ぱすイカ二次創作21
- pascal_syan
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「ありました!」 スタッフの一人が声高に叫ぶ。 「不正な装置が取り付けられています。証言のものと一致します!」 会場は、より一層ざわつく。 「ブキの不正な改造に相当する。大会の規定に則り、チーム・サキモリの試合出場権を取り消しとするッ!」
2019-09-25 15:24:03「あ……」 アヤメが、ふらつく。支えを失ったかのように、その場に座り込んだ。 「え、ええと、じゃあこの試合、どうなるの……?」 サキが戸惑いの声をあげる。 『と、いうことは、ええっと……不戦敗……で、処理、ですか?』 アナウンスが代弁してくれた。
2019-09-25 15:26:44「その通り。よって、チーム・無銘の、不戦勝となるッ!」 会場のざわめきが、徐々に色を変える。 不戦勝。決勝戦で、不戦勝ということは…… 『さ、サイキョー杯優勝はっ……王者シグルイ率いる、チーム・無銘となりますっっっっ!!!!』 若干戸惑いはあるけれど、歓声がスタジアムに鳴り響いた。
2019-09-25 15:29:27「う、嘘でしょ!?!?」 真っ先に反応したのはサキだった。 「こ、こ、こ、こんなの、ある!?ええっ!?た、戦うつもりで来たんですけど!私たちーーーっ!!」 チーム全員がそのつもりだったのだ。毒インクにやられてしまう覚悟をした上で、試合に臨んだのに……
2019-09-25 15:31:26『え、ええーと、……よ、予想外の事態で、私頭が混乱しています…!』 アナウンスも困惑しているようだ。 その横で、スタッフに連れられて、サキモリの面々が退場していくのが見える。 クライスと双子は平然としているが、アヤメは項垂れていた。歩くのもやっと、といった様子。
2019-09-25 15:34:52『予定よりも早いですが、優勝セレモニーを開始いたします!が、あの、何ぶん急ですので、少し準備にお時間をいただきますっ!』 そりゃそうだ。まさか試合なしで優勝が決まるなんて、誰も予想していなかったのだから。 「ジジイ……」 シグルイの態度を見るに、彼にも知らせてなかったのだろう。
2019-09-25 15:37:50ゲンイチロウがライブステージから降り、サキたちのいるフィールドまでやってきた。 「と、いうわけじゃ!優勝おめでとうシグ……」 ゲンイチロウの顔面に、黄色いインクがぶちまけられた。 「やるなら事前に知らせろと言っただろうッ!」 シグルイの怒声が響く。マジギレだ!
2019-09-25 15:40:11「儂を殺す気か!?」 「……それに、試合はさせろと言ったぞ。何も聞いてなかったのか?」 「もちろん聞いたし覚えておったぞ。孫の声に耳を傾けぬなど爺失格じゃ!」 「なぜ無視した!?俺たちは全員、戦う覚悟をしていたんだぞ!」 「そうだー!そうだー!」 「そうなのねー!!」 女子が加勢する。
2019-09-25 15:43:01「馬鹿者ォォッ!!」 老齢のものとは思えぬ、一喝! 「かわいい孫を、その片腕を、そして可憐なお嬢さん方を!危険な目に晒すなど!言語道断ッッ!あってはならぬことッッ!何故それが分からぬのだッッ!」 「せめて事前に知らせろッッ!」 「そこは儂が悪かった。ごめんね」
2019-09-25 15:45:31ゲンイチロウは言い訳するように。 「で、でも、言ったら絶対、怒るじゃろ?言えんわ。孫に怒られとうないわ。くすん」 「その愚かな考えのせいで、縁切りを考えるまであるぞ、爺」 「やめんか!やめるんじゃ!爺のことは嫌いになっても、爺のことは嫌いにならんでくれ!」
2019-09-25 15:48:36「ま、まあまあまあ、いいじゃないですか!カマトットの試合楽しかったし、あれを決勝ってことにしましょうよ!」 おじいちゃんが可哀想なので、サキは助け舟を出した。 「確かに」 しがみつくおじいちゃんを片手で引き剥がす。 「救われたな」 「そうじゃの……」
2019-09-25 15:52:04『優勝セレモニーの準備が整いました!が、あれ、ゲンイチロウ氏はどこへ?』 「おおっと、早いな。では数分後にまた会おう!表彰台での!」 年寄りとは思えないスピードで、ゲンイチロウは去っていった。 「……おじいちゃん、かわいいのね」 「どこがだ?」
2019-09-25 15:54:35優勝セレモニーが開かれた。 表彰台に全員で登り、暗闇の中、スポットライトに照らされる。 観客席からのカメラのフラッシュが、星空のように瞬く。 首に、メダルをかけられた。金色に光る、美しいデザインだ。
2019-09-25 19:41:55サキは、メダルを手に取り、食い入るように見つめた。この輝きも、首にかけられたときの、ずっしりとした重みも、全部初めての感覚だ。他の3人は慣れた顔だが。 そうか。 私、大会で、優勝したんだ……。 やや他人事のように思う。
2019-09-25 19:45:37「重たい?」 隣にいるヨーコが問いかける。 「…うん。重たい」 「嬉しい?」 「う、うーん……なんか、夢みたい」 ヨーコはサキの頬をつねった。 「いてててて!?」 「夢じゃないのね〜」 「ふあ、そ、そうふぁへほ、よーほ!ほっへははひへぇ!」 「ウフフ〜」
2019-09-25 19:49:57「お二人共、何をしているんです?」 オクトーが心配そうに声をかける。ヨーコがサキの頬を弄んでいるのを見て、呆れ顔になる。 「撮影されてるんですよ、やめてあげてください」 「そうはほぉ!むえ、戻った!」 「これ、夢じゃない、現実なのね。信じるのね〜!」
2019-09-25 19:53:00ヨーコの笑顔。 釣られて、サキも笑う。 「……えへへ」 『優勝賞品として、賞金と、豪華客船の旅などなど……豪華賞品がそれぞれ贈られます!』 賞品が描かれた巨大なボードが運ばれてくる。 「なにあれ?」 「みんなで持つのね〜!」
2019-09-25 19:59:20四人でボードを持つ……というよりは、2名ほど怪力で持ち上げて、2名ほどは手を添えるだけという形だ。 「ピースするのね、ピース」 「こ、こう?」 表彰に慣れないサキを、ヨーコが陽気にナビゲートする。まるでお姉さんのようだ。実際年上だし。
2019-09-25 20:02:18「こ、こういうのって、後日来る感じ?」 「そうなのね〜」 「ど、どうしよう、口座に賞金入り切るかな?だってこれ節約してれば普通に一生暮らしていけるよ!?」 「サキの目、ぐるぐるなのね。ぶるじょわなのね」 「無駄に裕福になっちゃうよお!」 「…元から高収入ですよね…?」
2019-09-25 20:06:39セレモニーは滞りなく進んだ。終了した瞬間、報道陣が怒涛の勢いで押し寄せる。その後はもう、質問とか、質問とか、無茶振りとか、質問とか、質問とか質問とか質問とか………もう、もみくちゃだった。何を聞かれて何を答えたのか覚えてない。質問が多すぎて!
2019-09-25 20:11:31「あ~~~っ……」 帰る頃にはもう、日が暮れていた。 「なんか、試合するより疲れた……」 グロッキー状態のサキ。 「妙にハイテンションでしたが、大丈夫ですか…?」 オクトーが心配そうに声をかける。 「大丈夫じゃない!大丈夫じゃないよお!」 「叫べるならまだ元気だな」 「シグルイさん!!」
2019-09-25 20:18:17サキはため息をついてから、空を見上げる。 「なんか…」 他の3人は、静かに彼女の言葉を待つ。 「違う世界に、来たみたい。一ヶ月前までは、味気ない人生だったけど……色がついた、っていうか……」 何と言っていいものか、分からないけれど。
2019-09-25 20:24:36「あ、ええと」 サキは咳払いする。 「これだけは分かるんです。この四人だから、ここまで来れたんだって。……本当に、ありがとうございます」 サキは頭を下げた。 「ワタシも、ありがと、なのね!」 ヨーコも頭を下げた。
2019-09-25 20:29:47「こちらこそ、ありがとうございます」 オクトーも頭を下げる。 「俺からも……」 「下げなくていいです!」 「ダイジョーブなのね!」 「無闇に頭を下げないでください…!」 「なんだ、駄目なのか?」 「「「駄目です!!」」」
2019-09-25 20:37:18シグルイはやや不満げだったが、すぐに気を取り直した。 「俺も、感謝しているぞ。この巡り合わせに。願わくは永遠に共にいたいが……」 少しだけ、目を伏せる。 「俺もそろそろ限界だ。いつ戦えなくなっても、おかしくはないだろう」 齢30を越えてもまだ現役でいられることは、奇跡に近いことだ。
2019-09-25 20:45:06