時間遡行
- fumizuki_sei
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それは戯れのような言葉だった。 「例えば過去をやり直せるとして、サンダルフォンは時間を巻き戻したい? ルシフェルを救いたい?」 しかしその言葉にサンダルフォンは胸を突かれた。答えは決まっている。 (やり直したいに決まっている! あの方を救えるのなら…!)
2019-07-29 10:56:41サンダルフォンの心の裡にはかつての後悔と悔恨が津波のように押し寄せた。しかし荒ぶる感情とは別にサンダルフォンの冷静な部分がささやく。お前はそれでいいのか、と。 サンダルフォンは目を閉じた。己の感情の波を静かに見つめながら、激情が去って行くのをただ待っていた。
2019-07-29 10:56:41すると心の裡に浮かんで来たのはあの中庭での別れの瞬間、寂しそうな顔をしたルシフェルの顔だった。もしあの方だったなら、やり直したいと願うだろうかと。おそらく、願うまい。
2019-07-29 10:56:41そしてサンダルフォンがやり直したいなどと願ったなら、きっとまたあの寂しそうな顔でサンダルフォンを見つめ返すのだろう。 目を開けると、微動だにせずジータの視線がサンダルフォンに注がれていた。その視線をはっきりと見つめ返しながらサンダルフォンは呟いた。
2019-07-29 10:56:42「俺はそれを望まない 確かにあの方を救いたいとは思う けれどそれは違う方法で、だ」 おそらく今の状態で過去に戻れば、もっと上手くやれるだろう。ルシフェルとの和解だって簡単に出来るかもしれない。だがそれは仮定の話だ。今は過去になり得ない。
2019-07-29 10:56:42様々な事件があった。出会いも、別れもあった。それは確かにサンダルフォンを変えていった。とりわけ影響が大きいのは目の前にいるジータの存在だろう。
2019-07-29 10:56:43(確かに過去に戻れたとして、何もかもをやり直して上手くいったとして、そうすれば俺は満足するだろう…だがそれはやってはならないことだ そんなことをすれば、俺は災厄を起こした時と何も変わっていないことになる)
2019-07-29 10:56:43それはサンダルフォンに対して尽力してくれた全ての者に対する裏切りだった。それらをすべて否定してやり直そうとはサンダルフォンは考えられなかった。 「そっか」 ジータは安堵したような、喜びを無理矢理押し隠したような声の調子で応えた。
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