プロカルシトニンの功罪:どう使うべきか? - 第4回東京感染症サミットの講演より

第4回東京感染症サミットでのプロカルシトニンについての講演内容です。
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EARLの医学ツイート @EARL_med_tw

第4回東京感染症サミットでの私の講演内容の連ツイします。 「プロカルシトニンの功罪〜どう使うべきか?〜」

2019-08-24 19:35:51
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はじめに,私のスタンスはプロカルシトニン(以下PCTと略す)使用にはConの立場である。持論として「エビデンス上はPCT使用は抗菌薬適正使用の一助になっているが,臨床現場ではPCTが不適切にオーダー・解釈されてしまい,逆に抗菌薬不適切使用につながっている」と考えている

2019-08-24 19:39:36
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臨床現場でよく見られる不適切なPCT使用例 ・何でもかんでもPCTがオーダーされ(特にER),非常に無駄が多い ・不明熱(と病名を誤用されたすぐに原因が判明する感染巣未特定例)でPCTオーダー ・PCTの数値解釈ができない,カットオフ値を超えてるか否かだけだ判断

2019-08-24 19:42:49
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PCTをばんばんオーダーする研修医に私が聞くこと ・PCTのお値段知ってる?(3000円ちょい) ・PCTを測ることで何を診断したいの?検査前確率は? ・敗血症と明らかに分かる患者でPCT測る意味は? ・PCTはCRPよりどれくらい精度いいの? ・PCTの偽陽性,偽陰性知ってる?

2019-08-24 19:45:24
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ここで検査の考え方について触れておきたい。「CRPは測るな」と言う先生や「CRPを測ることはダサい」と思ってる意識の高い研修医もいたりする。確かに,CRPを参照せずとも身体所見やバイタルサインで判断できることは多いし,CRPがあてにならない状況もある(多臓器障害を有するICU患者など)

2019-08-24 19:48:49
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だが,多くの場合は,CRPの継時的推移等は(多少のタイムラグはあるが)病勢を反映する。感染症が専門でない医師に感染症専門医なみのアセスメントを要求するのは現実的でほなく,臨床において,CRPの使用が抗菌薬使用においてそれなりにいいパフォーマンスを示し得ることもまた事実である。

2019-08-24 19:52:58
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また,エビデンスは少ないが,CRPの使い方次第では感染症医並みかそれ以上のパフォーマンスを示し得るかもしれない研究もあり,そういうことも踏まえてCRPの有効活用をしていくのはありだろう。勿論弱点等は知っておかなければならないが

2019-08-24 19:54:54
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最近の研究では,COPD急性増悪にCRPを用いた抗菌薬治療決定を導入するか否かを比較した653例RCTが今年のNEJMにpublishされており(PMID:31291514),抗菌薬使用頻度は57.0%vs77.4%でCRPガイド群の方が有意に低く,COPDの健康状態もCRPガイド群の方が良好であった。これもCRP有効活用の1例である。

2019-08-24 20:01:00
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バイオマーカーは診断,病勢把握,予後推定を目的として行われ,その有用性は検査精度だけではなくその先の「その検査を行うことで患者の転帰が改善したか」まで評価して行う。これは診断基準も同じであり,最終的な患者アウトカムの改善を目標にすべきである。

2019-08-24 20:03:14
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検査の精度に関しては,感度・特異度だけで語られることが多いが,必ず検査前確率(有病率)と検査後確率(陽性的中率)なども考慮しておかないと誤った解釈をしてしまいがちである。

2019-08-24 20:05:03
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一例として,よく外科の先生から「術前のHIVスクリーニング検査(感度100%,特異度99.3%)で陽性と出たのでHIV感染でいいですか?」と聞かれることがある。これにたいして私はいつも「たぶん違います」と答えている。

2019-08-24 20:07:11
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どういうことか?確かにHIV迅速キットは極めて高精度である。しかし,(大雑把に単純計算するが)日本のHIV有病率は16/10万人程度であり,10万人に検査をすると真のHIV感染者16人は全部拾い上げられるが,同時に非感染者のうち700人も陽性となってしまう。その結果,陽性患者の98%は偽陽性である。 pic.twitter.com/ztZ2YrFXvz

2019-08-24 20:12:57
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一方で,保健所でもHIV迅速検査を行っているが,こちらでは偽陽性率は低くなる。これは,HIVに感染したかもという心当たりのある人が検査を受けに行くからであり,つまりは術前スクリーニング集団よりも検査前確率(有病率)が高いからである。 ※HIV迅速検査陽性例ではあわてずウェスタンブロットを

2019-08-24 20:18:14
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検査をオーダーする以上は患者をしぼる=検査前確率を意識すべきで,何でもかんでもオーダーしてしまうと偽陽性率も高くなる上に無駄が多くなり,変に結果に惑わされる羽目になる。感染症の迅速検査では研修医と指導医で検出感度に差が見られることも報告されている(日小児呼吸会誌2018;26:276-81)

2019-08-24 20:20:40
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また検査値はグレースケールで解釈すべきで,定められたカットオフ値より上か下かという二択で判断すべきではない。その絶対値がカットオフ値からどれだけ離れているのか,そもそもこのカットオフ値はどういう患者集団で決定されているのかを知っておかなければならない。

2019-08-24 20:22:43
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【福島・小名浜港】水揚げされた全ての魚種に対して1種類ずつ切身にして放射能検査を実施 国の基準が100ベクレルに対し25ベクレルを一つの基準に snjpn.net/archives/153513 この基準クリアしててもなおも「福島の魚は放射能がー」って言う人たちがいまだにいるんですよね。わざととしか思えませんが

2019-08-25 11:08:03
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PCTのカットオフ値は「何を補助診断するためなのか」で変わる。検査課から返ってきた結果で病院で決めている基準値より高ければhighと表示されるが,この表示有無だけで判断するのは危険である。必ず目的の疾患(敗血症?or細菌感染?)を疑う上で絶対値を解釈する必要がある。

2019-08-25 20:26:10
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カットオフ次第で疫学も変わる。Will Rogers現象というものがある。Will Rogersは米国のコメディアンであり「もしオクラホマ州の出稼ぎ労働者(州内で知的レベルが低い人扱い)がカリフォルニア州(オクラホマ州より知的レベルが低い扱い)に移動したら,両方の知的レベルが上がるだろう」

2019-08-25 20:28:29
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数学的に説明すると 集合A{1, 2, 3, 4, 5}平均3 集合B{6, 7, 8, 9, 10}平均8 集合Bの6を集合Aに移すと 集合A{1, 2, 3, 4, 5, 6}平均3.5 集合B{7, 8, 9, 10}平均8.5 となり,両方の平均値が上がる

2019-08-25 20:31:44
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私見として敗血症or細菌感染症がどの程度疑われるか(検査前確率がどれくらいか)次第で ・ほぼ確信:あえてPCTを測る意味はなくコストの無駄(加えて偽陰性が出やすくなる) ・たぶん:考えの補強にPCT使える? ・悩む:PCT使い時かも? ・ほぼ違う:検査前確率が低すぎてPCT測る意義乏しい

2019-08-25 20:36:02
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ここらかは具体的なPCTのエビデンス等に触れていく。PCTはアミノ酸116個よりなる分子量約13kDaのペプチドであり(PMID:6546550),当初は甲状腺髄様癌のマーカーとして研究され,小細胞肺癌患者においても上昇することが分かったが,その後PCTの研究は一旦凍結された。

2019-08-25 20:38:32
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その後,イランイラク戦争においてマスタードガスが使用され,重症呼吸障害が多数発生したことが報告された。1991年の湾岸戦争でもマスタードガスが使われる可能性があるとして,湾岸戦争の数カ月前にマスタードガス吸入による重症肺障害の診断マーカーとして気道熱傷患者を対象とした研究がなされた。

2019-08-25 20:42:39
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実際にNylenらの研究(PMID:1427616)で気道熱傷患者においてPCTが有用なマーカーになりうることを示した。さらに,気道熱傷患者の中に極端にPCTが高い患者が複数例発見され,その患者は感染合併や敗血症を呈していた(PMID:8094770)ことから,細菌感染症や敗血症でのPCTの研究が始まった。

2019-08-25 20:45:18
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PCTは平常時はカルシトニン前駆体として甲状腺C細胞で合成されている。しかし,細菌感染症罹患時は病原体因子PAMPsの作用により,TNF-α,IL-1β,IL-6などの炎症性サイトカインにより全身の臓器で多量のPCTが産生され,分泌される。ウイルス感染ではINF-γが産生されるため,逆にPCT産生抑制が起こる。

2019-08-25 20:50:59
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細菌感染時のPCTは全身臓器から分泌される一方で白血球からは分泌されない。このため,ステロイドや抗癌剤などによる白血球への影響があってもPCTは高値を示す。PCTの動態は,CRPより早い段階で立ち上がりが認められ,かつ半減期も長いことから血中で長時間高濃度を維持しやすい。

2019-08-25 20:56:20