エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~6世代目・その4~

皆聞いて。ロズウェルは何かを隠してるんだよ。 ハッシュタグは「#えるどれ」。適宜トールキンネタトークにでもどうぞ。
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帽子男 @alkali_acid

雲海大烏賊尽くしはダウバも、あとなりゆきで連れてきたお化け人参こと竜参の根にも大満足の量と味だった。 “おっほっほ、 烏賊は大きくなると安母くさいと思うたが、そうでもないでおじゃる” 「安母と別の匂いさしただ。宙に浮くのに使う何かと思うども、塩梅を変えた水の中に漬けてとっただ」

2019-12-02 21:34:15
帽子男 @alkali_acid

ちなみに黒の料り手の、かたわらで、烏賊肉のお作りから汁を吸った竜参の根はすでにかなりの大きさに成長し始めていた。この竜参も食材のはずだが、いつのまにか料理を喫する側に回っている。

2019-12-02 21:36:12
帽子男 @alkali_acid

“おっほっほ、料理のために雲の中にこの烏賊が丸ごと入るほどの塩水の池を作ったでおじゃるか” 「濃さ違うのいくつかと、あと真水のも作っただ。池ちゅうても玉だども」 “おっほっほ。まっこと面白きやつよのう。同じような術を使うものを知っていたでおじゃる…たしか…アメノ…何とか”

2019-12-02 21:39:09
帽子男 @alkali_acid

「アメノハテさだべ。影の国さいたでねか」 “おっほっほ、そうだったかの” 「んだ。オラに天文とあと、ちょこっと術も教えてくれたども」 “おっほっほ…ちょこっとかの?”

2019-12-02 21:41:11
帽子男 @alkali_acid

かくて竜帝と竜人と竜参はひょいひょいと大洋のゆくさきざきであらわれる、世間一般でいう怪物の類をつまみ食いしながら航空を続けた。 「敖閃さ。オラ思うだども」 “何でおじゃる” 「料理のたびにあんまし大きな魔法を使うのはよくねえだな」 “美味なるものを作るなら好きにすればよいでおじゃる”

2019-12-02 21:45:27
帽子男 @alkali_acid

「だども魔法さ土やら水やら火やら風やらかき乱すだ。んで命もいっぺこと死ぬだ。オラが食いもしねえ命が。それにオラ腹減るだ。腹減ればまた命を奪って食わねばなんね」 “美味なるものを作り、腹を空かせて食う。幸せでおじゃる” 「んだか…だども…オラ、魔法さなるたけ使わねえで料理するだ」

2019-12-02 21:48:37
帽子男 @alkali_acid

“おっほっほ、魔法を使わぬ料理もまた美味やもしれぬの。好きにするでおじゃる” 「んだ」 竜曳船はやがて大洋を渡り切り、大地へ到達した。 もう一つの西の果てと呼ばれる広い大地。

2019-12-02 21:50:47
帽子男 @alkali_acid

「広ぇだなあ…」 “どのあたりを食べ歩くかの。大味なものはちと飽きたの。ちっさきものどもの作るこまごました美味なるものがまた味わいたいでおじゃる” 「んだか。あっこに絵さ描いてあるだども」 “絵かの?”

2019-12-02 21:54:03
帽子男 @alkali_acid

竜曳船がゆっくり降下し、雲を突き抜けると、なるほど絵ははっきりしてきた。 「なして空から見える絵さ描いただ?ここにも竜さいるだか?」 “聞いてみるのが一番でおじゃる。美味なるものがないかも訊ねてたも”

2019-12-02 21:56:08
帽子男 @alkali_acid

竜の帝は鎖で曳く船ごと、ダウバが担ぐ巨釜(おおがま)へ入って消える。 いくら釜が大きくても、竜が中に収まるはずはないのだが、しかしあっさりとやってのける。 魔法だ。

2019-12-02 21:59:24
帽子男 @alkali_acid

ダウバは釜を担いだまま、のしのしと歩いてゆく。一歩ごとに大地に跡が残る。どうやら空から見える絵を描けるのはまるで黒板のような風変りな土壌のおかげらしい。いくたりかの絵描きと思しき職人がやわらかな草履のようなものを履いて作業をしているのが見えてくる。 巨漢はまごついて立ち止まった。

2019-12-02 22:01:46
帽子男 @alkali_acid

「どうすべ…」 このまま歩いてゆけば絵を傷めることになりそうだ。 やがて絵描きの一人が気づいて振り返り、まわりに声をかける。 すぐに職人は群をなして集まって来た。 「オラ、ダウバだ。影の国のもんだ。お前、うまそうだな。食ってもええだか?」 とりあえず挨拶する。

2019-12-02 22:03:55
帽子男 @alkali_acid

職人のひとりが頷くと、懐から筒を出して口に当て、ぷっと吹いた。 小さな矢がまっすぐ黒の料り手の目玉を狙う。 だが大兵の若者はぱくりと口で受け止めて食べた。 「苦ぇだ」

2019-12-02 22:05:35
帽子男 @alkali_acid

何かやばそうと察した絵描き達は、しかし足元でできあがりつつある作品を傷めるのを恐れてか走って逃げようとはせず、じりじりと遠ざかる。 ダウバは釜を担いだまま眺めていた。 しばらくして、巨漢が追ってこないのに気付いた職人の一人が戻ってくる。さっき吹き矢を放った男だ。

2019-12-02 22:07:36
帽子男 @alkali_acid

聞きなれない言葉で話しかけてくる。 暗い膚の若者は身振り手振りを交えてまったく通じない言葉で応じる。 まるで市場で野菜の値切りでもしているかのような闊達さで。 しばらくやりとりをしているうちに、ダウバは次第に相手の並べる単語をつかみ取るようにして話ができるようになった。

2019-12-02 22:09:43
帽子男 @alkali_acid

「オラ、ダウバだ。病は持ってね。火と風と水で清めてきたども」 「何をしに来た。戦か」 「んでね。うめえもん探しとる。あとここの料理さ知りてえだ」 「料り手か」 「んだ」 「日輪の王は人の生贄を禁じた。人は料理できぬぞ」 「んだか。なして禁じただ?」 「日輪は生贄を喜ばぬ神だからだ」

2019-12-02 22:12:52
帽子男 @alkali_acid

「んだか。日輪の王さどこにいるだ」 「山獅(やまじし)の都だ」 「どっちだべ」 「ずっと東。峰々の頂にある」 「山の上だか?」 「天文の観測に便利だからな。宙との交信にも」 「何だべ?」 「田舎ものだなお前は」

2019-12-02 22:17:48
帽子男 @alkali_acid

「うめえもんあんだか」 「お前は地峡を越えた先にある、北の民か?ならば南瓜(かぼちゃ)が自慢だろうな。我等の馬鈴薯(じゃがいも)は味わったことがあるか」 「馬鈴薯?南瓜?」 「赤茄子(とまと)はどうだ」 「赤茄子?」 「唐辛子(とうがらし)は」 「唐辛子?」

2019-12-02 22:21:20
帽子男 @alkali_acid

「玉蜀黍(とうもろこし)の麺麭に肉を挟んでかじる際、あの辛い香料があると食がまこと進む」 「玉蜀黍?」 絵描きは憐れむように言葉の達者な異邦人を見つめた。 「いったい…お前は今まで何を食べてそんなに太ったのだ?」 「烏賊とかだべ」 「海辺の民か…低地には哀れな田舎ものもいるのだな」

2019-12-02 22:23:24
帽子男 @alkali_acid

絵描きは先程は害獣の一種として駆除しようとしたかわいそうな未開の若者に文明の味を教えてやるつもりになったらしく、宿営に連れて行って食事を振舞ってくれた。 「うんめ!うんめ!これが馬鈴薯だか!うんめ!!!!!!!!」 「何と哀れな…本当に貧しい暮らしをしてきたのだな」

2019-12-02 22:25:37
帽子男 @alkali_acid

しかし哀れな田舎者は頭は悪くないらしく、絵描きが一つ一つ説明してやるとすぐ呑み込んだ。 「馬鈴薯は芋だべな…芋はあるだよ。こっだらうまくはねえだども」 「山獅の都なら峰々を越えた密林でとれる薩摩芋(さつまいも)も味わえる」 「んだと…もっとうめえ芋だか?ど、どうなってるだこの国は」

2019-12-02 22:28:59
帽子男 @alkali_acid

「お、オラ…天子の国の大餐庁で…世界中の食材さ試し尽した気になってたども…こ、この国さ…まるで端から端までうめえもんでできてるみてえだ」 「おおげさすぎる…馬鈴薯だけでそんなに…」

2019-12-02 22:32:59
帽子男 @alkali_acid

試した料理をひとかけずつ巨釜に放り込むと、かすかに震えが走る。 「ほれ、竜の帝もこっだら喜んどるだ。この国さ…とてつもねえ国だ」 「本当に悲惨な食生活だったのだな…ま、山獅の都に行ってみるがよい。道は遠いがお前は若いし健脚そうだ」 「んだ!飯さ食わせてもらってありがてえだ…」

2019-12-02 22:35:37
帽子男 @alkali_acid

日輪の国とかいうこの地はめちゃめちゃ栄えているらしく、道路とかも整備してあった。 途中の村々とかでは石をぶつけられたり、吹き矢を撃たれたり、槍を投げられた理したが、ダウバはとりあえずすべて口で受け止めて食えるものは食った。 あまりにも平然としているので皆最後は受け入れてしまう。

2019-12-02 22:37:40
帽子男 @alkali_acid

若者は農婦から、荷運びから、川の釣人から、だれかれかまわず話を聞いた。他国の間者かと思って警戒するものもないではなかったが、知りたがる内容といえばひたすら食べ物の話。しかも口からよだれをこぼしそうなありさまでは目的など疑いようもない。

2019-12-02 22:39:15
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