ギガベース日誌 ACT08「PHANTASMA BEING」01

再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

「うーん、よく見れば可愛いんだけどなぁ……」 愛する対象の不在により、あてもなく地を這う赤子達。そんな彼等と焼け落ちた佐世保を撮影しながら、青葉は入り組んだ帰路を駆けていた。 「ぴぎっ」 「うわあぁっと！わ、踏んづけちゃった……大丈夫かな……」　#ギガベース日誌

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青葉が気にかけるのは、小鬼ではなく自らの脚部を覆う陸戦用艤装である。 特殊兵器PT小鬼群は対艦隊において致命的な効力を発揮するものの、扱いを間違えればその愛は運用元であるギガベースの艦娘にすら向けられる。　#ギガベース日誌

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故に、全ての艦娘には小鬼達が嫌う忌避フェロモンが付加されている。 とはいえ接触しただけでも感染が広がりかねない代物だ。踏み潰した側の膝を曲げて接地面を確認していた青葉は、片足立ちが災いし、バランスを崩し転倒した。 「あびゃっ！！」　#ギガベース日誌

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「……何やってんだお前」 「えっ、あ、提督？！恐縮です、はい。写真撮っても？」 「好きにしろ」 融け崩れた格納庫を背に機体を停め、DfJは火の粉舞う夜風に身を晒していた。 「お前、さっきの敵機の写真はちゃんと撮れたか？」 「勿論です。凄い炎でしたね～」　#ギガベース日誌

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「焼け死ぬかと思ったぞ」 「明らかに普通のACっぽく無かったですけど……」 「上手いこと機体を粉々にせずに済んだから、残骸を巻雲に回収させた。明日にはうちのUNACがアレを振り回してるかもな」 DfJの視線は宙にむけられ、コックピットに戻ることもなく空を見続けている。　#ギガベース日誌

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「あの、提督。戻られないんですか？」 「不知火がヘリで迎えに来る」 「そうなんですか」 気まずい沈黙が一人と一隻を包む。わかりやすく疲労しているDfJにそれではと背を向けるのも忍びなく話題を探そうとする青葉。 しかし、沈黙はDfJの側から破られた。　#ギガベース日誌

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「オーメルでは」 「はい」 「良い写真は取れたかよ」 「……沢山。悲しいのもあるけど、悪い写真はひとつも」 「だろうな。お前は絶対に生き残るだろうと思ってた」 妙な見解だった。自分に秀でた戦闘適性はなく、寧ろ趣向が足を引っ張る傾向があるというのに。　#ギガベース日誌

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「お前は撮る事じゃなくて残す事に意味を見ているんだろう。だったら何が何でも生き残らなきゃいけない」 敗戦を経て、その欲は更に強まった。 遺さねば。伝えねば。記録せねば。 その相手もいないままに、渇望だけが重みを増していく。　#ギガベース日誌

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「なぁ、青葉」 「……はい」 「お前の、誰かに自分が見聞きしたものを伝えたいっていうその願いが、自分を介さずに叶ったら、どうする？」 「え……？」 突拍子もない問いに、青葉は困惑した。　#ギガベース日誌

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オーメル本社海域という地獄を経て、あまりにも純粋であり続けたDfJの精神にも変化が及んだのだろうか。青葉は返答よりも先に、そんな考察を募らせる。 「わかりにくかったな。つまりはだ、お前がわざわざ伝えようとしなくても、他の誰かがそれを代行するような状況があって」　#ギガベース日誌

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「お前が伝えたい何もかもを、正確な情報としてこの世界に遺してくれる。そんな事になったら、お前は嬉しいか？」 問いかけの裏に潜む動機はわからない。 だから、青葉は純粋に応えた。　#ギガベース日誌

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「青葉は……どうなんでしょう。きっと、自分で見たものを、こうだったんだよ、こう思ったんだよ、こんなものだったんだよって、青葉の口から言えるなら、それが良いです。誰かに任せるよりきっと」 「じゃあ、それを他の青葉がやるとしたら？」　#ギガベース日誌

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「お前が見聞きしたものを、寸分違わず正確に共有した他の青葉型一番艦が代わりに伝えてくれるなら？」 「……そんなの、絶対に嫌です。同じ青葉だったとして、ギガベースの青葉は今此処にいる青葉だけです」 それは、目の前の男だけではなく、自分に対する誓いでもあった。　#ギガベース日誌

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「……じゃあ、お前は絶対に死ぬな。何よりも生存を優先しろ。特に海で死ぬのは駄目だ」 青葉は耳を疑った。 所有する艦娘が大破しようが狂おうが死のうが、それが当然だと平静を保ち続けてきた男が、自分に死ぬなと言ったのだ。 「提督、それは、どういう」　#ギガベース日誌

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「他の艦娘だったら、まぁ、戦うことが目的なら死ぬのもあり得るだろう。でもお前がそれを戦う理由にするなら、絶対に死ぬべきじゃない」 「海で、というのは？」 「……記憶が確かなら、まだ不知火にしか話してない事なんだが」　#ギガベース日誌

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「オールドキングは知ってるな。俺とつるんでたリンクスだ」 「はい、勿論」 「アイツがさ、企業側が俺達を抹殺するのに選んだ場所がカーパルスだってわかった時、すげぇ嫌そうな顔したんだよ。でもって出撃前に言ったんだ。なるべく海上で戦わないようにするって」　#ギガベース日誌

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「理由を聞いてみれば、海上で死ぬのは避けたいって話だった。不思議に思ったが、文化圏や宗教的な理由かと思ってそれ以上は聞かなかった。結局、オールドキングは望み通り、カーパルスの施設の上で死んだ」 それが、自分の願いにどう関わるのだろう。青葉はただ困惑する。　#ギガベース日誌

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「オーメルを攻める少し前から色々調べている内に、ようやく解ったのさ。今この星の海で死ねば、自我という情報は回収され、海の底でリサイクルされる。頼んでもいないのに、自分が大事に抱いているものが、勝手に、あちこちに継承されちまうのさ」　#ギガベース日誌

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青葉が見てきたものとDfJの言葉が、蜘蛛の巣のような完成された構造として纏まっていく。 「艦娘が海で死ねば、その傾向はより顕著になる。思い当たる節ならいくらでもあるだろう？」 深海棲艦と艦娘の関係。青葉が知識として与えられているそれを超えた悪意は、最早公然の秘密だ。　#ギガベース日誌

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「だからさぁ、お前は絶対に海の上で死ぬべきじゃないんだ。まだ、伝える先すら見つけられていないんだから」　#ギガベース日誌