エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~6世代目・その4~

皆聞いて。ロズウェルは何かを隠してるんだよ。 ハッシュタグは「#えるどれ」。適宜トールキンネタトークにでもどうぞ。
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帽子男 @alkali_acid

「この肉さなんちゅうだ、麝香鴨(ばりけん)?…うめえだ…こいつの肝(きも)さ格別うめえだ…同じ命なのになしてこんなに…うめえだか…オラは…」 「何で泣く。でかいの」 「オラ…どんな命も同じぐれえうめえと思えね…それが情けね…」 「そうか。頭がおかしいのか。もっと食え」

2019-12-02 22:41:55
帽子男 @alkali_acid

ダウバは泊めてもらった礼に畑仕事を手伝い、台所を掃除し、馬鈴薯を干したり、玉蜀黍を惹いたり、力仕事から手先仕事まで何でもこなす。 中でも結婚や葬式の料理の手伝いは抜群の働きをした。噂は広がる。 「隣村に来ていた黒の料り手だな。殺そうとしても殺せず、よく食い、よく料理をするとか」

2019-12-02 22:44:42
帽子男 @alkali_acid

「オラだ。病は持ってねえだ。火と水と風で清めてきただ。お前うまそうだな。食ってもええだか?」 「良い訳がないだろう。常識を身に着けろ田舎もの。人の生贄を日輪の王が禁じてもうどれだけ経つ。ここは山獅の都からまだ遠いからよいが…」 時々叱られる。

2019-12-02 22:46:11
帽子男 @alkali_acid

村々と町々には神官がおり、ダウバを追放しようといきりたつものもいれば、軒を貸してくれるものもいた。話ができる相手は皆天文に詳しかった。特に日輪の運行に。 「山獅の都から示される暦を待っていては、種まきも刈り入れもできぬ故な。ここでも一通り天の観測ができるようになっている」

2019-12-02 22:48:24
帽子男 @alkali_acid

黒曜石の薄片だの日時計だの神殿の窓だのを教えてくれるものもある。 滝を見下ろす祭壇なども。 「…旱や疫が続くときはそこから生贄を投げ込んだ。今でも四つ足の獣までは許されているが、人はならん」 「なしてだ?」 「日輪は人の生贄を喜ばぬ。王とその部族がそう決めたのだ」

2019-12-02 22:51:30
帽子男 @alkali_acid

「んだか…日輪の王の話さよく解らねえだ。獣はよくて人はだめだか?」 「黒の料り手。お前には祭りの仕出しで随分世話になったし、天文の話が通じるのも喜ばしい。得体のしれぬよそものだが病を持たぬし、人好きがする。しかし日輪の王のことを軽んじてはならん」

2019-12-02 22:53:06
帽子男 @alkali_acid

「んだか」 「日輪の王とその部族は、ほかの部族とその王を次々と滅ぼし、山獅の都に覇を唱えた。生贄の禁もそこから発する。かつて、それぞれの王の威は我等神官に人の生贄を捧げる命を下す際に最もよくあらわれた。だが日輪の王の人の生贄を禁じれば…それぞれの王の威は根こそぎ失われるのだ」

2019-12-02 22:57:10
帽子男 @alkali_acid

「王の威のために人の生贄を捧げたり禁じたりするだか」 「そうだ。神々のためとは言うが、まことはそうなのだ。人の命を意のままにするのは、獣の命を意のままにするよりさらに大きな力をあらわす。故に日輪の王は生贄の禁をもって力を示している」 「難しいだなあ…」

2019-12-02 22:59:21
帽子男 @alkali_acid

「都が近くなったら、うかつに生贄の禁に疑問をさしはさむな。王の部族やその連枝の多い村や町ばかりになるのだからな」 「だども、神官さはまた人の生贄さ捧げてみてと思わねだか?」 「…思わぬな。私は旱(ひでり)や疫(えやみ)や戦のたび、王の即位のたびに年若い命を生贄を捧げた。もう飽いた」

2019-12-02 23:03:48
帽子男 @alkali_acid

山獅の都はまじで高所にあった。 影の国の外輪山より高いかもしれない。 道はうねるように続き、時折坂を苦にせぬ駄獣が荷車を引いたり貨物を積んだりして通り過ぎる。何か毛がもじゃもじゃしている。 「プッ」 いきなり唾をはいてくるやつもいる。

2019-12-02 23:06:24
帽子男 @alkali_acid

「んだ?」 「ボヒ、ボヒヒヒヒヒッ」 駄獣はむかつく嘲り笑いとともに山獅の都へ向かう。飼い主も謝るどころか、うかつなやつだなという風にダウバを見て、そのまま毛むくじゃらの相棒を伴って去ってゆく。

2019-12-02 23:08:09
帽子男 @alkali_acid

駄獣の数は都のそばへゆくにつれ増えてきた。 牧で餌をクッチャクッチャクッチャクッチャクッチャと噛んでいるやつもいれば、ボト、ボトトトトトトっと脱糞しているやつ、ジョ、ジョジョジョと放尿しているやつもいる。 あと眼が合うと不快なボヒヒヒヒという笑いも向けてくる。

2019-12-02 23:10:07
帽子男 @alkali_acid

そして唾だ。 とにかくうかつに近づく人間にはどんどん唾を飛ばしてくる。 くさい。めっちゃくさい。 「面白ぇだ…お前うまそうだな。食ってもええだか?」 「プッ」 また唾。 「ボヒヒヒ」 嘲り笑い。

2019-12-02 23:11:21
帽子男 @alkali_acid

「あんた駱馬(リャマ)どもに気に入られたね」 旅人の宿の女主が述べる。 「駱馬だか。うめえだか?」 「いや、あんまりおいしくないよ。でも荷運びには便利だし、毛や皮は服やら何やら、色んな道具に使えるしね」 「んだか」 「そういや恐ろしい伝説もるよ」

2019-12-02 23:14:34
帽子男 @alkali_acid

「あるところにね…あんたぐらいの若い男ばかりを狙ってつけまわす、裸の、歳とった男がいたんだよ。なんでも若い男に…子の宮があるかどうかを確かめるためだとかでね…ところがある日、裸の歳とった男は何かを失ったのに気付いたというんだ。何かは解らない。だがそれ以来、男はどんどん落ち込んで」

2019-12-02 23:16:35
帽子男 @alkali_acid

「とうとうある日、一匹の駱馬になってしまった。それ以来さ。駱馬が気味の悪い笑いを浮かべたり、唾を飛ばしたりするようになったのは。駱馬には、その裸の年取った男の邪悪な心が乗り移ってるってさ」 「なして裸だっただ?」 「解らないねえ…」

2019-12-02 23:18:29
帽子男 @alkali_acid

宿ではめちゃうまい鼠の肉も出た。 「鼠さ食うだか」 「うまかろ」 「うめえだ」 「あんたが食ったのは特にかわいいやつだったよ。もこもこで」 「んだか」

2019-12-02 23:22:22
帽子男 @alkali_acid

日輪の都の山獅の都はものすごく空気の薄い峰々の上に広がっていたが、すごく大きく、道路網は整っていた。多くの人口を養うために、ひっきりなしに糧や油や薪やそのほかの品々が運び込まれていく。 「賑やかだなや」 「プッ」 また通りすがりに駱馬から唾をはかれる。くさい。

2019-12-02 23:24:45
帽子男 @alkali_acid

人々の顔立ちはなぜか東の果ての天子の国の民に少しだけ似ていたが、しかしもっと色の濃い膚をしている。陽射しのせいかもしれなかった。太陽の光の強い地だった。そうでなければかくも高地にあっては寒さがずっと厳しいだろう。 「市場さ行かねば」

2019-12-02 23:27:16
帽子男 @alkali_acid

市場では例のからくてうまい唐辛子が百種類ぐらい売っていた。 どれも辛さや香りが少しずつ異なる。棚中に赤いの青いの黄の紫のと大きさも形も異なる実が下がっている。 南瓜とやらも見つけた。はるか北には、湖の中島に荒鷲の都を構える帝国があり、そことの交易で入ってきたものという。

2019-12-02 23:31:10
帽子男 @alkali_acid

「地峡を抜けた先で恐ろしく遠いが…もうだいぶ前に一隻の船が荒鷲の都を発し、山獅の都までやってきたことがある。地峡のあいだの湖と川を抜け、、最後の巨人が肩に担いで運び…東の海から西の海へ渡ったと」 「んだか」 「女ばかりの船だったらしいが、どこまで本当のことやら」

2019-12-02 23:34:42
帽子男 @alkali_acid

「女ばかりの船だか。オラ、どっかで聞いたことある気がするだども」 「女船の乗り手は、山獅の都のさらに高みにある、空と交信する塔で、招かれざる客が降りてきた際、連れ去られそうになった日輪の王を助け、招かれざる客をもとの虚無の暗黒へ還したと」

2019-12-02 23:36:49
帽子男 @alkali_acid

「えらいことだべ」 「女の巨人に、お前のように耳の尖った魔法を使う女に、炭のように黒く百発百中の斧を投げる女…どんな傷も癒してしまう娘、それから煙草を吸う女がいたとか」 最後だけぱっとしなくない?大丈夫?

2019-12-02 23:39:43
帽子男 @alkali_acid

「ああ…だが何より強かったのは荒鷲の都よりさらに北の平原にすむという、恐ろしく背の高い女の狩人だった。どんな怪物も倒してしまう力を持っていたそうだ」 多すぎない?情報とか? 「んだか…んで、この南瓜だども、種もうめえってほんとだか」 「あ、ああそれか…」

2019-12-02 23:42:07
帽子男 @alkali_acid

「南瓜の種は炒ってもうまいし、すりつぶして料理にかけてもうまいぞ」 「んだか。種からは新しい南瓜が生じるだども…卵もうめえしな…命の核はうめえだな」

2019-12-02 23:43:31
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