[R-18]信じて送り出した子煩悩ママドラゴンが吟遊詩人の男にドハマリしてアヘ顔ダブルピースを送ってくるなんて。

アヘ顔ダブルピースは送ってきません。
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帽子男 @alkali_acid

「そなたは、我が娘に文字の読み方を教えるのじゃ。人の言葉をな」 「娘?私に竜の家庭教師になれというのか?冗談ではない」 「黙れ」 女王は飛び去った。 詩人は茫然と伴侶たる楽器を抱えたままあたりを眺める。 ありとあらゆる財宝が乱雑に積み重なっている。 いくつかは見覚えがある。

2019-08-17 12:47:49
帽子男 @alkali_acid

というより学んだ伝説や神話の中でうたわれている利器や魔具だ。 「…馬鹿な。これほどの数…あの怪物は…」 記憶をたどり、やがて思い出す。まだ世界が若く、人の数も力もはるかに小さかったころ、北方の広漠たる大地を暴れまわった竜の女王の物語を。

2019-08-17 12:50:17
帽子男 @alkali_acid

「だが…とうに英雄の手で討たれた…いや…どうだった」 竜の女王にはいくつかの敵がいた。最強のものは獰猛な巨人の王で、角のある兜をかぶった山のような大男は、幾度となく軍勢を率いては青い羽毛のくちなわと天下に覇を競ったという。

2019-08-17 12:51:40
帽子男 @alkali_acid

確か最期についてはようとして知れない。 巨人の王の方は、人間の英雄の機知によって骨が石と化す毒矢を受け、末期の醜をさらすのを嫌って一族の前から姿を消したともいうが。 「何という事だ…生きて伝説そのままを目にしようとは」

2019-08-17 12:54:29
帽子男 @alkali_acid

「あれは、もしや茨の城の姫に覚めぬ眠りをもたらす紡ぎ車…あちらは隠れ身の外套、女王が問えば応える魔法の鏡…履けば踊るのをやめられぬ呪いの靴もある…どれも人間には重大な品だが…竜には玩具か…」

2019-08-17 13:07:45
帽子男 @alkali_acid

「はるか砂漠の国にあったという美食家の敷布…こんこんと不老長生をもたらす酒が湧くという東方の…瓢箪(ひょうたん)といったか…すさまじい。あの竜はどこまで遠征したのだ」

2019-08-17 13:11:18
帽子男 @alkali_acid

吟遊詩人は喉に玉髄の鎖が蛇のように巻きつくのを忘れて、敷布に近づくと、平に広げて、一歩離れ、竪琴をかき鳴らした。 「砂漠の国に伝わる敷布よ。伝説の通りならば、私に世界の佳肴を与えよ」 かすかに陽炎がゆらめきたって、湯気のたつ料理を盛った皿や器があらわれる。 「まさに…」

2019-08-17 13:13:19
帽子男 @alkali_acid

味を観ると、なるほどどこか王侯の宮廷で供する素晴らしい味わい。ごちそうには慣れている青年もうならざるをえない。舌も鼻も知らぬ香辛料がたっぷりと使ってあり、肉は柔らかく、菜はみずみずしく、果実は甘く薫り高い。 続いて瓢箪の栓を抜き、一口煽ると、陶然となる。 「…これは」

2019-08-17 13:15:17
帽子男 @alkali_acid

「…確か東方では不老長生をめざすものが、修練のすえに飲むというな…並みの体では…あまりたしなまぬ方がよさそうだ」 全身が火照り、情欲の炎が燃える。 詩人は懸命に楽器の弦を律して気を散らした。 「一つ持ち帰っただけで人境では多財をなせる…だが…」

2019-08-17 13:17:35
帽子男 @alkali_acid

どうやって洞窟を出ればよいのやら。 青年は、いつになく女への激しい飢えを抱きながら、まぶたを閉じ、眠りについた。

2019-08-17 13:18:40
帽子男 @alkali_acid

眼を覚ますと、少女がのぞき込んでいた。あどけなさの残る顔立ちで、くせのある栗色の髪、はしばみ色の瞳に、そばかすの浮いたつややかな肌をしている。長じれば絶世の美貌になると、詩人はまだ眠けのとれきらぬ頭で考えた。 「こんにちわ!」 元気に挨拶してくる。 「…ごきげんよう」

2019-08-17 13:20:42
帽子男 @alkali_acid

その後は見知らぬ言葉でまくしたてる。二種類の言葉がまざりあっている。竜の言葉、もう一つは巨人の言葉か。 「わからない。すこし、ゆっくり」 竜の言葉をどうにか組み合わせて喋る。舌が重い。 人間がうかつに竜の言葉を使うと心身に負担がかかるという。だが童児はいささかもこたえていない。

2019-08-17 13:22:33
帽子男 @alkali_acid

「我が娘だ。人間の言葉を教えよ」 殷々と響き渡る声の主は、青い羽毛と鳥翼の女王。 「…娘。だが人では…」 「もし毛一筋でも傷つければ、八つ裂きにすると思え」

2019-08-17 13:24:43
帽子男 @alkali_acid

「わたし、ナレッタ、そっちは?」 「私は…ギヌーヴ。吟遊詩人」 とりあえず青年は竜の命令に従うよりなく、少女に言葉と文字を教え始めた。

2019-08-17 13:26:03
帽子男 @alkali_acid

ナレッタは砂が水を吸うようにギヌーヴの教えを覚えていった。 驚くべき上達だった。歌や楽器の演奏も難なく覚え、舞踏もみるみるうちに身に着けた。 「すばらしい天稟だ」 「へへー!」 「私も負けていられないな。竜の言葉を教えてくれ」 「おしえる?わたしが?せんせいに?」 「そうだ」

2019-08-17 13:27:47
帽子男 @alkali_acid

「君の母上は、私が人の言葉で話しかけるのを嫌うのでね」 「わかった!」 「ありがとう」 青年も言葉にかけては熟練であったので、昔学んだ竜の言葉の埃をはらい、多くの知識を得て、少女ほどではないにせよ常ならざる素早さで巧みになっていった。

2019-08-17 13:30:06
帽子男 @alkali_acid

「ナレッタはいつも元気だな」 「うん!おとーさんがね、おっきほねなんだけど、ふーっていきをふきかけてくれてね、きょじんのすべてのすこやかさがあるようにって」 「ふむ」 「おかーさんはね、血をのめって。おかーさんいたそうだったから、やだったけど、でものんだらげんきだよ!」

2019-08-17 13:32:10
帽子男 @alkali_acid

「伝承によれば竜の血を飲んだものは多くを知るという…私も…」 「なあに?」 「何でもない。さあ昼ご飯にしよう」 「うん。私先生のごはんすき!」 美食家の敷布から世界の佳肴を呼び出し、二人で少しずつつまむ。 礼儀作法を教えると、すぐに飲み込む。 だがたまに無作法をして遊ぶ。

2019-08-17 13:34:23
帽子男 @alkali_acid

竜の女王は、奪い取ったまま放っておいた宝のことなどいつもはあまり思い返さないが、娘が喜んでいるので使うのを許した。 「ナレッタをわずかでも泣かせるような品に触れるでないぞ」 「承知しています」

2019-08-17 13:36:31
帽子男 @alkali_acid

ギヌーヴは慇懃に応じた。喉を締めつける玉髄の鎖などないかのように。 ナレッタは、姿形の似た先生兼遊び友達にすっかりなついて、いつも機嫌が良い。機嫌が良いのは元からだが。問われればなんでも答える。 「ときどき出かけるのはどこへ?」 「おとーさんのとこ」 「お父上?どなたかな」

2019-08-17 13:38:54
帽子男 @alkali_acid

「いったでしょ!おーきなほね」 「ああ」 解らぬまま相槌を打つ青年に、少女はちゃんと説明しようとする。 「あのね、おかーさんは、きょじんのおうって、よんでる」 竜の言葉だ。直訳するとやっかいものの頭目とでもいった意味。

2019-08-17 13:40:48
帽子男 @alkali_acid

「巨人の王?竜の女王は巨人の王の妃なのかい?」 「ううん。ちがうって。おかーさん、それいうとおこるよ」 「そうか」 「さいこん、したらいいのに、あ、でも、さいこんしたら、わたしがおとーさんのおよめさんになれないかなー」 ぎょっとするギヌーヴにナレッタはしゃべり続ける。 「あのね」

2019-08-17 13:42:27
帽子男 @alkali_acid

竜の母と巨人の父の話題はお気に入りらしい。 「おとーさんは、二十一にんもおきさきがいたの。きょじんのおうはね、けらいから、けっこんしろ!っていわれたらことわれないんだって」 「王なのに?」 「そうしないと、しょぞくの…どうめい?がこわれるって」 「面白いね」 「ほんと?そんでね」

2019-08-17 13:43:55
帽子男 @alkali_acid

「でもね。おとーさんは、わたしぐらいちいさいころ…あ、でもすっごくおおきかったんだけど…まだだれとも、けっこんしてなかったときね、空を飛ぶおおきなりゅうをみたの」 「竜を」 「それでよかったんだって。この世でいちばんうつくしいものをみたから、もうだれとけっこんしても」

2019-08-17 13:45:19
帽子男 @alkali_acid

巨人が竜を見て美しいと思ったとは、人間の聴衆には聞かせてもあまり通じないが、詩の題材にはなりそうだった。 青年はしかしもう少し有益な話を聞きだそうとさらに水を向ける。 「お母上は幾人の王配…夫をお持ちか」 「ひとりも。おかーさんはけっこんとかより、うばったり、たたかったり」

2019-08-17 13:48:06
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