エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~6世代目・その4~

皆聞いて。ロズウェルは何かを隠してるんだよ。 ハッシュタグは「#えるどれ」。適宜トールキンネタトークにでもどうぞ。
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帽子男 @alkali_acid

とにかく女船の行き来があってから北と南の交易は盛んになったらしい。 山獅の都には、南瓜に限らず地峡を抜けた先の珍しい食べものが沢山あった。 「こ…この甘くてすっぱくて…香りのええ果実はなんだべ…」 「それは苺だ」 「苺だか?こんな苺…食ったことねえだ…」

2019-12-02 23:48:50
帽子男 @alkali_acid

「北の苺と南の苺の混ざったものだが…」 「混ざる…?」 「似たものどうしは間に種をなす。そうしてどちらとも似ていないものが育つこともある。畑仕事をしていれば知っていてるだろう」 「だども…こんなに変わるもんだか…んだか…」

2019-12-02 23:51:34
帽子男 @alkali_acid

ダウバには特にもう一つの西の果ての苺が衝撃だったと見えて、苗を探し回った。 「敖閃さ、オラどうしてもここの苺…交ざってできた苺を影の国さ持って帰りて…オラの薄焼菓子ちゃん…仙女を世界一の料理にすんのに、なくてはなんね…そう思うだ…だで、この苗は食わずにいてくんろ」

2019-12-02 23:53:29
帽子男 @alkali_acid

かきくどきながら、やっと見つけた苗を水と土ごと巨釜の中に入れる。 “おっほっほ、かわりに苺の実の方をもっと食べさせてたも。美味なり” 「んだなや…そだ。あの可可(カカオ)ちゅうの見つけたど。すげえ珍しいもんだと。ここの人等は飲み物にしとったど!やっと料理の仕方さ解っただ…」

2019-12-02 23:56:45
帽子男 @alkali_acid

天子の国でもそうだったように日輪の国でも香料はおしなべて貴重だった。 可可はもちろん、華尼拉(バニラ)など王の威光の届かぬ地の国々から交易によってもたらされたものも多く、ダウバが贖うのは苦労した。 「だども…どうしても欲しいだ…オラ…」 “おっほっほ、奪い取ればよいでおじゃる”

2019-12-03 00:03:11
帽子男 @alkali_acid

「だめだ。山獅の都さうまい食いもんと、それを料理する技と…何もかんもオラの知らねえことばかりだ。戦にしては何も手に入らね…」 “ちっさきもののことはそちに任せるでおじゃる。あの天竺鼠の肉はうまかったの。もっと食べさせてたも” 「んだ」

2019-12-03 00:05:35
帽子男 @alkali_acid

結局、沙漠の精霊の魔法で砂を集め、竜の火の息で溶かして玻璃の器をいくつか作った。かつて先祖たるマーリが年上の妹弟子硝子磨きと工夫した品々に比べれば無骨で工芸と呼ぶには恥ずかしい品だが頑丈ではあった。 市場の商人の中には喜んで受け取るものがあり、貴重な香料を手に入れることができた。

2019-12-03 00:07:21
帽子男 @alkali_acid

「おっどぉが言ってた商いだべ。ディヴァちゅうひとから教わっただ。力さ頼るよりも取引の方が欲しいもんさ手に入るて」 “おっほっほ。力でも手に入るでおじゃる”

2019-12-03 00:09:00
帽子男 @alkali_acid

一通りの苗を巨釜に集め終えたところで、ダウバはそろいの外套をまとった女達に呼び止められた。いずれも若々しく、痩せがちだが筋肉は引き締まって精悍。眼つきは厳しい。 「そこまでだ。異国のもの」 「オラだか?」 「ちょっと…神殿(しょ)まで来てもらおうか」

2019-12-03 00:11:55
帽子男 @alkali_acid

「ええだよ」 のこのことついていく。こういうときは名乗って身元を伝えたうえで退散すべきだと教わらなかったのだ。

2019-12-03 00:12:45
帽子男 @alkali_acid

都の神殿の中では小さい方に入る建物に連れ込まれ、いきなり四方八方から槍を向けられた。 「異国のものよ…お前は女船と同じく…海を越えたかなたの地からやってきたな」 「んだ」 「そこは…黄金に似ているがもっと固くしなやかな黒鉄の剣と…戦いと殺しののためだけに編まれた魔法があるという」

2019-12-03 00:16:02
帽子男 @alkali_acid

「んだ」 「かなたの地のものは血に飢え、ひたすらに戦ばかり求めるそうだな」 「この国さ違うだか?」 「我等も戦う。この槍が見えぬか?耕地を求め、塩を求め、水を求め、人を求め戦う。だがお前達ほどではない。そうではないか?」 「オラよく解んねえだ」

2019-12-03 00:18:20
帽子男 @alkali_acid

女は外套を脱ぎ捨て、裸身をさらす。傷だらけだった。 「私は素手で山獅と戦って勝った。よく見るがいい。これでも恐るに足らないと思うか?」 「うまそうだな。食ってもええだか」 「下郎!」

2019-12-03 00:20:49
帽子男 @alkali_acid

別の女が手に持つ槍を、巨漢のどて腹い突きつける。黒曜石を研磨してびっしりと硬い木の穂先に埋め込んだめちゃくちゃ痛そうな武器だ。だがかたちはどこか影の国やその隣国で用いられるものに似ている。 「おめさ方、オラの故郷の武器さ真似ただな」

2019-12-03 00:23:35
帽子男 @alkali_acid

「…なるほどうすらでかいからといって馬鹿ではないな…」 「女船の知り合いだか?…思い出しただ。鳶一味だ。おっどおの友達だ。鳶一味さここまで来ただな」 「鳶お姉さまを知っているのか?」

2019-12-03 00:24:45
帽子男 @alkali_acid

たちまち空気が緩む。 女達は嬉々としている。 「では…鳶お姉さまが警(いまし)めていた、招かれざる客ではないのか…いやまだ解らぬ…鳶お姉さまとはどういうかかわりだ」 「おっどぉの友達だ。オラはよく知らねえだ」

2019-12-03 00:26:51
帽子男 @alkali_acid

まだ武装を解いてはいなかったが、徐々に外套の乙女らは害意を納めていった。 「この都にはあまたの異邦人が訪れる。ほかの国の間者もな。たいていのものは目を瞑るが、かなたの地から来た女船の長が残していった言葉がある。いつの日か、かなたの地から招かれざる客が来るかもしれないと」

2019-12-03 00:29:26
帽子男 @alkali_acid

「招かれざる客だか」 「客は戦と殺しに長け、恐るべき病を運び、我等の富をねこそぎ奪い、神々を追放し、我等を奴隷に変えるかもしれないと」 「んだか…」 「剣と魔法の支配する国々…ただでさえ強大で残忍な民の支配する地に、我等の地に生じる恵みを与えてはますます危うくなる」

2019-12-03 00:34:31
帽子男 @alkali_acid

「たいへんだべな…」 「鳶お姉さまの警めを察(おしはか)り、招かれざる客を防ぐため、我等は備えてきた…特に滋養のもとになる馬鈴薯と、健やかさを保つ赤茄子は…決して渡せぬ」

2019-12-03 00:36:46
帽子男 @alkali_acid

傷だらけの女は力強く叫ぶ。 「馬鈴薯(ジャガイモ)と赤茄子(トマト)…この二つを決して剣と魔法の支配する国々にもたらさぬため、我等は厳しく見張っている。故に人呼んで…馬鈴赤茄(ジャガトマ)警察!!!」

2019-12-03 00:37:30
帽子男 @alkali_acid

「苺はええだか?」 「苺…苺は…お前達の国にあるか?」 「味も香りも違うだどもあるにはあるだ」 「…あるならよいか…それはよい」 「南瓜はどうだべ?」 「南瓜…南瓜は…む…北の荒鷲の都の産ゆえよいか…」 「んだか。薩摩芋ちゅうのはどうだべ」 「…え、どうかな…」

2019-12-03 00:39:17
帽子男 @alkali_acid

ダウバは腕組みをした。 「剣と魔法の支配する国々ちゅうと、オラの故郷の近辺だと思うだども…あそこにあるもん大半は、よその土地から入ってきたもんだと思うだ。この国ほど広い海で隔てられてはいねえだども」 「そうなのか」

2019-12-03 00:41:22
帽子男 @alkali_acid

「んだ。食いもんも、それこそ黒鉄の剣だのも、ずっと東の方から入ってきたもんではねかとおっどぉは言うとった…なして赤茄子と馬鈴薯だけは別だ?」 「だから…我等の地の恵みによって強くなられては…しかしおかしいではないか、広い海を隔てた地のものが渡るなどと」 「魔法があるだど」

2019-12-03 00:44:05
帽子男 @alkali_acid

「竜が空さ飛んで、妖精が火や水や風や土を意のままにしとる国だど。なして海を恵みが渡ることだけがおかしいだ?妙な理屈だ」 「とにかく馬鈴薯と赤茄子だけは渡せん!」 「オラどうしても欲しいだども…」

2019-12-03 00:46:29
帽子男 @alkali_acid

ダウバは考え込んだ。 「んだ。ならオラ、嘘つくだ」 「嘘だと?」 「馬鈴薯も赤茄子も、あと鳶が好きな煙草もみんな光の諸王ちゅうえらい神々がもたらしたことにするだ。煙草なんか沈んだ西の島にでも生えてたちゅうことにすべ」 「我等の恵みを奪ったうえその出自をすり替えるだと?」

2019-12-03 00:53:18
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