ア㊙️イさんのお尻と学ぶ宗教改革(全5回)

最近出版された宗教改革に関する実証論文の中から、「これは…!」と感じたものをまとめたのだ。大量に出版されている研究の中のごく一部でしかないから、今後追加する可能性があるのだ。 史実に関する部分での誤りがあるかもしれないのだ。お尻さんはドイツ史も宗教史も専門ではないから、あまり鵜呑みにしないことをオススメするのだ!
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

エルナンドの蔵書リストには、「どこで・いつ・いくらで」その本を買ったのかという超重要な情報がついていたのだ!ほぼヨーロッパ全域に及んだ彼の努力の結晶たるこのデータは、当時の出版価格を知る上で他に比肩しうるものは存在しないと言っていいのだ。 (15/26) pic.twitter.com/PlniPErCTP

2019-06-19 22:50:33
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

統計分析の結果、 ・その都市で業者が多いほど出版物価格が低くなること ・業者が死亡した都市では業者の数が増え、その結果として出版量も増えること が明らかになったのだ。死人が出た好機に乗じて他の人達も印刷業を始め、結果的に市場に競争が生まれたということなのだ。 (16/26)

2019-06-19 22:53:01
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

「印刷業者の新規参入は業者間の競争を促す」ということから類推されるのは、競争の原理は出版物の量や価格だけでなく、コンテンツにも影響を与えていたのではないか、ということなのだ。ここでようやく「ビジネス書」と「宗教書」の話に戻ってこれるのだ! (17/26) pic.twitter.com/da6XCTOjlN

2019-06-19 22:53:41
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

印刷業者間の競争が起こることで、他の業者との競争に勝ち抜くために「より新しい内容」を出版するインセンティブが生じると考えられるのだ。当時の「新しい」といえば?そう、ビジネスの知識と、目下論争中の宗教の話なのだ! (18/26) pic.twitter.com/z4Et8w4k0G

2019-06-19 22:54:25
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

統計分析の結果、印刷業者が死亡した都市では業者の数が増え、その結果としてビジネス書と宗教書の出版量が増えていたことが明らかになったのだ。宗教書はプロテスタントもカトリックもどっちも増えていたのが興味深いのだ。要はどっちも買わせるつもりだったのだ! (19/26)

2019-06-19 22:55:03
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

いよいよ本題なのだ!「印刷業者の死亡」は出版市場の競争を激化させることでビジネス書と宗教書の出版を促したけど、「都市の経済成長」や「宗教改革の推進」とは “直接的な” 関係は無いはずなのだ。つまり操作変数として使えるということなのだ! (20/26)

2019-06-19 22:55:33
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

「印刷業者の死亡」を操作変数とした分析の結果、ビジネス書の出版量が増えると、1500ー1600年の269のヨーロッパの都市の人口成長率(≒経済成長)が高くなっていたことが明らかになったのだ。あらゆるタイプの本の出版量ではなく、ビジネス書だけ効果があったのだ! (21/26)

2019-06-19 22:55:59
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

さらに、1450-1589年の間に生まれた約1000人のドイツ人の個人データを使った分析もしているのだ。「印刷業者の死亡」を操作変数とした分析の結果、20代(専門知識を獲得する時期)にビジネス書の出版量が増えると、商業の職(ブルジョワ)に就く確率が高くなっていたのだ! (22/26)

2019-06-19 22:56:26
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

その一方で、教会職に就く確率が低くなっていたこともわかったのだ。ビジネスの知識を得た当時のエリート層は宗教というかつてのエリートの世界ではなく商業の世界に入っていったのだ。その結果として各都市での経済成長も促進されたと考えられるのだ。 (23/26)

2019-06-19 22:57:24
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

同じく「印刷業者の死亡」を操作変数とし、1522-1554年(アウグスブルクの宗教和議の前年まで)のドイツの各都市を対象とした分析の結果、プロテスタント本の出版量が増えると、各都市が宗教改革を受け入れる(改革関連法の施行)確率が高くなっていたことが明らかになったのだ。 (24/26)

2019-06-19 22:58:16
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

話をまとめると 印刷・出版市場の競争→アイデアの拡散→経済成長/宗教改革 となるのだ。「アイデア」は確かに重要だったんだけど、それが拡散した背後には経済的な原理(市場競争)が働いていたということなのだ〜! (25/26)

2019-06-19 22:58:57
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

論文はここから読めるのだ。 cep.lse.ac.uk/pubs/download/… 実は6年ぐらい前から改訂が続いている研究で、最初は50ページも無かったのに2019年の最新版は150ページ以上あるのだ。出版される時はどうなってしまうのだ…? (26/26)

2019-06-19 22:59:41

宗教改革と経済成長:マックス・ヴェーバー再考

ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

1517年に始まった宗教改革はその後の歴史に重大な影響を及ぼしたと言えるけど、ドイツにおけるプロテスタンティズムの拡散は産業革命以前(19世紀初頭)の経済成長を促進したという研究があるのだ。 (1/14) pic.twitter.com/Jmlfx9eD01

2019-05-14 22:23:07
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

プロテスタンティズムは信仰の在り方だけでなく、制度にも影響を与えたのだ。プロテスタントを受容したドイツの各都市では教会法が新たに制定され、カトリック教会の権力が剥奪されただけでなく、社会保障制度も同時に整備されたのだ。 (2/14) pic.twitter.com/29IAQbKaEo

2019-05-14 22:24:25
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

宗教改革において主要な役割を果たしたの大衆だったのだ。要は市民運動みたいなもので、中小レベルの商人やギルドが主導したのだ。そういった「下からの圧力」の結果として制定された教会法は、教育制度にも大きな変化をもたらしたのだ。 (3/14)

2019-05-14 22:25:14
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

教会法により、カトリック教会は(エリートの為だけに)教育を行うというある種の「特権」を剥奪され、大衆に向けた学校教育が拡充したのだ。教会施設が学校に建て替えられたり、新たに学校が建設されたり、教育のための基金が設立されたりしたのだ。 (4/14)

2019-05-14 22:26:21
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

さらに病院の建設や貧民救済など、幅広い社会保障制度が一挙に整備されたのだ。このように、プロテスタントの拡大が教会法によって制度化され、あらゆる再分配政策が行われるようになったのだ。宗教改革が大衆運動の性格を持っていたからこそ起こったことなのだ。 (5/14) pic.twitter.com/gId53AeqfI

2019-05-14 22:27:02
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

この研究では、ドイツの都市を対象に、教会法の制定(プロテスタントの受容の制度化)が人口の成長に与えた影響を統計的に分析したのだ。1600年までに各都市で教会法が制定されたか否かを大量の古ーい歴史的文献を整理してデータ化したのだ。凄い労力なのだ。 (6/14)

2019-05-14 22:27:56
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

注釈を入れると、産業革命以前の経済成長は人口の成長率や多寡で測ることができるのだ。豊かな都市・国であれば人はたくさん生まれ、生き延びることができるけど、貧しい場合には即死に繋がる世界だったからなのだ。 (7/14)

2019-05-14 22:28:28
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

統計分析の結果、1600年までに教会法が制定された都市は、そうではない都市と比較して、1800年までにより人口が成長していることがわかったのだ。これは教会法によって社会保障制度が整備された結果と考えることができるのだ。 (8/14)

2019-05-14 22:30:32
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

さらに、同期間の富裕層の個人レベルのデータ(なんでこんなのが残っているのだ!?)を使った分析もしているのだ。その結果、富裕層は教会法が制定された都市により移住していたことがわかったのだ。充実した教育制度を求めた結果なのだ。 (9/14) pic.twitter.com/eXwL4uhYqC

2019-05-14 22:31:53
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

このように、教会法を制定した都市には人がより生まれ、生き延び、集まるようになったのだ。さらに富裕層という質の高い人的資本が集積し、都市の経済成長が促進されたのだ。300年も先の経済に影響を与えるぐらい、宗教改革は大きな出来事だったのだ。 (10/14)

2019-05-14 22:32:28
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

ヴェーバーは『プロ倫』の中で、プロテスタント(カルヴィニズム)特有の労働倫理(ブラック労働の精神に聞こえなくもないのだ)によって資本主義がもたらされるということを書いているのだ。でもこの研究では、別の道筋が示唆されていると言えるのだ。 (11/14) pic.twitter.com/UvYyqaoDIc

2019-05-14 22:34:12
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

今回紹介した研究やそれに類する研究では、宗教改革によってプロテスタントが拡散し、その結果識字率が向上するといった「人的資本の蓄積」が経済成長には重要であったと言われているのだ。ヴェーバーが考える宗教と経済をつなぐ要因、そして道筋がちょっと違うのが面白いポイントなのだ。 (12/14) pic.twitter.com/h2sadbWkKy

2019-05-14 22:35:26
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