ア㊙️イさんのお尻と学ぶイタリアン・マフィアの世界(全21回)

最近出版されたイタリアン・マフィアに関する英語の実証論文の中から、「これは…!」と感じたものをまとめたのだ。大量に出版されている研究の中のごく一部でしかないから、今後追加する可能性があるのだ。 史実・事実・法律に関する部分での誤りがあるかもしれないのだ。お尻さんはイタリア史や組織犯罪、法律の専門家ではないから、あまり鵜呑みにしないことをオススメするのだ!
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

でもちょっと地主の気分になって考えてみるのだ。お隣さんがマフィアを雇った時、自分も雇わないとどうなるのだ?そう、自分の土地が盗賊に狙われちゃうのだ!だから土地所有が分散している地域の方が、マフィアもたくさん雇用されるのだ。 (11/13)

2019-07-10 19:08:50
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

これは経済学で言うところの「外部不経済」という現象なのだ。卑近な例をあげると、車上荒らしが発生しているある駐車場で、自分の車にだけ防犯装置をつけると、自分は安心だけど今度は周りの車が被害に遭いやすくなる、みたいな状況を指すのだ。 (12/13)

2019-07-10 19:09:36
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

今回の話は doi.org/10.1017/S00220… からなのだ。 硫黄もレモンも共通しているのは「所有権保護の担い手」としてマフィアが現れたということなのだ。でもこれはシチリア島に限った話ではないと思うのだ〜。 (13/13)

2019-07-10 19:10:01

マフィアと社会主義:シチリア・ファッシ

ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

シチリア島の地主たちの頭を悩ませたのは、これまで紹介してきたような盗賊だけではないのだ。19世紀末に組織化された農民や労働者による社会主義運動も大問題だったのだ。マフィアはこうした運動を潰すために「活用」されていたということを明らかにした研究があるのだ。 (1/15) pic.twitter.com/MPltUPlUsr

2019-07-12 20:41:09
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

シチリア島の経済を支えていたのは農産物の輸出だったんだけど、1880年代にはそれまで好調だった輸出が停滞するのだ。その背景には、オレンジ輸出国としてのスペインの台頭や主要な輸出先だったアメリカにおけるオレンジ生産の増加、イタリアとフランスへのワイン禁輸措置とかがあったのだ。 (2/15) pic.twitter.com/nasBwUD6NA

2019-07-12 20:41:59
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

シチリア島の農産業を支えていたのは日雇い労働者や小作農だったんだけど、彼らの待遇もどんどん悪くなっていくのだ。日雇い労働への需要の減少や小作農にとって不利な短期間の小作契約とかで貧しい生活を余儀なくされていたのだ。 (3/15) pic.twitter.com/3cvY8Lo9eB

2019-07-12 20:42:29
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

そんな彼らが自らの待遇改善を求めて立ち上がったのが1890年前後で、日雇い労働者や小作農を中心に社会主義運動(シチリア・ファッシ)が始まるのだ。都市部から始まった運動は地方の農民を巻き込みながら拡大していったのだ。 (4/15)

2019-07-12 20:43:15
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

この拡大の背景にあったのが、1893年の大旱魃なのだ。旱魃の影響で酷い地域では農業生産量が例年の50%にまで落ち込んだのだ。農業で日銭を稼いで生きてる人からしたら生活が立ち行かなくなるような大ピンチだったのだ。そうした状況を変える為に多くの人々がシチリア・ファッシに加わったのだ。 (5/15)

2019-07-12 20:43:58
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

シチリア・ファッシに参加した人々が求めたのは、賃金の増額や土地の再分配、小作契約の改善や間接税の減税だったのだ。でも経済的なエリート(地主)や政治的なエリート(体制側)からしたら、自分たちが損をするだけだからそんな社会主義的な要求は受け入れられるわけないのだ。 (6/15)

2019-07-12 20:45:05
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

こうしてシチリア・ファッシは1894年に大弾圧を受けるのだ。弾圧には軍も使われたんだけど、ここで登場するのがマフィアなのだ!当時のイタリア、特にシチリア島は弾圧の為の武力が不足していたから、マフィアがそれを手助けするために動員されたのだ。 (7/15) pic.twitter.com/PLpbYWQDDe

2019-07-12 20:45:37
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

この研究では、 ・19世紀のシチリア島各地の雨量(旱魃の度合い) ・1893年の各地のシチリア・ファッシの状況 ・1900年の各地のマフィアの活動レベル に加えて、その他諸々の社会経済状況に関するデータを収集し、統計分析を行ったのだ。 (8/15) pic.twitter.com/GWwmhBeE5n

2019-07-12 20:46:16
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

まずわかったのは、1893年の旱魃が厳しかった地域ほど、同年に社会主義運動(イタリア・ファッシ)が起こる確率が高かったことなのだ。つまり旱魃で生活が厳しくなった結果、日雇い労働者や小作農がシチリア・ファッシの運動に参加していったということなのだ。 (9/15) pic.twitter.com/q6gMbafUHW

2019-07-12 20:47:03
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

1893年の旱魃が直接1900年のマフィアの活動に影響を与えるということはちょっと考えにくいのだ(もちろん可能性はゼロではないけど) 旱魃は社会主義運動の拡大を通じて間接的にマフィアの活動に影響を与えていたと考えると、操作変数として使えるということなのだ! twitter.com/bot99795157/st… (10/15)

2019-07-12 20:48:24
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

まず問題になるのが、カトリック教徒の割合とナチスの得票率の両方に影響を与える要因(交絡因子)を考慮しないと、カトリックの「効果」の推定結果にバイアスがかかってしまうのだ。さらにマズいことに、この交絡因子がそもそもデータとして観察出来ない場合があるのだ。 (5/20) pic.twitter.com/KqefozzHGy

2019-05-27 12:04:07
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

旱魃を操作変数として使った分析の結果、1893年に社会主義運動が起こっていた地域では、1900年時点でマフィアが活発に活動していたことがわかったのだ。 政治/経済的エリート達がマフィアを弾圧の道具として使い、弾圧後もマフィアがそのまま居着いてしまったということを示唆しているのだ。 (11/15)

2019-07-12 20:49:25
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

さらに興味深いのが、社会主義運動がマフィアに与える効果は、駐在している軍が少ない地域ほど強かったこともわかったのだ。つまり、国家として弾圧する能力が低かった地域ほど、それを補完する役割を持っていたマフィアへの需要が高かったということなのだ。 (12/15)

2019-07-12 20:50:05
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

更にこの研究ではマフィアの「帰結」も分析しているのだ。長いから割愛しちゃうけど、1900年の時点でマフィアが活発に活動していた地域では、なんとその後80年以上に渡って政治・経済に悪影響を与えていたみたいなのだ。 (13/15)

2019-07-12 20:50:40
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

ただ、そうした長期的な効果に関しては理論的な説明があまり無いのが残念なのだ。何となくマフィアがいると色々悪いことが起こるんだろうなとは思うんだけど、説明がないとちょっと…という感じなのだ。この辺りはマフィアがもたらす色々な帰結について考察する時にまた振り返るつもりなのだ! (14/15)

2019-07-12 20:51:14
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

今回の話は economics.mit.edu/files/16694 からなのだ(著者の1人はあのダロン・アセモグル) これまで紹介した天然資源や農産物とは別の視点から国家とマフィアの関係に斬り込んでいてとても面白いのだ〜。 twitter.com/bot99795157/st… (15/15)

2019-07-12 20:52:46
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

アセモグル(天才)&ロビンソン(天才)の『国家はなぜ衰退するのか』は、彼らのこれまでの研究成果をかなりわかりやすくまとめていて、一般書としての完成度がめちゃくちゃ高いのだ。「いかに読者を “わかった” 気にさせるか」という観点から考えると、この本に比肩するものはなかなかないと思うのだ…! pic.twitter.com/gFIpopculD

2019-07-09 17:18:43

脅しのテクニック:地方選挙と政治家への攻撃

ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

マフィアは自分達が有利に「ビジネス」をする為に政治家に言う事を聞かせる必要があるのだ。そこでマフィアはお得意の暴力的な脅しを使うんだけど、じゃあいつ脅すか?というのは考えてみると難しい問題なのだ。今回はそのタイミングをイタリアの地方政治の文脈で分析した研究を紹介するのだ。 (1/11) pic.twitter.com/HPLm0IMWUR

2019-07-14 16:54:26
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

イタリアには約8000の地方自治体があるのだ。各自治体の政策はマフィアのビジネスに影響を与えるのだ。例えばナポリのマフィア「カモッラ」がやっているような汚水やゴミ処理の仲介業はかなり「儲かる」ビジネスで、マフィアはそうした利権を狙うのだ。 (2/11) pic.twitter.com/L6rqQWor08

2019-07-14 16:55:00
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

そうした利権を獲得する為、あるいは反マフィア的な政策が実施されることを防ぐためにマフィアは政治家を脅すのだ。理論的には政治家を脅すタイミングは選挙の前でも後でも有効なはずなのだ。例えば選挙の後に議員を脅す事で、マフィアは自分達に有利な政策を彼らから引き出すことができるのだ (3/11) pic.twitter.com/8I2LwIEePN

2019-07-14 16:56:38
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

他方で、選挙前に反マフィア的な候補者や政治家を暴力的に脅す(最悪の場合殺す)ことで、マフィアに便宜を図ってくれそうな人が当選する確率は上がるし、元々は反マフィア的だった人も脅しに屈して親マフィア的になると考えられるのだ。 (4/11)

2019-07-14 16:57:09
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

このように理論的にはどっちの戦略(選挙の前/後に脅す)も有効なんだけど、実際のところはどうなのか?この研究では2010-14年の間のイタリアの各地方自治体の選挙タイミングとマフィアの活動に関するデータを収集し、統計分析を行ったのだ。 (5/11)

2019-07-14 16:57:44
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