エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~4世代目・中編~

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帽子男 @alkali_acid

「ならば…わたくしにお使いなさい!ただの玻璃に詳しいだけの娼婦などでなく…六大悪人の一人に!」 「あとで考えよう。お前は一応王族の端くれ故な…だが今はこの子鼠から…モシークにつながるかどうか試す。さあ、このおもちゃの元の図面を考案した女は…三日は耐えた」

2019-10-05 22:02:33
帽子男 @alkali_acid

「責具拵えを…」 「ああ。若い産婆であった。女を女が診る仕組みはあらためねばならんな」 ドワーフの助産師は医療もする。まあ看護師をかねていると思って下さい。

2019-10-05 22:07:13
帽子男 @alkali_acid

硝子磨きは一日の四分の一ほど耐えた。

2019-10-05 22:08:11
帽子男 @alkali_acid

そのあいだ工房では師弟が強い内圧に耐える球を作ろうとしていた。 色々な実験に使えるからだ。 時折、白い蝙蝠が鳴いて作業に夢中になっている男達を我に返そうとする。 「硝子磨きは遅いな」 「帰らんかもしれんな。あれも子供ではない」 「どういうことだ?」 「いい加減に」 飛獣はさらに啼く。

2019-10-05 22:11:36
帽子男 @alkali_acid

マーリは手を止めて翼ある相棒に近づく。 「あいすまぬ。隠れ蓑がない故、散歩には…」 いきなり見えない手がなおもやかましく鳴く蝙蝠を掴んで壁に叩きつけようとする。

2019-10-05 22:13:11
帽子男 @alkali_acid

とっさにマーリは左の拳で何者かを殴りつけた。 暴力を振るうなど初めてだったかもしれない。 だが反対側の手より一回り大きな剛腕は易々と相手を宙に浮かせた。 「ぐぶっ…」 「モシーク?」 なぜかモシークそっくりの顔だ。

2019-10-05 22:14:48
帽子男 @alkali_acid

「おや我が兄」 挨拶しながら、煙玉の隠してある場所へ飛びつこうとした親方を投げ斧が遮る。 甲冑に身を固めた小人の戦士が雪崩込んでくる。

2019-10-05 22:15:59
帽子男 @alkali_acid

蝙蝠が、ドワーフの灯のかわりにまばゆい光を発してあたりの視界をくらませ、やはり目が見えずまごつく若者の袖に噛みついてひっぱる。 「モシークを置いてゆけぬ!」 飛獣は強引だ。 「置いてゆけぬ!」 影の国の世継ぎは頑固だった。そうして蝙蝠をそっと手で包んで放つと師匠の安否を確かめる。

2019-10-05 22:18:23
帽子男 @alkali_acid

「モシーク!無事か!」 「いいや。こやつはおしまいだ」 口から血を垂らしながら、王が答える。 そっくりの王弟は鉄鎚にぼこられていた。 「…朕に手を挙げた化け物。お前もな」

2019-10-05 22:19:35
帽子男 @alkali_acid

城砦壊し 骨磁焼き 屍金継ぎ 責具拵え 贋宝作り 鉱毒練り そして影地歩き 山の下の王国の恥たる六大悪人あらため七大悪人おまけに、変な化け物は残らず掴まり、公開処刑の運びとなった。

2019-10-05 22:21:55
帽子男 @alkali_acid

王の宮殿の前の広場、今は鉄鎚の金床と呼ぶ閲兵場をかねた場所に市民がつめかけていた。娯楽だからね。 「民よ!朕は国を騒がせていた謀反人どもをことごとく捕え、裁きを行うことを告げる」 歓呼。

2019-10-05 22:23:31
帽子男 @alkali_acid

「…汚れ仕事を好んでこなす…我が兄のそういうところが器の小ささなのだがな」 などと考えながら王弟は鎖につながれていた。 「ここには王家に連なるものもいるが、国の裁きは平等である。まず城砦壊し!王の城普請でありながら、密かに多くの城砦を損なう企みを行った…」

2019-10-05 22:25:48
帽子男 @alkali_acid

「弁明はあるか」 働き盛りらしきドワーフの男がうめく。 「城砦は、籠る側が弱点を心得ねば隙を産むだけだ。俺はそれを暴いたのだ」 「実際にいくつもの城砦を破壊したな」 「さもなくば防人(さきもり)に緊張が生まれず、改善も進まない」 「有罪とする」 歓呼。

2019-10-05 22:28:38
帽子男 @alkali_acid

「骨磁焼きと屍金継ぎ。多くの墓を暴いた。王家の墓さえも。しかして屍を辱めた」 「姪上と僕は違う。僕はただ屍をより機能において優れたものの素材としただけだ」 「叔父の耽美は無意味。だが私は…南方の器。あれを再現するために骨を必要としただけ。屍によって骨の質が異なる…」

2019-10-05 22:31:07
帽子男 @alkali_acid

「正しくは生前飲み食いしたもので…王族が最も質が良かった」 「有罪とする」

2019-10-05 22:31:55
帽子男 @alkali_acid

年上の姪と年下の叔父は互いをにらんだ。 「しくじって」 「そっちこそ」 王は別の女に視線を向ける。 「責具拵え。禁を破って封印された武器庫をのぞき、闇の軍勢の残したおぞましい拷問具をもてあそび、そこから許されざるからくりを作った」 「私は、この窮屈な国に喜びを与えようとしただけ」

2019-10-05 22:34:03
帽子男 @alkali_acid

「お前の責具がどれほどの風紀を乱したか」 「人の喜びを抑えつけるからです。快楽は開かれたもの。ですがその探求には苦痛の」 「有罪とする」

2019-10-05 22:35:17
帽子男 @alkali_acid

「贋宝作り。王族に連なりながら、偉大な遺産の多くを贋物とすりかえ、権威を失墜せしめた」 「…」 「弁明はあるか」 「その権威がくだらぬのです。いいえ、贋物とおっしゃる新たな技こそが真の宝」 「有罪とする」

2019-10-05 22:36:41
帽子男 @alkali_acid

「鉱毒練り。多くの禁じられた毒を作り、垂れ流した」 「毒はここじゃ皆垂れ流してるだろ。採掘や精錬で出た金滓。ありゃあひどい毒だ。だが俺は役に立つ毒を作ってるんだ」 「有罪とする」

2019-10-05 22:38:07
帽子男 @alkali_acid

兄は双子の弟を見つめた。 「影地歩き。一度裁きを受けながら刑に服さず逃れ、あげく山の下の王国に異形の化け物を連れ帰った。弁明はあるか」 「あるぞ。まず」 「有罪とする」

2019-10-05 22:39:46
帽子男 @alkali_acid

「まて。モシークの話を聞くべきだ」 マーリが抗弁するのを、山の下の王は無視し、かわって王の鉄鎚が抑えつける。 「こやつらは国の治安を乱し、王と民の安寧を奪った盗人である…よってならわしに従い、利き腕を落とす。その上でなお命があれば、まったき闇に送り、せめても国の役に立てる」

2019-10-05 22:42:16
帽子男 @alkali_acid

「腕を落とす?待て。皆優れた職人だぞ!」 暗い膚の若者はなおも叫ぶ。 「この化け物も影地歩きの配下である上は同じ罰を与える」 君主は、謀反人そっくりの顔で告げる。

2019-10-05 22:43:29
帽子男 @alkali_acid

「…予を…予の腕を…」 マーリは目を見開く。ついではっとなる。 「硝子磨きは!硝子磨きはどうした…」 視界の隅に入ったモシークが目線を動かす。広場の片隅に鎖につながれている。より軽い罪のようだ。

2019-10-05 22:45:32
帽子男 @alkali_acid

狂った小人はいきなり首を傲然と上げた。 「王よ。あなたがここにいる職人の腕を一つ落とすたび、山の下の王国の繁栄は刻々と陰るだろう。だが…その若者を傷つけるのだけはやめておけ」 また鉄鎚が殴りつけようとするのを、君主は制した。 「申してみよ。狂える弟よ」

2019-10-05 22:47:42
帽子男 @alkali_acid

モシークはじっと兄を見つめたあと、周囲で今か今かと処刑を待つ大衆を眺め渡す。 「民よ。王を止めよ。ドワーフの職人の腕を落とすなら、王が死ぬだけで済む。だがもしその若者を傷つければ、この山の下の王国は滅びを避けられぬぞ」 「なぜだ。どうしてそんな血迷い言がはける」

2019-10-05 22:49:30
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