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帽子男 @alkali_acid
じゃあパパは? ギガントか? 竜の母と巨人の父か。 応援してるプロ野球の話か? ま、それはそうと。
帽子男 @alkali_acid
昔々あるところにひとりの女の子が住んでおりました。 住んでいたんだよ。 大きな兜の家にね。 兜の家ってなんだ。角つきの兜。でかいやつ。そいつが地面に半ば埋もれて家になっている。
帽子男 @alkali_acid
兜の持ち主は当然その大きさに見合った体格をしていて、それはもう背の高い、山ぐらいはある巨人だったのですが、今は骸骨です。ひとまとめにして近くに積んである。半分石になっているね。夜には虚ろな眼窩に緑の鬼火が点る。ほとんど寝ているが、女の子が一生懸命呼ぶと起きる。
帽子男 @alkali_acid
「おとーさん、おとーさん」 “なんだ娘よ” 「わたし、おかーさんがほしい」 “我が健在であれば、人間どもの街からさらって来たが…” 「さいこんして」 “わはは。かつて巨人の十七諸族から二十一人の武勇誉高き戦姫を娶り、百三十四の子をもうけた我だが、さすがに亡霊となった今はな”
帽子男 @alkali_acid
「えーん…」 “おお、泣くな。泣くな。かわいい娘ナレッタよ…お前の涙は見たくない” 巨人のパパが念じると、骸骨が鳴動し、そばの大地に埋もれた盾が飛び出し、きらきらと陽射しを跳ね返した。
帽子男 @alkali_acid
二百人もの小人の鍛冶が力を合わせて鍛えた、錆びることなき真銀の鏡に、篝の芯に燃える火のごとき紅玉、深き泉の水のごとき蒼玉、朝焼けの明りのごとき黄玉、夏の森に茂る葉のごとき碧玉がはまり、妖しく瞬いている。 「きれい!」 “さあろう。戦場において敵の目を惹きつけ、幻惑したものよ”
帽子男 @alkali_acid
きゃっきゃと盾のまわりを駆け回るナレッタだが、やがて足を止める。 「おかーさんは?」 “少し待つがよい” しばらく経つと、あちこちから蛇の目と鱗の模様を翼に持つ蛇紋蝶、空から色とりどりの羽をもつ七彩烏が舞い降りてくる。それを餌と見込んで蔦持つ獰猛な這いずり草や鋭い牙の忍び山猫も。
帽子男 @alkali_acid
「いっぱい!いっぱいいる!」 またはしゃぐ少女に、巨人の骸骨は穏やかになだめる。 “まだまだ” 不意に、騒ぎ戯れあるいは狩り狩られていた草木鳥獣虫魚が一斉に静止し、天を仰いだかと思うと千々に逃げ去って行った。
帽子男 @alkali_acid
叢雲が日輪を横切るよりなお暗い影が落ちて、巨人の盾から輝きを奪う。 突如、吹き下ろした風があたりを払い、立ち尽くす少女の髪をなぶった。 続いて咆哮が青銅の戦場喇叭のごとく空気を震わせる。 竜が来たのだ。
帽子男 @alkali_acid
「探したぞ巨人の王。百年ぶりか。しばらく姿を見せぬと思えば、かような僻地で朽ち果てていようとはな。妾(わらわ)との決着もつけず、無様な最期よ」 “そちらは息災のようで何より竜の女王よ” 骸骨岩が挨拶を返すと、鳥のような青い羽毛をまとったしかしまごうことなき長虫の媼(おうな)が嗤う。
帽子男 @alkali_acid
剣のような鉤爪が真銀の鏡を引っ掻き、やわらかな羽毛で包んだしかし鞭のごとくしなる尾が宝石の飾りをなぞる。 「そなたの骨など噛んでも面白くないが、武具にはいささかの価値がある。妾の褥を飾る新たな調度としよう」 “もはや我には用なきもの。くれてやってもよいが、一つ頼みがある”
帽子男 @alkali_acid
「頼みとな。ほほ。かつて北方に血の河を作った巨人の王がしおらしい。言うてみよ」 鳥翼の爬虫がしなやかな首をのけぞらせてうそぶくと、かたわらのどくろは緑の鬼火を眼窩に揺らめかせて告げた。 “そこな娘の母となってやってはくれぬか” 「うむうむ母とな…は?」 “母にな”
帽子男 @alkali_acid
ナレッタはしばらく兜の家の影に隠れていたが、ぴゅっと飛び出してきてふかふかの尻尾にしがみついた。 「おかーさん!!」 「は?」 “我が最後の娘ナレッタだ” 「これ離さぬか!妾の尾を…ええい、娘だと?小さいではないか!」 “血はつながっておらぬが、我が子だ” 「何?死んでから乱心したか?」
帽子男 @alkali_acid
「おかーさん!おかーさん!」 「待て離さぬか!ええい!!食らうぞ!!」 「きゃー!!」 相手をしてもらえた喜びに有頂天になり、尾を這い登ってくるナレッタに、竜は嘴を開き、ぞろりとならんだ牙を覗かせるが効き目はない。むしろ喜ばせたかのようだ。
帽子男 @alkali_acid
「断る!妾とそなたは不倶戴天の仇同士。何を血迷うて」 “もはや昔のこと” 「妾は決着がついたなどと思っておらぬぞ。骨になって逃げおおせたと」 “ナレッタの母となってくれたら、汝に勝ちを譲ろう” 「黙れ!たわごとを」
帽子男 @alkali_acid
“天下の主はただ汝のみ。我は膝を屈して臣従してもよい。もっとも膝はもうないがな。ふははは!!” 「この…巨人の王!そなたというやつは…ええい小娘!離れよ!妾は齢五百を数える今日まで娘などと持った試しがない!まして人の子など」 「おかーさんふかふかー!」
帽子男 @alkali_acid
いつのまにか背中の、翼の付け根のあいだに張りついた少女はすっかり青い羽毛に埋もれてすーすーと寝息を立て始めた。 「な…なんだこの生き物は」 “なかなか愛らしいであろう” 「そも。この娘の母になるとは、そなたの妃になるのと同じではないか」 “まさかな”
帽子男 @alkali_acid
骸骨の岩は面白そうに鬼火を瞬かせる。 “骨と契るものはおるまいが” 「…ふん。そのざまでは確かに。では妾がこの娘をとって食おうとも、何もできぬのでないか?」 菫の毛並みを持つ鳥龍がまた牙を覗かせてそう歌いかけると、石となった屍骸はかすかに鳴動した。
帽子男 @alkali_acid
“何もできぬではないが…汝を信じておる” 「たわけめが。妾の何を信じるというのだ」 “気位をな” 「ならば虚ろな目にもの見るがよいわ」
帽子男 @alkali_acid
ようじょなんかに絶対負けない。 竜の女王は傲然と翼を畳んで胸をそらした。
帽子男 @alkali_acid
あっという間に女王は小さな娘の虜になった。 「ナレッタ。これナレッタ」 「おかーさん!おかーさん!ぱたぱたーってして」 「やめぬかナレッタ」 「ぱたぱたー!きゃははは!」
帽子男 @alkali_acid
少女はすっかりふかふかの鳥竜になつき、どこへ行くにも一緒。 母が翼を広げて飛ぶときは、しっかり羽毛のあいだに捕まって、冷たい風から身を守りながら、うきうき青い空と雲を眺める。 背からも地上の景色が見られるよう、女王は翔びながら旋回する。娘が落ちそうになるとすばやくまた元の姿勢に。
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コメント

🍠どこ🍄 @dokonol 2019年8月18日
こんなパパとママがほしい