お好み焼き屋浜風 浦風アナザーエンド編【艦これSS】

紅吏珠名 @chrishna_c2

「ソレハソウト　箸巻ヲ　モラオウ」 「あいよ……ほら、いっちょあがり！」 鉄板に生地を注いで薄くのばし、お箸にくるくると巻いて箸巻の完成。 手渡ししようとすると帽子から伸びた触手がシュルシュルと巻き付いて、そのまま箸巻を器用に絡め取って口の中へと運んでいく。 #お好み焼き屋浜風

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「ハムハムモグモグ　……」 焼きたての生地のもちもち感と、芳醇なソースの香りが口の中に広がる。 一口頬張るごとに口の中にさらなる味わいが加わり、ヲ級はほっぺが落ちそうな仕草でいやんいやんしていた。 #お好み焼き屋浜風

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彼女は絶対に『美味しい』とは口にしないけれど、本当に美味しそうに食べてくれるから、作り手として作り甲斐がある。 #お好み焼き屋浜風

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「あ、私にも同じものをください。とりあえず二十本くらい！」 ヲ級の食べっぷりにあてられたか、赤城にもスイッチが入ってしまった様子。 ふたりとも似た者同士なのか、健啖家でよく食べるから幾ら作っても追いつかないし、あっという間に在庫がなくなってしまいそうになる。 #お好み焼き屋浜風

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「ソウダ　中枢棲姫カラ伝言ダ　オマエ達ノ提督二　伝エテオケ」　 浦風や赤城でさえ本当に忘れていた頃、重要な要件を言うヲ級。 『我々及ビ　同盟国ヲ脅カス者ドモハ　跡形モナク沈メテアゲル』 なにやら不穏なことを言いはなつヲ級だった。 #お好み焼き屋浜風

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（……深海棲艦ってみんな、そういうもんなんじゃろうか？） 終戦を迎えた今になってなお、深海棲艦についての謎は尽きなかった。 #お好み焼き屋浜風

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「マタ来ル　首ヲ洗ッテ待ッテイロ」 「浦風さん。今日も美味しいものをありがとうございました」 用件は済んだとぷいと視線を逸らすヲ級、ぺこりとお辞儀する赤城。色気より食い気な二人。フードファイターとしての素質充分な彼女たちは更なる美味しい屋台を求め去っていった。 #お好み焼き屋浜風

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ややあって、入れ替わるように賑やかな一組がやってくる。 「アイオワ～！　今度は射的で勝負しましょ～！」 「Really!?　コンゴウ相手なら相手にとって不足はないわ！」 「もう。お二人ともすっかりできあがっちゃってるんですから」 #お好み焼き屋浜風

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まるで子供のようにはしゃぐ金剛。それを諌める妹の榛名。 これではどっちがお姉さんなのか分からない。 アイオワの傍には、グリーブス級駆逐艦エリソンの魂を持つ駆逐艦朝風が呆れ顔で付き添っている。 #お好み焼き屋浜風

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「Hey浦風！　元気にしてマシタ？」 金剛とアイオワは、呉名物・海軍さんの地ビールを飲んで酔っ払っていた。ぷはーっと吐く吐息がとても酒くさい。 「金剛お姉さまったら。浦風ちゃんのいる前ですよ」 「そういうワケで、浦風自慢の料理を四人前よろしくネー！」 #お好み焼き屋浜風

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それにしても――この人達の、お好み焼きをピザカッターで切って食べる癖はどうにかならなかったのだろうか。 「これがジャパニーズピザね。ステイツのピザと違って乗っている具はシンプルだけど、ジャパニーズソースのこってりとした味つけが癖になりそう！」 #お好み焼き屋浜風

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憧れの金剛姉さんに自分の料理を喜んで食べてもらえるのは、浦風にとって最高の幸せのひとつだ。 「いろいろあったケド、こうして皆で生還できてよかったデース。浦風ががんばって護ってくれたおかげデスネ！」 そんな金剛から頭を撫でられると、浦風は思わず破顔してしまう。 #お好み焼き屋浜風

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「よーしアイオワ。次は金魚すくいで勝負デース！」 「望むところよ。コンゴウといると本当退屈しないわ！」 史実でも好敵手だった金剛とアイオワは、終戦後も相変わらずのようだった。 #お好み焼き屋浜風

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「ごめんなさいね。本当はしっかりした頼れる姉なのですが」 呉の空を最期まで身を挺して守った榛名。アンドロメダ型神話をそのまま生き写しにしたような人。浦風にとって彼女もまた憧れの女性である。そんな浦風の視線に気づいたか、榛名はにっこりと優しく微笑みを返してくれる。 #お好み焼き屋浜風

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「争いごとのない世界を、榛名として見ることが叶うなんて」 榛名が見せた顔色には、これまであったような翳りがない。 「平和はいいものじゃけ。これが本来あるべき世界の姿じゃ」 「ふふっ。そうですね……あ、そろそろ花火が打ち上がります」 #お好み焼き屋浜風

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呉の夜空に、満開の花が――咲いた。 瀬戸内の海上より次々と花火が打ち上げられた。瞬く間に、呉の空が明るい花の色に染めあげられていく。 これが夏の風物詩。真夏の夜に咲きほこる花。 #お好み焼き屋浜風

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「これが、私達が命を懸けて護りたかった空なんですね」 「そうじゃ。うち達みんなが戦ってがんばり抜いた証じゃけ」 大切なものを護るために備える力。平和を手にした力。 「はい。この空を見ることができて、これで榛名は大丈夫、です。これからもがんばります」 #お好み焼き屋浜風

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榛名姉さんには敵わない。それが金剛型の妹分としての浦風の正直な気持ちだ。 この終戦を告げる花火をもって、彼女達の想いは今度こそ遂げられたのだろう。 #お好み焼き屋浜風

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不意に感傷を破るかのように、花火の音に紛れるように爆発が起こった。 比叡がカレーを作っている出店のほうだった。現在妖精達が緊急出動し、工作艦明石による指揮のもと、懸命の消火活動が行われている。 #お好み焼き屋浜風

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「……なんだか、あっちはいろいろ大変そうじゃね」 「比叡姉さま……」 榛名の顔から笑みが失せ、深刻そうに頭を抱えていた。 #お好み焼き屋浜風

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「姉さまたちが心配なので、榛名はそろそろ失礼しますね」 言って榛名が四人分お辞儀をして浦風の屋台から慌ただしく走り去っていく。 彼女たちのそんな後姿を見送って――浦風は、はぁ、と溜息をつく。 「みんな、こうしていつかは居なくなってしまうんじゃね」 #お好み焼き屋浜風

紅吏珠名 @chrishna_c2

「そんなことはないよ」 「……提督さん？　浜風？」 「やあ浦風、ひさしぶりだね。息災のようで何よりだ」 「ご無沙汰しています。浦風姉さん」 提督と浜風だった。夫婦となった二人は、浜風が陽炎、不知火、黒潮から秘書艦の後任についた頃から何ひとつ変わっていない様子。 #お好み焼き屋浜風

紅吏珠名 @chrishna_c2

「平和は良いものだね。これまで激務に追われていた日々を取り戻すように過ごす毎日はとても楽しいよ」 「……でも、でも提督さん。平和になったから、艦娘のうちらは皆とお別れになってしまうんじゃね」 浦風の感傷めいた言葉に、提督たちは言葉をなくす。 #お好み焼き屋浜風

紅吏珠名 @chrishna_c2

呉の夜空に絶え間なく咲き誇る花火の灯。燦然と輝く希望と祈りの灯、三千発の花火、三千世界。 それは誰もが待ち望んできた祈りの結実。その姿を思い描いていたからこそ、深海棲艦の脅威を前にしても希望を失わずここまで戦い続けてこられた。 #お好み焼き屋浜風

紅吏珠名 @chrishna_c2

浦風が提督に対し密かに思慕を募らせていたことは提督も承知していた。 「うちは、うちは……！」 こうして平和を勝ち取ることができた以上、みんな思い思いの生活に還り、離れ離れになっていく。 深海棲艦と戦う必要が無くなった以上、こうなることは分かっていたはずなのに。 #お好み焼き屋浜風