ぱすイカ二次創作⑬

ぱすかる❄ @pascal_syan

「なら……」 青年は手を振り上げた。 「これでもかッ！？」 声を荒げ、その手を握り、振り下ろす。 彼の豪腕は、砕いた。 ……少年の顔の、すぐ横。 壁に、亀裂が走っていた。 「……くそ！」 もう一度、壁を殴りつけた。 ……とても、弱々しく。

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「やめてください」 少年は、青年の手を壁から離そうとする。 「怪我をしてしまいますよ」 青年は少年の手を振りほどいた。 「触るな」 「やめません」 少年は青年の手をとった。 「離せ！」 無理やり振りほどこうとする。でも、できなかった。少年は、自分よりもずっとずっと非力なのに。

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何故かは、言うまでもない。 彼自身が無意識に、手加減しているのだ。 「そういうところが、俺は大好きなんですよ」 「はっ……？」 こんな 素っ頓狂な声、聞いたことがない。思わず吹き出してしまいそうだ。 「そういう、甘いところが」

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「お前……！」 普段の威圧的な態度はどこへやら。なんならちょっと、赤面までしている。 「どれだけ拒絶されたって、構いません。突き放したって、無駄です。俺は、どこまでもあなたについていきます」 握る手に、力が入る。 決して離すまいという、決意と温かさを籠めて。

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「それに、最初に手を差し伸べたのはあなたですよ。その手を握って、何が悪いというのですか？」 「…………ふ、」 ため息ともなんとも言えない息を吐く。 「……しつこいやつめ。とんだ厄介者を拾ってしまったみたいだな」 「運の尽き、ですよ。悪い方のね」 少年は、意地の悪い笑みを浮かべた。

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「大人しいからと放っておいたら、こんな……こんな口答えをするやつに育つなんてな」 呆れながらも、その声色には、やわらかいものが混ざりはじめた。 「ああ、もう、いい。離せ。どうせ何をしようが、ついてくるんだろう？」 「ええ」 少年は、言われた通りに手を離した。

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「好きにしろ。だが、俺についてくるとなれば、それなりの苦難があるぞ。覚悟はあるか？」 「もちろん」 少年の凛とした目を、真っ直ぐと見据える。迷いは、見えない。 「ならば」 今度は青年のほうから、少年へ手を差し伸べた。 「俺の、右腕となれ。その命の全てを、俺に預けろ」

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「できません」 その言葉は、意気地無しのそれでなく。 「己の身は、己で守ります。あなたのことも……守ってみせます。あなたに救ってもらった命です。あなたのために捧げます」 少年は、青年の手を握った。 「よく言った。それでこそ、俺が育てた男だ」 力強く握り返す。

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斯くして、少年ことオクトーは、王者シグルイの右腕となった。右腕は主君の盾となる。だが、守るべき主君もまた、右腕のことを守るのである。 彼もまた、寂しがり屋だから。優しくて甘いから、やっぱり、連れ添う者を放っておけないのだ。 そんなこと、誰も知る由もない。 だが、それでいいのだ。

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サイキョー杯開催まで、あと二日。チームは各々、最終調整に入っていた。 シグルイたちのチームもまた、本番前の入念な打ち合わせをしていた。場所は、チーム名を決めたときのあのカフェ。 各強豪チームへの対策を講じていた、そのとき。

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「お客さん、聞いてくださいよ……！」 注文したハヤシライス(32皿目)を差し出しながら、店員が切り出してきた。 「さっきテレビで速報流れて。スキッパーズの皆さん、事故に遭ったんですって……！」 「……えっ！？」 サキが声をあげる。

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「す、スキッパーズって、あの、スキッパーズ！？」 「ウソ……？」 チーム内に、動揺が走る。 「オクトー」 「はい……！」 タブレット端末に、テレビ映像を映し出す。全員でそれを覗きこむ。

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『速報です。ナワバリバトルでの強豪チームとして有名な、スキッパーズのメンバーを乗せたマイクロバスが事故を起こしました。高速道路を逆走し、対向車と激突したと見られています。この事故で、五人が意識不明の重体となり……』 凄惨な事故現場が、上空から映される。

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「なんで……？」 呆然とするサキ。口を手で覆い、画面から目を背けるヨーコ。悲痛な表情で映像を見つめるオクトー。 シグルイは腕を組み、全てを見据えた。その銀の瞳の先に捉えるものは、何か。それは誰にも分からない。 「……ヤツらめ。汚い手を……！」