エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~4世代目・中編~
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「その若者が世界で最も優れた名工となるからだ。そのような運命にあるものを傷つける国に未来はない」 「不具の化け物がか?」 王が合図すると民は嗤った。嘲った。 訓練の行き届いているオーディエンスだ。
2019-10-05 22:50:57「…ならば小生の腕をもう一本くれてやる。両腕を落とせ。その若者を傷つけるかわりに」 「面白い考えだ。化け物を無傷にしておき、影地歩きの両腕を断つのはどうか」 民からは不同意の唸りだ。 王は首を振る。 「受け入れがたいな」
2019-10-05 22:53:03「考え直せ。王よ。小生の両腕をとれ。そうすればお前の命だけで勘弁してやる」 「つくづく狂い果てたな弟よ」 マーリは立ち上がった。白い蝙蝠が近づくのを見たからだ。 「予の腕を断て。両腕でもよい。ほかの職人は傷つけるな。予は影の国の世継ぎ。牙の部族のマーリである」
2019-10-05 22:54:40影の国という言葉が一瞬にして熱した空気を冷ました。 「予の考えでモシークを強いて、この地に向かわせた。ほかの職人も予が脅して従わせた。すべて予が選び、予がなしたこと。この身の起こした災いはこの身で引き受ける。予の首を望むなら断て。しかして七人の小人と、硝子磨きを解き放て」
2019-10-05 22:56:56黒の鍛え手の言葉には何かがあった。 大衆をしんと静まり返らせるだけの何かが。 山の下の王は一瞬息を呑んだ。 あまりに大きな影がそこにわだかまっているようだった。 白い蝙蝠がつんざくように鳴く。 射手が弓をとる。 「矢は予に向けよ!汝らの敵は予一人…黒の乗り手の子マーリ!」
2019-10-05 22:58:52王は冷や汗をかき、そうして決断を下した。 「全員の片腕を断ち、まったき闇に抛り込め…そのドワーフの言葉を話す化け物は…真銀を掘るのにごつい左腕を残すがいいか…真銀を探るのにまともな右腕がよいか…朕に無礼を働いた左を落とせ」
2019-10-05 23:00:38黒の鍛え手マーリの左腕は、体から離れても腐りも萎びもせず瑞々しいままだった。 山の下の王は何故にかそれを水晶の棺に入れて武器庫にしまった。隠れ蓑のっ横に。 だがやがて持ち主がまったき闇から業火の精霊とともに帰還する際、腕は元の位置に戻り、以前よりもさらに剛く振るわれることになる。
2019-10-05 23:03:16次の話
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