[R-18]信じて送り出した子煩悩ママドラゴンが吟遊詩人の男にドハマリしてアヘ顔ダブルピースを送ってくるなんて。

アヘ顔ダブルピースは送ってきません。
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帽子男 @alkali_acid

女王は辺境の地で巨大な触手樹を狩り、汁気の多い幹を貪りながら、芯に隠れた最もおいしい蜜核を養い子にくれてやる。 「おいしい!おいしい!おかーさんこれおいしい!」 「歯をせせるのだぞ」 「うん!おかーさんもたべて」 「妾には少なすぎる」 「たべて」 「しようのない子じゃ」

2019-08-17 11:23:51
帽子男 @alkali_acid

女王の洞窟には世界中から集めてきた宝物が山ほどある。 剣や兜や馬具や、首飾りや指輪や王冠も。楽器に彫刻に鋳像に。 黄金と宝石で装丁した書物も。 「これなあに?」 「人間の本じゃ」 「みたい!」 「よかろう」 鉤爪の先で器用に錠前を外すと頁がめくれる。 「なに?」 「文字じゃ」

2019-08-17 11:27:21
帽子男 @alkali_acid

「文字?」 「言葉をかたちにしたものじゃ」 「ことば?どうすればきけるの」 「読むのじゃ」 「読むってどうするの?」 「妾は竜。人の文字は詳しゅうない」

2019-08-17 11:28:30
帽子男 @alkali_acid

ぶーっとなるナレッタ。 「読みたいか?」 「うん。だって絵がかわいいもん」 「少し待て。そなたの父に相談してみるとしよう」 本を持たせて巨人の骸骨のもとへ。 “娘よ。ひさしぶりだ” 「おとーさん!ごめんなさい!」 “よいのだ”

2019-08-17 11:30:17
帽子男 @alkali_acid

骨の岩は鬼火をまたたかせて話す。 “母と過ごすのは楽しいもの。我は汝がおらぬあいだは眠るだけ” 「すっごくたのしい!」 骸骨の周りで跳ねる娘。母はしばらくそのようすを見やってから、尾をのたうたせる。 「巨人の王よ。人間の字の読み方を教えよ」 “我は巨人。小さきもののことは明るくない”

2019-08-17 11:33:45
帽子男 @alkali_acid

「役に立たぬやつ」 “人間は悪辣。ナレッタに奴等の知恵など与えぬがよいぞ” 「娘が本を読みたがっておるのじゃ」 “竜の歌を聞かせてやるがよい。翼の歌を。汝が戦場で響かせていたあの音(ね)を。あれこそナレッタにふさわしい” 「つまらぬ昔話を」

2019-08-17 11:37:47
帽子男 @alkali_acid

母は翼で父の化石となった額を打ち据えて帰ろうとしたが、ひさしぶりに兜の家で泊まりたいという娘の願いに負けて一夜を過ごした。 竜の歌と巨人の歌を交互に聞きながら、養い子はやがて青い羽毛に包まれ、黒い髑髏に見守られながら眠りについた。

2019-08-17 11:39:53
帽子男 @alkali_acid

「まだ人間の本を読みたい気持ちは変わらぬか」 「うん」 「よかろう。ではしばし父のもとでおとなしくしておれ」 「おかーさんは?」 「すぐ戻る」 竜の女王は翼を広げて再び天へ。 巨人の王は虚ろな眼窩で見送る。 “人間にかかわると災いを招くぞ”

2019-08-17 11:42:49
帽子男 @alkali_acid

「災いだと?ふりかかるのは妾にではない。きゃつらめにじゃ」 “あやつらの悪辣を軽んじるな” 「くだらぬ。それにそもそも、妾に人の子とのかかわりをもたらしたのは、そなたではないか」 “しかり…”

2019-08-17 11:44:43
帽子男 @alkali_acid

女王は針路をはるか人境へ。 ちっぽけな石と木の建物が密に集まる町々へ。 次々に飛び越え、大地を小竜がたわむれにひっかいたような道をたどって、やらが無数の隊商路がひとつに結びつくところ、都へたどりつく。 日が沈んだ頃、雲の下へ降りると、宮殿では宴のさなか。

2019-08-17 11:48:16
帽子男 @alkali_acid

竪琴を抱いて甘く歌う美貌の吟遊詩人が、貴婦人の熱いまなざしを浴びている。 「かくて魔法の薬を口にした人魚の姫は、両脚を授かり、愛する王子のもとへ向かったのですが…」 懐かしい物語だが、蜂蜜で潤したような喉から響くと魅惑に満ちて淑女等の耳をくすぐる。

2019-08-17 11:50:57
帽子男 @alkali_acid

「なんて素敵なお話」 「ああ、声を失っても思い人と結ばれたいだなんて」 「純粋な愛こそおとめの宝」 麗しい聴き手からそろって喝采を浴びる。 だが宴の花というべき妙齢の令嬢、夫人の注目が一点に集まると、せっかく歓心を買わんと着飾り、舞踏と機知に磨きをかけてきた貴公子連は面白からず。

2019-08-17 11:55:14
帽子男 @alkali_acid

「ふん。人魚が人間になるだの。馬鹿げた話ばかり」 「賢者の学院出身の秀才が語る話か」 「奴めは女癖の悪さであそこを追い出されたのよ。弄ばれて命を絶った娘もいるとか」 「ふん。柔弱そうに見えてとんだ悪党だ。ひとつ恥をかかせてやろう」

2019-08-17 11:57:11
帽子男 @alkali_acid

「しかり。詩人殿。物語をするなら、我等のために騎士や竜が出る勇ましいものを」 詩人はさわやかに笑いながら、弦を爪弾く手を止め、ひどく冷たい、不遜ともいえる眼差しで伯爵令息だか男爵令息だかを眺めやる。 「竜、でしょうか?」 「さよう!いささか貴公の歌は、我等の耳には甘すぎてな」

2019-08-17 11:59:48
帽子男 @alkali_acid

「…なるほど。武勲輝かしきもののふの好める唄は、細やかなご婦人の耳が欲するものとは異なりましょう。日ごろ陶(かわらけ)の鎧やろくろの槍を扱うならば、自然聞く音もそちらに親しむ」 流れるようにそう話す楽人に、たちまちからかいをしかけた貴公子は真赤になる。

2019-08-17 12:05:39
帽子男 @alkali_acid

実は伯爵令息だか男爵令息だかは、家門の方が一度傾きかけたのを、美しい器を作る製陶の窯を興して盛り返したのだが、あまりに商売に熱心で買い手には平民の富豪などもいるため、いささか貴族らしからぬと陰口もたたかれていた。

2019-08-17 12:26:02
帽子男 @alkali_acid

詩人の露骨なあてこすりは、貴公子を赤面させるだけでは済まなかった。 「図に乗るな女たらし」 「お気をつけて」 距離を詰めようとした伯子だか男子だかは、すっとすれ違うようにして前へ進んだ詩人のそばでいきなり無様に転んだ。 「ぐっ」 「葡萄酒を過ごされましたな」

2019-08-17 12:29:12
帽子男 @alkali_acid

くすくす笑いが貴婦人のあいだに起こり、いくばくか貴顕にも広がる。 「今宵のふるまいは特に強い。御心を映すが如く、王に栄えあれ」 詩人が音頭をとると、皆が盃を上げて和す。 「さて。竜の歌をご所望でしたね。素焼きの竜でしょうか?それとも釉のかかった竜でしょうか?」

2019-08-17 12:31:18
帽子男 @alkali_acid

「おのれ…」 万座の前で恥をかいた貴公子は歯噛みして立ち上がる。周りには見えなかったが、詩人が足をかけてけつまずかせたのだ。 伯爵令息だか男爵令息だかの仲間がひそひそ話す。 「止めた方がよいな」 「果し合いになるぞ」 「いくら何でもあの小鳥を串刺しにしてはご婦人の受けが悪い」

2019-08-17 12:32:55
帽子男 @alkali_acid

「いや待て。思い出したぞ。やつは賢者の学院に身を置いていたころ、女がらみの果し合いで二人殺しているという噂があった」 「あのひょろひょろが?」 「やつは琴と同じくらい剣も使うという話があった」 「まずい」

2019-08-17 12:34:29
帽子男 @alkali_acid

吟遊詩人は胸に抱いた竪琴を鳴らしながら歌うように尋ねる。 「おお、ろくろの騎士が望むは、素焼きの竜か、釉の竜か」 「おのおおれええええ」 だが結末がどうなるかは結局解らなかった。 というのもちょうど、青い羽毛をまとった鳥翼の竜が宮殿の窓を打ち破り、長首と前肢を捻じ込んだからだ。

2019-08-17 12:36:30
帽子男 @alkali_acid

「…吟遊詩人か。まあよかろう」 「!?」 鉤爪の生えた手が楽人をひっつかむと、有無を言わせず外へひきずりだし、はるか雲のかなたへと飛び去って行った。

2019-08-17 12:37:47
帽子男 @alkali_acid

「こ、これは…私を喰らうつもりか怪物め」 動転しながらもどうにか人間の言葉で話しかける吟遊詩人を、竜はちらと目もくれない。 「私をさらえば、必ずや王の怒りを買うぞ…ええい人語が通じぬか浅ましい獣め」 「黙れ」

2019-08-17 12:39:37
帽子男 @alkali_acid

“人の言葉など舌が汚れる。竜の言葉で語れ” 「何…なんと…断片は解るが…確か学院で覚えた…とうの昔に滅んだ言葉だな…いったい…」 「もうよいわ」

2019-08-17 12:40:54
帽子男 @alkali_acid

竜の女王は洞窟へ戻ると、山ほど積み重なった財宝から、玉髄の鎖を掴み出して、なげつける。蛇のごとくくねって自然に若者へ巻きつき、身動きを封じる。 「くだらぬ呪いだが、人の類には効くようじゃな。ちびめ逃げようと思うでないぞ。その鎖はそなたごときで抗えぬ」 「いったい…何のつもりだ」

2019-08-17 12:44:43
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