ぱすイカ二次創作⑩

ぱすかる❄ @pascal_syan

恩返し。 地上に来たばかりで、まだ言葉も覚束なかった頃(今よりひどかった)、真っ先に声をかけてくれたのが、サキだった。 変わった服、変わった髪型、変わった言葉を目の前にしても……サキは、驚かなかった。 「道に、迷ってるの？」 最初の一言は、これだった。

ぱすかる❄ @pascal_syan

「ア、ア、」 何と返したらいいか分からなかった。返事を思いついたとしても、イカたちの言葉で何と言えばいいのか…… 「マヨ、テル。★〇※■▲、」 「な、なんてっ？」 「ウー……」 最初は常にこんな感じのやりとりばかりだった。相手からしたら、最初はいいけど、だんだん苛ついてくるだろう。

ぱすかる❄ @pascal_syan

でも、サキは根気強く聞き直した。 「どこ、行きたい？」 「ゴ、ゴハン？タベ……？」 「ごはん食べたい。ごはん、食べたいのね。私も食べようと思ってたからさ、一緒に行こうよ」 サキはヨーコの手を引いてくれた。 彼女の手と、心の温かさは、今でも覚えている。

ぱすかる❄ @pascal_syan

『遠い遠い田舎』から、事情があって『夜逃げ』してきた。拙い言葉で、そう説明した。言葉がうまく話せないのは、キツい『方言』のせいだとも。 鋭い人なら、怪しんでしまうだろう。だが、サキは信じた。だって…… 「私の地元も方言きつくてさ～、何言ってるのか分からなくなるんだよねえ」

ぱすかる❄ @pascal_syan

サキの出身地も、なかなかの田舎らしい。標準語には苦労したそうだ。 「そいや、夜逃げって言ったよね？じゃあ、帰るとこ……ないの？」 ヨーコは頷いた。 「じゃ、しばらくうちに泊まりなよ。あ、でも、狭いし、ソファーで寝てもらうけど」 「イイ……？」 「いいよいいよ、遠慮しないで」

ぱすかる❄ @pascal_syan

「アリガ、ト……」 「お金もあんまりないんでしょ？貸してあげる。大丈夫、こう見えて結構稼いでるからさ！」 一人で三馬力くらい出せる女、サキ。養う人が増えた程度では、揺らがない。 「おカネ、カセグ、シラナイ……」 地上ってどんな方法で収入を得るのだろう。それすらも知らなかった。

ぱすかる❄ @pascal_syan

「ナワバリバトルって知ってる？」 ヨーコは反応した。タコでも、ナワバリバトルはする。ただし、イカたちとは違い、『本気』のバトルだ。 「あれやると、お金もらえるの。ファイトマネーってやつ？あれが一番おすすめ。面接も履歴書もなーんにもいらないからね！」

ぱすかる❄ @pascal_syan

ヨーコは、元デラタコゾネス。元々優秀なタコゾネスたちを束ねる、隊長格だ。戦いの知識と経験は豊富である。でも。 でも、戦いで、お金を稼ぐなんて。 地上って、なんて殺伐としているんだろう？ いや。それは地下だって同じ。もしかしたら、地下の方が殺伐としているかも。

ぱすかる❄ @pascal_syan

戸惑ってる場合ではない。この人には、この先、すごくお世話になるのだ。お金を貸してくれるとまで言ってくれたのだから、少しでも恩に報いなきゃ。 サキと共に、ナワバリバトルの受付ロビーへ。 受付のしかたや、施設の使い方も教わった。14歳以上なら、本当に誰でも参加可能らしい。

ぱすかる❄ @pascal_syan

「はい、これ」 黄色いTシャツと、白いヘアバンド、それから……安い水鉄砲みたいな、白いブキを渡された。 ナワバリバトルが初めての人に必ず渡される、初心者セットだ。 シャツに着替えて、バンドをつけて、ブキを構える。 「わかばシューターって言うんだよ」

ぱすかる❄ @pascal_syan

わかばシューター。 バトルしてる人なら、一度は絶対に触る、はじまりのブキ。RPGでいう「ひのきのぼう」とかをイメージしそうだが、上級者も愛用するほど、よくできた性能をしている。 サブはスプラッシュボム、スペシャルはインクアーマーだ。

ぱすかる❄ @pascal_syan

スプラッシュボムは、タコの世界でも利用されている。形も同じ、正四面体。投げて地面を少し転がったあと、爆発する。爆発が直撃すれば、相手を倒すことができる。索敵、牽制、味方のサポートなど、どんな場面にも使える。まさに初心者向き。

ぱすかる❄ @pascal_syan

インクアーマーも、いい。わかばシューターは塗り性能が高いので、何度でも発動させることができる。自分はもちろん、味方にも効果があるので、勝利に貢献しやすい。 わかばシューター自体は、攻撃力と射撃精度が低め。弾がばらけやすいけど、狙いをつけるのが苦手な人でも当てやすい。

ぱすかる❄ @pascal_syan

そして、わかばシューター最大の特徴が、他のブキよりもインクタンクが1.1倍ほど大きいことだ。たかが1.1、されど1.1。射撃はもちろん、サブも多用しやすい。 このあたりが、上級者にも好まれる所以だ。

ぱすかる❄ @pascal_syan

なかなかいいブキを開発するなあ。ヨーコは感心した。タコの技術も負けてはいないが。 「じゃ、さっそくナワバリしてみよーう！」 記念すべき初戦は、サキと、……敵対してしまった。 もう頭のなかはパニックだ。なんで？なんで？なんで敵？なんで恩人と戦わなきゃいけないの？

ぱすかる❄ @pascal_syan

すると、向こう側から声が。 「ヨーコちゃん！遠慮はいらないよ！本気でぶつかっておいでー！」 本気？本気で言ってるのか、この人は。これから殺しあいが始まるのに？ 「大丈夫～！スポーツだから～！」 その言葉に、はっとした。 ここでは、バトルは、スポーツなのか？

ぱすかる❄ @pascal_syan

そう、スポーツ。イカたちにとって、これはあくまでも、スポーツなのだ。子供が公園で遊んだり、学校の休み時間にボールをつついたりするのと、同じ。 彼らにとって、ナワバリバトルとは、闘争ではない。 娯楽であり、生き甲斐なのだ。

ぱすかる❄ @pascal_syan

これだ。 シオカラ節を聴いてから、ずっと胸に宿っていたもの。 言葉では言い表せない、地上への熱い憧れ。 その憧れの正体を、ヨーコは突き止めることができた。 争いのための手段を、遊びとしてとらえられる、平和な世界。 誰でも受け入れてくれる、優しい世界。

ぱすかる❄ @pascal_syan

「……ホンキ、ダス」 恩人の言葉に、彼女は決意した。そうだ、本気を出そう。出しても構わないだろう。 だってこれは、スポーツだもの。全力でぶつかって、勝ったら喜んで。負けたら泣いて。 そこに、領土とか、プライドとか、余計なものは挟まない。必要ないからだ。

ぱすかる❄ @pascal_syan

ヨーコは駆けた。中央エリアへ躍り出て、ボムを投げる。 「わっ！？」 驚く敵に、射撃をお見舞い。とった。二人目が来る。こちらより射程が長い。遮蔽物に身を隠し、ボムを足元に転がす。ちょうど死角になるような位置へ。 「わーっ！？」 二人目、とった。 陣地を塗り広げる。

ぱすかる❄ @pascal_syan

遠くから、チャージャーが狙っているのを悟った。あえて、避けない。直前までひきつけて…… 相手がトリガーを離すと同時に、壁を蹴る。 「な、なんだ？速いっ……！」 再び射線を合わせようとするが、左右に素早くステップを踏むヨーコに、翻弄されてしまう。 とった。至近距離で、トリガーを引く。

ぱすかる❄ @pascal_syan

「う、うわああああ……」 サキは予想外の事態に、正直ビビっていた。あんなの、初心者の動きじゃない。手練れのそれだ。実はあの人、めちゃくちゃすごい人なのでは？ でも、私だって負けられない。あ、いや、面と向かったら負けるだろうけど…… 「塗りなら誰にも負けないよ！」

ぱすかる❄ @pascal_syan

サキが手にするのは、ヨーコと同じわかばシューター。しかし、その射撃はほとんど人には向けず、地面へ。照準を左右に振り回すことで、手早く陣地を塗り広げることができる。そのスピードは、エリートのヨーコのそれを、遥かに上回る。 あっという間に自陣を奪われてしまった。

ぱすかる❄ @pascal_syan

ああいう手合いのものは、脅威だ。ヨーコは長年の経験で知っている。戦う才能はないけれど、戦わない代わりに、陣地を塗り広げたり、味方に合わせて行動を共にする。仕留めるのは簡単だけど、その人が整えてくれた陣地から、新たな敵が攻め込んできやすくなってしまう。

ぱすかる❄ @pascal_syan

アタッカーより先に、サポーターから仕留めろ。鉄則だ。恩人だけど、申し訳ない。リスポーン地点でおねんねしてもらおう……！ 「ぎゃあーーーーーっ！！！」 が、しかし。 取り逃がしてしまった。あれ？当たったはずなのに。いや違う、インクアーマーを使ったんだ！