めざせコナモンマスター ＃４

劉度 @arther456

「よっと！」生地を鉄板に注ぎ、更に天かすを加える。この天かすが、たこ焼きのキモだ。熱されたたこ焼き生地が徐々に固まっていく。龍驤は金串を取り出し呼吸を整える。いよいよ、たこ焼きをひっくり返す時だ。しかし、突如響き渡った油の蒸発音が龍驤の集中を遮った。23

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音の元は、隣のヴァリアントだった。彼女は鉄板上のたこ焼きに並々と油を注いでいる。「なん……だと……！？」観客席がどよめく。「たこ焼きを油漬けに！？」一見すれば暴挙としか思えない調理法。「ほーん……揚げたこ焼きかい」その正体を龍驤は知っていた。24

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「さすが日本人。知っているのね」たこ焼きの表面を高温の油で揚げることで、外はカリカリ、中はトロトロの絶妙な食感に仕上がる。これがポルポ・ダンジェントのたこ焼きの人気の秘密だった。至近距離で高温の油を扱うこの調理法は、深海棲艦にしか真似できない。25

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「だけど調理法だけじゃないわ！アンツィオの養殖場で今朝捕ってきた最高品質のタコ！契約農場で栽培した小麦とネギ！その他、イタリア全土から集めた最高級の素材と、お客様アンケートから生み出した万人の口に合うソース！このポルポ・ダンジェントは全てにおいて一流よォーッ！」26

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ヴァリアントのたこ焼きが出来上がった。ホカホカのたこ焼きに、帯のように大きいかつお節と、自家製ソース、青ノリがかかっている。これこそが、イタリア全土を席巻するポルポ・ダンジェントの揚げたこ焼きだ。「へえ、やるやないの」龍驤の目から見ても、素直に美味しそうだと思えた。27

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「せやけど……」龍驤は金串を構えた。「ウチも負けてへんで！」目にも留まらぬ早さで、たこ焼きをひっくり返し、球状に整えていく！「早い！」「金串一本で、あれだけ丸くできるのか！？」観客たちも驚いている。龍驤は、形ができたたこ焼きを手早くパックに詰める！28

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ソース、青ノリを垂らし、最後に糸クズのように細かいかつお節を振りかけて、龍驤のたこ焼きが完成した。「完成や！」「タイムアーップ！そこまで！」ちょうど30分経った。ギリギリだ。「両者の料理が出揃いました！さあ、熱いうちに早速採点しましょう！」29

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2パックのたこ焼きが審査員の前に並ぶ。「まずはポルポ・ダンジェントのたこ焼きからどうぞ！」審査員は一斉に揚げたこ焼きを口に含んだ。「……どうですか？」「あっふ、ほあっふ！」「ほ、ほっほはっへ……」「ふーむ、はほは……ほっふ！」「はふはふ……」熱い！30

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「……あ゛ー、熱かった」最初にたこ焼きを飲み込んだのは、企画委員長のミルコだった。「いやしかし、美味い！生地、タコ、ソース、全部美味い！ポルポ・ダンジェントのたこ焼きは最高だのう！」「確かに、確かに！」スポンサーのジョヴァンニが追従する。31

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「トロっとした小麦と、パリパリの皮、その中で存在感を失わない柔らかいタコ……素晴らしい、これほど美味しくなるとは！まさにたこ焼きの産業革命だ！」ネギュウドンの眼鏡が光る。「おかわり！」「陛下、そういうのじゃないんで」皇帝は司会にたしなめられていた。32

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「まあ、うん、確かに美味い。使ってるのはどれもこれも一流の素材だ、ぬかりがない」オーナーも頷いている。南イタリアで最も権威のあるレストランのオーナーの言葉である。他の審査員への影響も大きい。「それでは……そろそろ採点をお願いします！」ドラムロールが流れる。33

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電光掲示板に表示された数字は、『98』。ミルコ、集積地棲姫、スポンサーが20点。オーナー、皇帝が19点だった。「おっと……オーナー、これは？」「20点はそう簡単に出せないだろう？」「ですよね。ちなみに陛下は？」「おかわりが貰えないからだぞ」「ええ……」34

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ともかく、ほぼ最高点が出てしまった。龍驤に勝ち目はあるのだろうか。観客たちが固唾を飲んで見守る中、龍驤のたこ焼きが審査員に出された。「では次、龍驤のたこ焼きをどうぞ！」審査員はこ焼きを口に含む。「あっふ、ほあっふ！」「はっへ……」「はふはふ……」熱い！35

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「ふむ、よくできているなぁ」ミルコは隣のジョヴァンニを見る。「ええ。細かいカツオ節が隠し味的に効いていますなあ」「タコの身が締まってるな。天然モノか？」「おかわり！」「陛下、だからそういうのじゃ……」「へいお待ち！」龍驤は追加のたこ焼きを皇帝のパックに乗せた。「あるのォ！？」36

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「……おい、おい」オーナーが龍驤を呼んだ。深刻な顔だ。「どした？タコが喉にでも詰まったか？」「違う。龍驤さん、アンタ、たこ焼き作り、何年続けてる？」「ん？せやなー、10歳のころから焼いてたから……13年やな」「なんてこった！たった13年でこれだけのものを……！」37

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「あの、オーナー？どうしたんです？」「いいから食べてみろ！」オーナーはいきなり司会の口にたこ焼きを押し込んだ。「ふもっ！？」「生地、タコ、ソース、全て別々のものなのに、口の中できれいに混ざり合って一つの味を作っている！誰も彼もが主張せず、味を高めるために調和している！」38

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「ほあっふ！ほあっふ！」「しかも味だけじゃない。柔らかく熱い生地に反発して固さを教えてくれるタコの食感！ささやかに存在を主張する天かすと紅生姜！そいつらを最大限に活かす火の通り、大きさ！加えられた素材が最も美味しくなる瞬間が、この小麦玉の中に詰まってるんだ！」39

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「……あ゛ー、熱かった。熱く語ったところで、そろそろ採点をお願いします……」司会に促され、ドラムロールが始まる。龍驤が、ヴァリアントが、そして観客たちが電光掲示板を見つめる。果たして、本家本元日本のたこ焼きは、ヴァリアントのイタリアン揚げたこ焼きを超えることができるのか？40

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「出ましたっ！」電光掲示板に表示された数字は、20，20，19，19，19。「……ッ、97点！97対98！勝ったのはマルタ代表、ポルポ・ダンジェント取締役、ヴァリアント！」41

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「どちらのたこ焼きも美味かった。ただ、私は揚げた方が美味しいと感じた。この１点はその差だと思ってほしい」ネギュウドンはメガネを光らせ感想を語る。「素材が良かった。やはり、ポルポ・ダンジェントのたこ焼きが一番だな。そうだろう？」「え、ええ」マルコとスポンサーも19点を入れている。42

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一方、オーナーは20点であった。「19点をヴァリアントにつけてしまったから、20点しかつけられん……！」そして皇帝も20点であった。「おかわりもできて余は嬉しい！」「そうですか」それでも合計点数はヴァリアントの方が上だ。「これにて、初代コナモンマスターが決定です！」43

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観客席から拍手が巻き起こった。ヴァリアントは大きなトロフィーを持ち紙吹雪を浴びる。「ありがとー！ありがとー！これからもポルポ・ダンジェントをよろしくお願いしまーす！」審査員たちと握手を交わし、花道を進む。「今度、コナモンマスターセールもやりまーす！皆来てねー！」44

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「惜しくも２位でしたが、今回の戦いはどうでしたか、龍驤さん」準優勝の龍驤にもインタビューが行われた。２位といえども、世界大会の２位である。権威はある、はずだった。「いやあ、世界は広いなぁ。驚いたわ。あれなら、大阪代表を呼んでも戦えたんとちゃう？」「え？」「え？」45

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「いや……龍驤さんは日本代表ですよね？なら、大阪も日本に含まれてるんじゃないですか？」「んー？いやいや、ちゃうで。大阪は深海棲艦が来た後に独立したから、日本やないで」「えっ……えっ？」会場がざわつく。情報封鎖されている深海イタリア国民は、大阪の独立を知らなかった。46

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「ああ、なんならイタリアvs大阪っちゅーのも面白いんやないか？日本の敵を取ってほしいわ」「いえ、あの……それ以前に、龍驤さんは大阪市民じゃないんですか！？」「ちゃうで。ウチは神奈川生まれの神奈川育ちや」「その関西弁は！？」「趣味や」「趣味ィ！？」47