古代教会スラヴ語たんの文法講座【3】『AでBをした』

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古代教会スラヴ語たん(OCSたん) @LingSlavAntiq

処格(キリル) 第一変化 男性名詞 硬変化 単数主格:-ъ 単数:-ѣ→双数:-ѹ→複数:-ѣхъ градъ:градѣ→градѹ→градѣхъ 軟変化 単数主格:-ь 単数:-и→双数:-ю→複数:-ихъ кон ҄ь:кон ҄и→коню→кон ҄ихъ 主格の時に例示したиюдѣиは-иが文法上は-йьとなっていると解釈し、軟変化の方に従う

2019-10-03 19:36:25
古代教会スラヴ語たん(OCSたん) @LingSlavAntiq

中性名詞 硬変化 単数主格:-о 単数:-ѣ→双数:-ѹ→複数:-ѣхъ мѣсто:мѣстѣ→мѣстѹ→мѣстѣхъ 軟変化 単数主格:-є,-ѥ 単数:-и→双数:-ю→複数:-ихъ морѥ:мор ҄и→морю→мор ҄ихъ 男性名詞と全く同じ語尾が付くよ

2019-10-03 19:48:48
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第二変化 女性名詞 硬変化 単数主格:-а 単数:-ѣ→双数:-ѹ→複数:-ахъ жєна:жєнѣ→жєнѹ→жєнахъ 軟変化 単数主格:-ꙗ 単数:-и→双数:-ю→複数:-ꙗхъ зємлꙗ:зємли→зємлю→зємлꙗхъ だいたい第一変化と同じ感覚でやればいいのは現代ロシア語にも通じるものがある

2019-10-03 20:05:15
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第三変化 単数主格:-ь 単数:-и→双数:-ью→複数:-ьхъ/-єхъ 男性名詞 пѫть:пѫти→пѫтью→пѫтьхъ 女性名詞 кость:кости→костью→костьхъ 複数処格に二通り書いてあるけど、どっちでもいいよ

2019-10-03 20:40:43
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第四変化 単数主格:-ь/-∅ 単数:-є→双数:-ѹ→複数:-ьхъ/-єхъ 男性名詞 дьнь:дьнє→дьнѹ→дьньхъ 中性名詞 имѧ:имєнє→имєнѹ→имєньхъ 女性名詞 дъщи:дъщєрє→*дъщєрѹ→дъщєрьхъ アスタリスク付きの語は『現実の用例は無いけど理論的にはこうなるよね』という再建形であることを示すよ

2019-10-03 20:57:51
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*дъщєрѹって『娘』の双数処格なんだけど、 『対を為す二人の娘の許に』 だから、聖書でそれに該当するシチュエーションは確かに無さそうだなあ 創世記の19:8,30の二つはどちらも主格っぽいし

2019-10-03 21:16:49
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処格(グラゴル) 第一変化 男性名詞 硬変化 単数主格:-ⱏ 単数:-ⱑ→双数:-ⱆ→複数:-ⱑⱈⱏ ⰳⱃⰰⰴⱏ:ⰳⱃⰰⰴⱑ→ⰳⱃⰰⰴⱆ→ⰳⱃⰰⰴⱑⱈⱏ 軟変化 単数主格:-ⱐ 単数:-ⰻ→双数:-ⱓ→複数:-ⰻⱈⱏ ⰽⱁⱀⱐ:ⰽⱁⱀⰻ→ⰽⱁⱀⱓ→ⰽⱁⱀⰻⱈⱏ

2019-10-04 15:27:54
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中性名詞 硬変化 単数主格:-ⱁ 単数:-ⱑ→双数:-ⱆ→複数:-ⱑⱈⱏ ⰿⱑⱄⱅⱁ: ⰿⱑⱄⱅⱑ→ⰿⱑⱄⱅⱆ→ⰿⱑⱄⱅⱑⱈⱏ 軟変化 単数主格:-ⰵ 単数:-ⰻ→双数:-ⱓ→複数:-ⰻⱈⱏ ⰿⱁⱃⰵ: ⰿⱁⱃⰻ→ⰿⱁⱃⱓ→ⰿⱁⱃⰻⱈⱏ

2019-10-04 15:44:22
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第二変化 女性名詞 硬変化 単数主格:-ⰰ 単数:-ⱑ→双数:-ⱆ→複数:-ⰰⱈⱏ ⰶⰵⱀⰰ:ⰶⰵⱀⱑ→ⰶⰵⱀⱆ→ⰶⰵⱀⰰⱈⱏ 軟変化 単数主格:-ⱑ 単数:-ⰻ→双数:-ⱓ→複数:-ⱑⱈⱏ ⰸⰵⰿⰾⱑ: ⰸⰵⰿⰾⰻ→ⰸⰵⰿⰾⱓ→ⰸⰵⰿⰾⱑⱈⱏ

2019-10-04 16:16:57
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第三変化 単数主格:-ⱐ 単数:-ⰻ→双数:-ⱐⱓ→複数:-ⱐⱈⱏ/-ⰵⱈⱏ 男性名詞 ⱂⱘⱅⱐ: ⱂⱘⱅⰻ→ⱂⱘⱅⱐⱓ→ⱂⱘⱅⱐⱈⱏ 女性名詞 ⰽⱁⱄⱅⱐ: ⰽⱁⱄⱅⰻ→ⰽⱁⱄⱅⱐⱓ→ⰽⱁⱄⱅⱐⱈⱏ

2019-10-04 16:32:04
古代教会スラヴ語たん(OCSたん) @LingSlavAntiq

第四変化 単数主格:-ⱐ/-∅ 単数:-ⰵ→双数:-ⱆ→複数:-ⱐⱈⱏ/-ⰵⱈⱏ 男性名詞 ⰴⱐⱀⱐ:ⰴⱐⱀⰵ→ⰴⱐⱀⱆ→ⰴⱐⱀⱐⱈⱏ 中性名詞 ⰻⰿⱔ:ⰻⰿⰵⱀⰵ→ⰻⰿⰵⱀⱆ→ⰻⰿⰵⱀⱐⱈⱏ 女性名詞 ⰴⱏⱋⰻ: ⰴⱏⱋⰵⱃⰵ→*ⰴⱏⱋⰵⱃⱆ→ⰴⱏⱋⰵⱃⱐⱈⱏ

2019-10-04 18:48:28
古代教会スラヴ語たん(OCSたん) @LingSlavAntiq

基本はこれでいいんだけど、単語によっては子音交替が起こるよ これが所謂第二次硬口蓋化ってやつ к,г,хにѣが後続すると、それぞれц,ѕ,сに変化するよ e.g. ѹчєникъ:ѹчєницѣ『弟子』 брѣгъ:брѣѕѣ『岸』 дѹхъ:дѹсѣ『霊』

2019-10-04 19:04:54

読解篇

古代教会スラヴ語たん(OCSたん) @LingSlavAntiq

さて、一応今回の目標の為の道具が揃ったので、読解をやってみようと思います

2019-10-04 19:58:42
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テキストその1 1. Си рєчє на соньмищи ѹчѧ въ капєрьнаѹмѣ. [Ин6:59] 2. Си:これ рєчє:рєщи『言う』 соньмищє:礼拝堂 ѹчѧ:ѹчити『教える』の現在分詞 капєрьнаѹмъ:カペルナウム

2019-10-04 20:10:06
古代教会スラヴ語たん(OCSたん) @LingSlavAntiq

3. 『これを彼はカペルナウムにある礼拝堂で教えている際に話した』 [ヨハネ6:59] と訳せていればいいはずだよ

2019-10-04 22:33:50
古代教会スラヴ語たん(OCSたん) @LingSlavAntiq

4.明らかにテキスト選びミスった気がするので、これからその分説明をきちんとします

2019-10-05 18:23:03
古代教会スラヴ語たん(OCSたん) @LingSlavAntiq

まずは на соньмищи въ капєрьнаѹмѣ を観てみよう на:〜の上で въ:〜の中で なのと соньмищи,капєрьнаѹмѣ はそれぞれ соньмищє,капєрьнаѹмъ の単数処格なのとで、 『カペルナウムの中で』と『礼拝堂の上で』という塊ができるよね これはまだ難しくないね

2019-10-05 19:44:19
古代教会スラヴ語たん(OCSたん) @LingSlavAntiq

рєчєはрєщи『言う』が元になっているよ まず、動詞の後ろの方にあまりчが出てこないので、出てきている時は子音交替の可能性を考慮しよう つまり、кの後に語尾-єが来てчになるやつのことだね そして、単語が長くないということは未完了過去ではなくアオリストだと思った方がいいかな

2019-10-05 20:04:33
古代教会スラヴ語たん(OCSたん) @LingSlavAntiq

で、どうしてрєщиなのにкの話が出てくるかというと、рєщиのアオリスト語幹がрєк-だから ……で話を済ませてもいいんだけど、この際だからもう少し話そうか

2019-10-05 20:33:46
古代教会スラヴ語たん(OCSたん) @LingSlavAntiq

рєчєから逆算していくと、рєк-となって、原形がрєктиになるはずなんだけど、これは大問題なんだ まず、以下のルールを思い出してね twitter.com/lingslavantiq/…

2019-10-05 21:36:18
古代教会スラヴ語たん(OCSたん) @LingSlavAntiq

このルールはさらに、子音連続でのカテゴリ重複を認めないという細則があって、рєктиはこれに違反するんだ これを避けるには、ктの部分をどうにかするしかない だから、кをшに変えて、щ(ш+т)にするんだ

2019-10-05 21:42:18
古代教会スラヴ語たん(OCSたん) @LingSlavAntiq

кがшになる根拠だけど、гがжと交替するのをそのまま無声化しただけだよ あるいは кはчと交替するんだけど、щは大昔はкとчの間の発音らしかったんだ。ブルガリアでは後にこれをштと発音するようになったみたい (多分大昔のщは無声硬口蓋破裂音[c]で、ラトビア語のķの音だよ)

2019-10-05 21:57:48
古代教会スラヴ語たん(OCSたん) @LingSlavAntiq

……ということで、рєщиのアオリスト語幹рєк-に単数二、三人称の語尾-єを付けると、子音交替を起こしてрєчєとなるので、 『(彼は)言った』となります

2019-10-05 22:01:33
古代教会スラヴ語たん(OCSたん) @LingSlavAntiq

ѹчѧ:ѹчити『教える』の現在分詞 をひとまず無理矢理飲み込むと、 рєчє на соньмищи ѹчѧ въ капєрьнаѹмѣ が『動詞(のようなもの)+前置詞+処格』の組み合わせになっているのが判ると思うので、細かいこと抜きにしてもそれぞれ 『礼拝堂の上で言った』 『カペルナウムで教えている』 とは訳せる

2019-10-05 22:16:49