嵐の入港

まず荒天時の港内は危険なので入らないでください。
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同志雪の人@活動低下 @yuki_8492

この日の出撃は大荒れだった。低気圧の進出が予想より早すぎたのだ。 出航したときには1mかそこらだった波は、今や5mを超えるほどにまでなっていて、とてもではないが戦争などと言っている場合では無くなっていた。

2019-09-03 00:19:15
同志雪の人@活動低下 @yuki_8492

「帰ろう!みんな!これじゃ任務どころじゃない!」 〈川内〉が頭からたっぷりと海水を浴びながら示した方針に、反対するものは居なかった。兎にも角にも、こんな海域には1秒だって長くは居たくない。

2019-09-03 00:22:42
同志雪の人@活動低下 @yuki_8492

海水との接触で推力や浮力を得ている艦娘は、加護の守りで雨を弾くことは出来ても、海水を弾くことは出来ない。その身で受け止めるしかないのだ。だが、皆もう海水を浴びるのはうんざりだった。

2019-09-03 00:24:23
同志雪の人@活動低下 @yuki_8492

「でも〈川内〉さん!ブンカーには入れないですよ!」 〈朝潮〉の指摘は的を得ていた。こんな荒天下でブンカーの開門を要求しても、港務隊が渋るのは間違いないし、仮に開いたところで無事に入れるとは思えなかった。嵐で右に左に弄ばれながらでは、狭い水門を通るのは難しかろう。

2019-09-03 00:28:31
同志雪の人@活動低下 @yuki_8492

〈霞〉はその様子を想像してみた。波に風にと翻弄される駆逐艦娘の船体が、上下左右に振り回されながら、それでもゆっくりと着実にブンカーへと近付いていく。

2019-09-03 00:36:08
同志雪の人@活動低下 @yuki_8492

急いではダメだ。あまり速度を出すと波の谷間に突っ込んで自ら沈んでしまうか、山を駆け上がり放り上げられて空を舞い、着水そのまま転覆するかしてしまう。 だからゆっくりとだ。海面に張り付いて、亀のようにゆっくりと慎重に、しかし確実に前進しなければならない。

2019-09-03 00:37:19
同志雪の人@活動低下 @yuki_8492

そしてようやくブンカーにたどり着いて水門をくぐろうかと言うとき、それまで通りに外力で横に流され、鉄筋コンクリートの隔壁に叩き付けられる。艦娘は頑丈だが、ブンカーほどではない。 ブンカーは1t爆弾の直撃にも耐えるが、駆逐艦娘では250kgだって厳しいのだ。

2019-09-03 00:41:02
同志雪の人@活動低下 @yuki_8492

加護はごっそり削られ(たぶん大破くらいだ)、〈霞〉は叩き付けられた衝撃でふらりとよろめく。そこへすかさず逆向きの外力がかかり、反対側の隔壁にもう一度叩き付けられる。 ワン・ツーパンチ。見事な連撃で加護は削り尽くされ、軽減仕切れなかった衝撃が裸同然の〈霞〉に襲いかかる。

2019-09-03 00:45:02
同志雪の人@活動低下 @yuki_8492

生身の状態で鉄筋コンクリートに叩き付けられるのだ。頭は落としたスイカのように割られ、身体中の骨という骨が折れたり砕けたり、皮膚を突き破って飛び出たりするだろう。 〈霞〉の中身は縦方向へぶちまけられ、隔壁を鮮やか(だといいな)な色彩で彩る。

2019-09-03 00:48:24
同志雪の人@活動低下 @yuki_8492

かなりスプラッタな光景だが、嵐の中ではそれすら一瞬だ。かつて〈霞〉だったもの達は波にもみくちゃにされながら沈んでいき、ぶちまけた中身…血やら脳やらも洗い流され、海に溶けていく。

2019-09-03 00:52:37
同志雪の人@活動低下 @yuki_8492

そうして何事もなかったかのように綺麗になった水門に、今度は後続の〈大潮〉が入ってきて同じように粉砕されて沈む。〈川内〉と〈朝潮〉はすでに粉々だ。入港序列で考えればそうなる。

2019-09-03 00:53:18
同志雪の人@活動低下 @yuki_8492

うん、なるほどね。〈朝潮〉の言うとおり、これはいいアイディアじゃないらしい。

2019-09-03 00:57:47
同志雪の人@活動低下 @yuki_8492

誰もが沈むとは言わないが…一隻くらいは運良く無事に入れるかもしれないし、もう一隻くらいは手ひどく損傷しても修復できる範囲で収まるかもしれない…言わないが、概ねみんな沈むのは間違いなさそうで、〈霞〉はこの問題を〈川内〉がどう解決するつもりなのか気になった。

2019-09-03 00:57:51