

2019-05-13 05:42:20
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

ちなみに、活版印刷とプロテスタントの関係が何故重要かというと、マックス・ヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の議論にダイレクトに影響してくるからなのだ。その話はまた次回するのだ〜! (7/8) pic.twitter.com/EP1HZEYm32

2019-05-13 05:43:45
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

論文はここから読めるのだ。 mitpressjournals.org/doi/pdfplus/10… 教科書にも書かれているような「当たり前」のことかも知れないけど、やっぱりそれをデータを集めて実証するというのはとても重要だと思うのだ〜! (8/8)

2019-05-13 05:44:45

拡散するアイデア:出版市場・経済成長・宗教改革

ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

活版印刷術はまさに「革命」と呼ぶにふさわしい技術革新だったのだ。今回は、15世紀から16世紀にかけてヨーロッパで出版された「ビジネス書」と「宗教書」をテキスト解析し、出版物を通じたアイデアの拡散とその帰結を明らかにした研究を紹介するのだ。かなり長いまとめなのだ! (1/26) pic.twitter.com/Zom0wufgVu

2019-06-19 22:40:58
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

以前にも紹介した通り、活版印刷術は宗教改革の趨勢に影響を与えた重要な要因だったのだ。ルターに始まる宗教改革(プロテスタントの「アイデア」)は、出版物を通じて各都市に伝播し、その「宗教書」を読んだエリート層を中心に都市の内部に拡散していったのだ。 twitter.com/bot99795157/st… (2/26)

2019-06-19 22:41:29
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

でも活版印刷とその製品としての出版物によって広まったのは、プロテスタントの考えだけではないのだ。この研究では商業をするために必須の知識が満載の本、つまり当時のいわば「ビジネス書」の出版にも注目しているのだ。 (3/26)

2019-06-19 22:41:53
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

イタリアのベニスで14世紀ごろに誕生したとされる「複式簿記」や、経営に必要な算術の基本、適切な契約の結び方、手形の発行方法、アラビア数字の使用といったビジネスをより円滑に進めるために必要な知識は、「ビジネス書」を通じてヨーロッパの商人たちに拡散していったのだ。 (4/26) pic.twitter.com/jHgkCuNyeT

2019-06-19 22:42:57
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

ビジネスに関する知識が普及することで、より活発な経済活動が行われることになり、経済が成長するのだ。また、プロテスタントの考えが広まれば、その結果として宗教改革が進んでいくことが見込まれるのだ。至ってシンプルな主張なんだけど、問題はこれをどう実証するのか?なのだ。 (5/26)

2019-06-19 22:43:24
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

この研究では1454-1600年にヨーロッパで出版された全て(約30万)の出版物のタイトル・出版年・出版地(都市)・著者といった書誌情報を収集し、その中から「ビジネス書」と「宗教書」を特定、「いつ・どこで・何冊の(ビジネス/宗教)本が出版されたか」をデータ化しちゃったのだ…! (6/26)

2019-06-19 22:44:36
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

ただ、ここで難しいのが「宗教書」の扱いなのだ。著者の宗派(プロテスタント/カトリック)の情報があれば、その本が「プロテスタント本」なのか「カトリック本」なのかわかるんだけど、大部分の出版物はその重要な情報が欠落していたのだ。 (7/26) pic.twitter.com/GTgVPko2b6

2019-06-19 22:45:07
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

そこで登場するのがテキスト解析なのだ。既に宗派が分かっている著者をそれぞれ約200人ずつランダムに抽出し、各宗派がタイトルに使いがちな「フレーズ(単語)」の傾向を推定したのだ。それを元に出版物の宗派を推定するモデルを作り、宗派不明の出版物を分類したのだ。ひぇ〜〜〜!!! (8/26) pic.twitter.com/ys6Th0rc13

2019-06-19 22:45:38
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

データも揃ったし、いざ実証!…というわけにはいかないのだ。出版の傾向と都市の経済成長や宗教改革の因果関係を分析する時に障害となるのが、やっぱり「内生性」の問題なのだ。この研究はそれをユニークな操作変数で解決しているのだ(IVについては引用ツイート参照) twitter.com/bot99795157/st… (9/26)

2019-06-19 22:46:23
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

これまでは「誰がナチスに投票してきたのか?」という話をしてきたけど、それを裏返すと「誰がナチスに投票しなかったのか?」という問いが生じるのだ。 答えは簡単、カトリック教徒なんだけど、それを詳細に分析した研究を紹介するのだ。分析手法の話もするから超大作になってしまったのだ! (1/20) pic.twitter.com/GFohJ2IRY7

2019-05-27 12:01:18
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

内生性の問題を克服するには、そもそも出版はどういうメカニズムのもとに行われるのかを知る必要があるのだ。著者たちが注目したのは、「市場競争の原理」なのだ。活版印刷術を修得した人がある都市の中に複数人いれば、そこでは必ず「競争」が起こるはずなのだ。 (10/26)

2019-06-19 22:46:51
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

活版印刷は、少なくとも宗教改革が始まるまでは色々な規制(例えば教会やギルド)が緩い一方で、参入障壁はかなり高かったのだ。技術の獲得がそもそも難しく、多くの設備投資と固定費用が必要だったことに加え、独占・寡占状態の印刷業者による新規参入の妨害があったりしたのだ。 (11/26) pic.twitter.com/YslzbOw2dS

2019-06-19 22:47:17
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

じゃあ新規参入が起こりやすいタイミングはいつかを考えると、自然に出てくる答えは「今いる印刷業者が死ねばいい」ということなのだ。そこでこの研究では、1517年以前(宗教改革以前)の各都市の印刷業者のリストと、彼らが「いつ死んだか」をデータ化したのだ。 (12/26)

2019-06-19 22:47:50
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

新規参入によって印刷業者の間で競争が起これば、それだけ出版物の量が増え、価格も低下するはずなのだ。出版物の量はすでに話したようにデータはあるのだ。じゃあ価格はどうするのか?ここで登場するのがなんとあの「クリストファー・コロンブス」の息子なのだ。 (13/26) pic.twitter.com/CQoaPHznCZ

2019-06-19 22:49:20
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

コロンブスの息子であるエルナンド・コロンは、ハプスブルク家に仕えていたのだ。彼の夢は「世界中の全ての本が収蔵された図書館を作ること」で、ヨーロッパの40以上の都市を巡りながら各地で本を買いまくったのだ。この研究ではその購入リストに注目したのだ! (14/26) pic.twitter.com/EwFOOWL811

2019-06-19 22:49:50
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