ぱすイカ二次創作⑬

繋いだ手だけが紡ぐもの。 書いたもの:https://t.co/lk71qxBACg
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ぱすかる❄ @pascal_syan

サイキョー杯、開催二日前。 ハイカラスクエアから遠く離れた郊外。都会の喧騒を忘れ、穏やかな山奥で、四人の若者がバーベキューをしていた。 彼らの名は、「スキッパーズ」。サイキョー杯優勝候補の、最後のチームである。

2019-09-17 08:24:08
ぱすかる❄ @pascal_syan

「つーわけで、だ」 リーダー・マロメは、ナワバリバトル以外でも名の知れた青年だ。グラフィティアートの若き天才として、スクエアの若者から愛されている。 「あとは、シグルイんとこだけだ。あそこさえ潰せりゃ、優勝間違いなし、だぜ!」 「すっげえー!リーダー天才か!?」

2019-09-17 08:27:00
ぱすかる❄ @pascal_syan

三人の少年少女が持て囃す。 「ま、ヒントはあいつが出してくれたんだけどな」 テーブルに置かれたポータブル端末を指す。画面には、サキの姿が映っていた。 「見た目がモサいから甘く見てたけど、こいつも相当やるぜ。対策を立てるなら、シグルイとこいつを中心にしよう」

2019-09-17 09:12:13
ぱすかる❄ @pascal_syan

「生存力が高いって、結構あなどれないものね。生きてるだけでやれることが多くなるわけだし」 サブリーダー・ロロンが同意する。 「いいアイデア、思いつきそう?」 「うーん、悪い。データが少ねえから、今の時点では何とも言えねえや」 マロメは苦笑した。

2019-09-17 09:15:02
ぱすかる❄ @pascal_syan

「ま~ま~、サイキョー杯が開催してからでも、遅くないと思うよ。決勝に着く頃までには、データ揃ってるかも、でしょ?」 メンバー・チランが、のんびりとした声色でチームを和ませる。 「うむ。最優先なのは、あくまでサキモリでござる。あやつらを制圧せねば」

2019-09-17 09:19:25
ぱすかる❄ @pascal_syan

「あのさあ」 マロメは、メンバー・ガンモのほうを見ながら、 「そのキャラ付け、どうにかなんねーの?」 「拙者はこれが素でござる!」 「素じゃねーだろ!まぁた変な口調しやがって!男の娘口調からの侍口調、温度差ありすぎて風邪引くわ!」

2019-09-17 09:21:16
ぱすかる❄ @pascal_syan

「む、むむ、今回は年齢に配慮したキャラ付けでござる。今度こそ定着化するよう、尽力いたす故……」 「確かに三十路越えたオジサンにはいいかもねえ~」 「オジサンは禁句でござるよ!!!」 ガンモは憤怒する。今年で31歳だそうです。

2019-09-17 09:31:31
ぱすかる❄ @pascal_syan

「しかし、30越えてるのに、全然衰えねえなぁ~……一番の計算外は、あんたかもしれないな」 「拙者自身も、そう思うでござる。案外長生きできるものだな!わはは!」 とはいえ、少しずつガタが来ているのも事実。年齢に脅かされている者は、シグルイだけではないのだ。

2019-09-17 09:36:04
ぱすかる❄ @pascal_syan

「話を戻そう。まずは、打倒サキモリを目指すべきでござろう」 「……ああ。あんな悪徳チーム、これ以上のさばらせとく訳にはいかねえからな……」 チーム・サキモリ。勝利のためになら『何でも』するチーム。裏で、金や権力を使い、自分たちの思い通りにしてきた。

2019-09-17 09:39:13
ぱすかる❄ @pascal_syan

確たる証拠がないため、世間や司法に訴える手段がなく、泣き寝入りする選手が何人いたことか。 マロメの友人も被害者の1人。詳細は省くが、「もう二度とバトルできない身体」となってしまった。 許せない。彼は復讐のために、チームを立ち上げた。

2019-09-17 09:43:04
ぱすかる❄ @pascal_syan

比較的短期間で成長し、今ではその喉元に食らいつけるようになった。 スキッパーズの特色は、対戦相手のデータを収集・分析し、綿密な対策を立てて試合に挑む点。相手の弱点を的確に突く様は、学者や賢者を彷彿とさせる。

2019-09-17 09:44:54
ぱすかる❄ @pascal_syan

全ては、傷つき涙した友人の仇のため。同じ志をもつ仲間たちと共に、マロメは血のにじむような努力をして来た。復讐が成就する日は、近い。 「決定的な証拠も、掴んであるしな」 マロメはにやりと笑った。 「切り札、ってわけね。流石リーダー」 「思いっきりやってやりましょ!」

2019-09-17 09:48:13
ぱすかる❄ @pascal_syan

バーベキューセットを綺麗に片付けて、この日のためにわざわざチャーターしたマイクロバスに乗り込む。 「よーっし、スクエアに帰るぞ」 「これにて決起集会、お開きでござるな!」 「おうちに帰るまでが、遠足ですよ~?」 「はは、それもそうだな」 マイクロバスが発車した。

2019-09-17 09:51:52
ぱすかる❄ @pascal_syan

「ねえねえ、ガンモ」 ロロンが話しかける。 「何でござるか?」 「あなた、シグルイとチーム組んだことあるんでしょ?どんな感じだった?試合じゃなくて、私生活のほうね」 「興味あるなあ。試合の参考にはならないだろうけどさ」 マロメもロロンに乗っかる。

2019-09-17 09:56:42
ぱすかる❄ @pascal_syan

「ふーむ。拙者が彼と苦楽を共にしたのは……随分前のことでござる」 ひい、ふう、みい、と数えたあと。 「十年ほど前と、五年ほど前。二度でござるな。どちらの話が聞きたい?」 「どっちも!」 「あいわかった。帰り道は長いからのう、尺には困らぬであろう」 長い昔話のはじまりはじまり。

2019-09-17 09:59:40
ぱすかる❄ @pascal_syan

まずは10年前。ガンモが21歳、シグルイが22歳の頃の話だ。 その時は、現サキモリのサブリーダー・クライスも一緒だったそうだ。 ゴールデンベアというチーム名で活動していた。 リーダーは、バトルの才能がてんでない、ちょっとした名家のお坊っちゃまだった。

2019-09-17 10:01:57
ぱすかる❄ @pascal_syan

報酬金を高く積むから、この子を勝たせてやってほしい。そういった依頼だった。シグルイは多少難色を示していた印象。責任感の強いガンモは、嫌々ながらも引き受けた。クライスはその手の話が好きらしく、結構ノリノリだったそうだ。

2019-09-17 10:03:35
ぱすかる❄ @pascal_syan

「その時のシグルイ殿は、修羅をその身に宿したような、鬼神のごとき御仁であった」 ガンモはそう振り返る。今のシグルイからは考えられないほど、苛烈な性格だったそうだ。 「触れたもの全てを薙ぎ倒すような、……やや暴力的な所も見受けられた。正直、ものすごく怖かったでござる……」

2019-09-17 10:08:06
ぱすかる❄ @pascal_syan

ガンモはぶるぶると震えた。顔が少し青ざめているようにも見える。 「クライス殿は軽薄な御仁であったが、あの時ばかりは彼に救われたでござる」 「あいつ、度胸あるよな。サキモリでも、アヤメ相手に軽口叩きまくってるらしいじゃないか」 「うむ。鬼神を乗りこなすのが上手な御仁でござるな」

2019-09-17 10:11:08
ぱすかる❄ @pascal_syan

それでな、と一言置いて。 「そんなシグルイ殿が、大きく変わったのが、五年前のことでござる。チーム・ウロボロスに一時身をおいたのでござるが……嘘のように穏やかになっておられてのう」 五年前の時点で、現在の性格にかなり近づいてきていた。そう、ガンモは語る。

2019-09-17 10:14:00
ぱすかる❄ @pascal_syan

「不思議に思ったのだ。何が貴殿にあったのだ?と尋ねてみたら、『守るものができたから』などと申していて」 「守るもの……?」 マロメが突っ込んで聞き出そうとする。 「それが何かは、拙者には分からぬ。何も語らぬまま別れてしまったからのう……だが、大方見当がついているでござる」

2019-09-17 10:16:54
ぱすかる❄ @pascal_syan

彼の傍らにいる、あの少年。 突然世間に姿を現した「右腕」以外、考えられないだろう。 「元々強い御仁であったが、そこから異次元のごとき成長をされたでござる。右腕が主君を守護し、主君が右腕を守護する……いやはや、実に美しい様であったよ」

2019-09-17 10:21:31
ぱすかる❄ @pascal_syan

「ふーん……」 「確かに、オクトーが出てきてから、戦績が非常に安定してきてるな。しかしまあ……守るものが、自分の部下ってことか?普通下が上を守るもんじゃねえ?」

2019-09-17 10:23:53
ぱすかる❄ @pascal_syan

「ううーむ、分かっておらぬのう~」 ガンモが笑いながら唸る。 「逆でござる。上が下を守るから、下がその恩に報いようとする。それが社会の構図というやつでござる」 「なんか、大きな話になってきたねえ~」 「そこまで飛躍させなくてもよくない?」

2019-09-17 10:28:23
ぱすかる❄ @pascal_syan

五年前。 とある、夕暮れの日。 消波のためのテトラポットが広く並べられた、どこにでもあるような海岸。そこで、後に王者と呼ばれる男の『転機』が訪れた。 何日も食料も水も口にできず、弱々しくさまよい歩く小さな足跡が、ひとつ。

2019-09-17 10:39:24
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