ア㊙️イさんのお尻と学ぶイタリアン・マフィアの世界(全21回)

最近出版されたイタリアン・マフィアに関する英語の実証論文の中から、「これは…!」と感じたものをまとめたのだ。大量に出版されている研究の中のごく一部でしかないから、今後追加する可能性があるのだ。 史実・事実・法律に関する部分での誤りがあるかもしれないのだ。お尻さんはイタリア史や組織犯罪、法律の専門家ではないから、あまり鵜呑みにしないことをオススメするのだ!
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目次

マフィアの起源
(1)マフィアと天然資源:シチリア島の硫黄産業
(2)マフィアとレモン:シチリア島の柑橘類産業
(3)マフィアと社会主義:シチリア・ファッシ

マフィアと政治・政策
(4)脅しのテクニック:地方選挙と政治家への攻撃
(5)選挙とマフィア:国政選挙への暴力的介入
(6)マフィアによる選挙動員:キリスト教民主党とシチリアマフィア
(7)フォルツァ・イタリアとシチリアマフィア:ベルルスコーニの疑惑の検証
(8)政治家の頭脳流出:地方議員殺害の効果
(9)金の行方:マフィアと補助金の分配
(10)公共支出とマフィアの進出:1997年イタリア中部地震の影響
(11)仁義なき戦い:政治的コネクションを巡るマフィアの抗争

マフィアと経済・社会
(12)投資家としてのマフィア:リーマンショックと起業と火山
(13)マフィアの経済的コスト:合成コントロール法による検証
(14)マフィアの文化:経済学実験と他者への信頼

組織としてのマフィア
(15)ファミリーの掟: “囚人”のジレンマ
(16)マフィアのマネジメント:ネットワーク分析から見る組織構造
(17)ボスの中のボス:マフィアの組織論
(18)マフィアの教育リターン:賢いマフィアは稼ぐマフィアか?
(19)エリート・マフィア: 昇進の実証分析

マフィア対策
(20)マフィア対策(1):マフィアの “流刑”
(21)マフィア対策(2):補助金のスクリーニングとソーティング

補足
イタリアン・マフィア以外のテーマはココにまとめてあるのだ〜!

マフィアと天然資源:シチリア島の硫黄産業

ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

イタリアン・マフィアの起源は諸説あるけど、シチリア島のマフィアの活動が活発化したのは19世紀半ば、イタリア王国が統一した辺りなのだ。その背景にあったのは天然資源(硫黄)のブームだったという事を明らかにした研究があるのだ。 (1/11) pic.twitter.com/QYrASHQFT8

2019-07-09 07:39:31
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

ナポレオン戦争後にブルボン家の支配下に入ったシチリア島は、1961年にガリバルディによってイタリア王国に統合されるんだけど、封建制から絶対主義国家への移行が遅れていて、行政・警察権力の空白地帯が多かったと言われているのだ。 (2/11) pic.twitter.com/U94JJbsQxA

2019-07-09 07:40:23
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[訂正]
1961年→1861年

ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

国家の管理が行き届いていない中、地主たちを悩ませていたのが盗賊や山賊たちだったのだ。そうした暴力的な収奪に対抗する手段として地主たちが頼ったのが、別の暴力装置、つまりマフィアだった、とされているのだ。 (3/11) pic.twitter.com/ilAzqnH400

2019-07-09 07:40:47
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

シチリア島は硫黄の一大産地で、昔から硫黄の採掘坑があったのだ。時を同じくして、工業化が周辺国で進む事で、硫黄への需要が爆上がりするのだ。その結果、1893年にはシチリア島は世界の硫黄シェアの8割を占めるに至ったのだ。 (4/11) pic.twitter.com/sfwLtGCglj

2019-07-09 07:41:24
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

採掘した硫黄を輸出したかった地主にとって、盗賊や山賊は頭が痛い問題だったのだ。そこで彼らは硫黄の安全な採掘と輸出の為にマフィアに「頼る」こととなるのだ。多くの地主たちがマフィアから「安全」を買い取ることが増えた結果、マフィアの活動が活発になったのだ。 (5/11) pic.twitter.com/4ngLSiEcBY

2019-07-09 07:41:58
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

この研究では、1900年時点でのシチリア島の各地域のマフィアの活動レベルのデータ(なんでこんなのがあるのだ…?)、同時期に存在した硫黄の採掘坑の位置、それからその他諸々の社会経済状況のデータを収集し、統計分析を行ったのだ。 (6/11) pic.twitter.com/M6bkRYG4Fp

2019-07-09 07:42:26
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

採掘坑そのものはマフィアが活動する以前からあったものだから、逆の因果の可能性はあまり無いみたいなのだ。この時期に変化があったのは、硫黄への需要の増加と、封建制の衰退による政治権力(法の支配)の欠如、というのがポイントなのだ。 (7/11) pic.twitter.com/Y3GYyie2sz

2019-07-09 07:44:01
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

分析の結果、硫黄の採掘坑がある地域は、無い地域よりもマフィアの活動が活発だったことがわかったのだ。硫黄産業は当時のシチリア島のマフィアの「良いシノギ」だった、ということなのだ。 (8/11)

2019-07-09 07:45:01
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

莫大な利益を生む天然資源や肥沃な土地があると、生産者はその利益を守る為に「安全」を買う必要があるのだ。シチリア島ではその安全を買う相手となったのがマフィアだったということなのだ。でもマフィアは暴力を使える訳だから、その取引の背後には常に「脅し」があったと思うのだ。 (9/11)

2019-07-09 07:45:24
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

つまり、地主にとってみれば、山賊たちに収奪されないようになった引き換えとして、今度はマフィアに収奪されるようになったとも考えられのだ。行政能力が満遍なく行き届いていればマフィアに頼る必要が無くなる訳だけど、それは徴税という名の別の収奪が始まることを意味するのだ。 (10/11)

2019-07-09 07:45:49
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

今回の話は doi.org/10.1111/ecoj.1… からなのだ。 シチリア島のマフィアの話は他にも何本かあるから、これからバンバン紹介していくのだ〜。 (11/11)

2019-07-09 07:46:06

マフィアとレモン:シチリア島の柑橘類産業

ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

シチリア島の名産品と言えば「シチリアレモン」なのだ。現在でもレモンと言えばシチリアだし、レモンのお酒といえばリモンチェッロ!でも実はそんな美味しい美味しいレモンの栽培がシチリア島にマフィアが蔓延る要因の1つとなったと言われているのだ。 (1/13) pic.twitter.com/xFBAeIeoCt

2019-07-10 19:03:24
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

シチリア島はレモンのような柑橘類栽培に抜群の気候で、11世紀頃から栽培されていたんだけど、19世紀ぐらいに「柑橘類ブーム」がやってくるのだ。その結果、シチリア島の柑橘類需要は爆上がりし、価格も上昇するのだ。 (2/13) pic.twitter.com/huq9wsI6p3

2019-07-10 19:04:15
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

このブームの背景にあったのが壊血病なのだ。長距離航海の船員を長らく悩ませていた壊血病に対し、イギリスの医師ジェームズ・リンドはその予防と治療に柑橘類が有効であることを突き止めたのだ。その効果が知れ渡るようになったことで、シチリア島の柑橘類の需要が増加するのだ。 (3/13) pic.twitter.com/1HMDjHhGKJ

2019-07-10 19:04:45
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

これでシチリア島の柑橘類農家は濡れ手に粟…とも行かなかったのだ。前回も話したように、1861年のイタリア統一後も、シチリア島には有効な警察権力が無く、盗賊や山賊が跋扈していたのだ。地主は彼らから作物を守り、安全に輸出する必要があったのだ。 (4/13) pic.twitter.com/2NiOxAZYsa

2019-07-10 19:05:20
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

そもそもの問題として、柑橘類は高値で取引出来るとは言え、栽培にはかなりのコストがかかったのだ。適切な水量の管理のための灌漑施設が必要だったし、樹木を植えてから果実がなるまでも結構時間がかかるのだ。だから柑橘類農地の地主としては盗まれたらたまったもんじゃないのだ。 (5/13) pic.twitter.com/OozHG8RbvT

2019-07-10 19:06:07
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

もちろんシチリア島には他にも穀物やオリーブのような名産品はたくさんあったんだけど、特に柑橘類は盗賊の被害に遭いやすかったのだ。というのも、想像してみればわかるけど、レモンみたいな柑橘類はめちゃくちゃ盗みやすいのだ。夜中に畑に入ってちょちょいのちょいなのだ! (6/13) pic.twitter.com/HKKC7jfLTf

2019-07-10 19:06:41
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

そこで地主たちが頼ったのがマフィアなのだ。彼らを作物の「警備員」として雇用していったのだ。つまり、前回の硫黄の話とロジックは全く一緒で、 1) 高収益が望める産品 2) 国家(警察)権力の欠如 が合わさることで、マフィアが蔓延る隙間ができるのだ! (7/13) pic.twitter.com/sqvKyoq0Ln

2019-07-10 19:07:13
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

ということで実証なのだ!この研究では、1880年代と1900年時点でのシチリア島各地のマフィアの活動レベルのデータ(前回と同じもの)と、同時点の各地の柑橘類栽培の状況のデータを収集し、統計分析を行ったのだ。 (8/13) pic.twitter.com/ivEk8JRCfR

2019-07-10 19:07:47
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

分析の結果、柑橘類が主要な産品だった地域は、そうでない地域と比較して、マフィアがより活発に活動していたことが明らかになったのだ。 それと同時に、興味深いことに、土地所有が分散している地域ほどマフィアが活発だったこともわかったのだ。 (9/13)

2019-07-10 19:08:06
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

土地所有が分散しているということは、小さな地主がたくさんいるということなのだ。なんでそんなことが起こるのか?大土地所有者がその財力を活かしてたくさんマフィアを雇うから、土地所有は分散していない方がマフィアが活発な気もするのだ。 (10/13)

2019-07-10 19:08:32
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