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再び船上の人となったダウバは導き役たる敖閃とともにさらに東へ。 「どこさつくだべ」 “おっほっほ。この大地は一度、精霊どもとその親玉が、うわべだけ平らに広げたが、今はもう本来の丸い形に戻ったでおじゃる。つまりもうすぐ影の国のあるあたりへ戻るでおじゃる” 「んだか」
2019-12-04 00:00:42“おっほっほ、久しぶりに仙女の作る薄焼菓子が食べたいでおじゃる” 「オラもだ…だども…オラまだ世界一の料り手さなった気がしね…仙女…薄焼菓子ちゃんを世界一の料理にできる自信がねえだ」 “そちの言う世界一の料理とは、物語にある地の女王がみずからの体から五穀を出すが如き技であったの”
2019-12-04 00:02:31「んだ…だども…まだオラにはできね…日輪の国で見つけた…南北の種が混じった苺さ…手がかりになる気がすっだども…」 “おっほっほ。麿もその料理の完成が楽しみでおじゃる。仙女は肉のやわらかそう故” 「んにゃ…やっぱオラのもんだ」 ぼそりと黒の料り手は急に冷たい声で応じた。
2019-12-04 00:04:45“おっほ?仙女を世界一の料理にしたら、麿に食べさせてたも” 「やんねえだ。薄焼菓子ちゃんはオラが料理にして、オラがひとりで食うだ」 “ダウバよ。急にけちくさいことを申すでない。前はさように申しておらなかったではないかの” 「だどもやんねえだ。オラのだ」 “食べさせてたも!” 「やんねえだ」
2019-12-04 00:07:16船につないだ鎖を曳く竜帝は、虹色の双眸で、甲板の上にあぐらをかく強情そうな連れ、小さきものながらだいぶ育った巨漢を眺めまわす。 “おっほっほ…さては…そろそろ…そち…色を知る歳かの” 「やんねえだ」 “おっほっほ…世界を滅ぼすでおじゃる” 「敖閃さが世界を滅ぼしてもやんねえだ」
2019-12-04 00:10:21所はちょうど西の果てへと通じる惑わしの海域の真南にある大洋の上。 だしぬけに晴れ渡った空が罅割れ、山ほどもある雹の塊が降り注ぎ、島を砕かんばかりの稲妻が迸り、竜帝と竜人は死闘を始めた。
2019-12-04 00:12:31“仙女を料理したら食べさせてたも!” 「やんねえだ!薄焼菓子ちゃんは頭のてっぺんから爪先までぜーんぶオラんだ!!」 “食べさせてたも!” 「やんねえだあ!!!」 おお、何たる終末神話世界観的破滅戦争か。
2019-12-04 00:14:11かつて精霊王と互角に戦った竜帝と、四海竜王の珠をすべて呑んで力を宿した魔人は、海を東へ東へと翔びながら、地水火風すべてを武器とし、また鱗と爪と牙と尾とをぶつけ合わせて争った。戦は十日、いや二十日に及んだろうか。 初めは竜の戦いを知らぬダウバであったが、最強の長上と組み打つうち、
2019-12-04 00:16:42短いうちに捕食するもの同士の命の奪い合いの要諦を掴んでいった。 “おっほっほ!!食い殺してやるでおじゃる!” 「オラが食うだ!!」 気の毒なのは間には様れた帆船エシファエンである。上エルフの騎士の魂を宿した竜骨を持つ魔法の船も、さしもの竜と竜の戦いには船体をおののき軋ませた。
2019-12-04 00:19:56「ポポペポピルピル」 黒の料り手の腰帯に差し込まれた魔法の食材、竜参も怖い怖いと泣いている。 さて竜帝と竜人は互いに魔法の限りをぶつけあわせながら、竜曳船を巻き込み、影の国へは向かわず、はるか南の大地へと落下していった。
2019-12-04 00:22:02妖精より古い魔法が息づく砂漠のかなたの沃土。 砂漠に山のごとき四角錐の墳墓が築かれ、水辺に鰐や平原に獅子が、天空に隼が舞う処。 洪水の引いた後が豊かな畑となり、麦が豊かに実り、麦酒のあまた醸される邦。 最初の塚人が生まれた場所。
2019-12-04 00:27:19次回、「ダウバの世界丸かじり」シリーズは 「はあ生きた竜を酒に漬ければ、墳墓の下に永久(とこしえ)を過ごすワスら塚人にとってもいい寝床の伴になるっぺ。恨まんでほしいっぺ」 乞うご期待。
2019-12-04 00:30:49次の話
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