2020年1月7日

JCウイルス(JCV)から見たヨーロッパ系の人々の分岐と移動/最古のヨーロッパ系JCVを極東アジアの先住民から発見!

以前のまとめで、A型JCウイルス(JCV)を持つ現生人類の祖先集団がアフリカを出て、ヨーロッパへ向かったーこれがヨーロッパ人となったと述べた。しかし、ヨーロッパ系の人々の出アフリカ後のシナリオはもっと複雑だった。実際、前回紹介したように、東北地方の日本海側でA型JCVの亜型であるEU-aが検出され、ヨーロッパ系の人々が太古において、アジア大陸の東端に渡来したことが示唆された。そこで、今まで未調査だった、東シベリアや北極圏の先住民族が、ヨーロッパ系のA型JCVをもっているかどうかを調査した。
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ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J

以前のまとめで、A型JCウイルス(JCV)をもつ現生人類の祖先集団がアフリカを出て、ヨーロッパへ向かったーこれがヨーロッパ人となったと述べた。しかし、ヨーロッパ系の人々の出アフリカ後のシナリオはもっと複雑だった。実際、前回のまとめで、東北地方の日本海側でA型JCVの亜型であるEU-aが6~17%の

2020-01-07 17:18:13
ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J

割合で検出され、ヨーロッパ系の人々が太古において、アジア大陸の東端に渡来し、日本に上陸したことが示唆された。そこで、今まで未調査だった、東シベリアや北極圏の先住民族が、ヨーロッパ系のA型JCVを持っているかどうかを調査した。<尿採取>表1に尿の採取地、尿を採取した民族、尿を採取して pic.twitter.com/pcYQTYFjuI

2020-01-07 17:18:16
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いただいた方々を示した。尿提供者は各地点の先住民である。①アムール川下流域では、ナナイから、②ベーリング海峡のロシア側ではコリヤークから、③カムチャッカ半島の根元部分ではチュクチから、④コリマ川下流域で複数民族から、そして⑤、⑥カナダ北極圏ではイヌイット(別名エスキモーは差別用語)

2020-01-07 17:18:16
ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J

から尿を採取した。<尿の採取者>尿を採取した方々について簡単に説明する。a)デメネフさんはロシアの研究者。鳥インフルエンザの研究で有名な北大の喜田宏教授(当時)に紹介していただいた。b)関野吉晴氏はチリの南端から東アフリカまで、人類の歩いた道筋を人力で逆にたどるグレートジャーニーを

2020-01-07 17:18:17
ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J

企画し、足かけ10年で踏破した。彼が東北シベリアを通過する際に2と3の地点で採尿していただいた。横浜衛研・小林伸好室長(当時)の仲介による(以下同様)。c)小嶋一男氏は犬橇の名手。「極北ロマン紀行」と銘打って、犬橇でシベリアのイルクーツクからグリーンランドまで走破。途中①④⑤の地点で

2020-01-07 17:18:18
ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J

先住民から採尿していただいた。本庄健男氏は犬橇隊の元隊員。地点➀での尿採取を担当。<部分配列による解析>検体から抽出したDNAを使って、まず簡易解析法、すなわち部分配列を使った系統解析を行った。得られた系統樹により各検体に含まれるJCVのゲノム型(型と亜型)を決定した。表2に各集団から pic.twitter.com/sOO3zoukKL

2020-01-07 17:18:20
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検出されたJCVゲノム型を示した。ナナイからはA型が70%と最も多く検出され、その他近隣の集団が持つJCV亜型(B型亜型、CYとB1-b)もわずかに検出された(CYは東北アジアに、B1-bは中央アジアに分布)。チュクチ、コリヤーク、イヌイットからはA型のみが検出された。特にチュクチとイヌイットでは調べた

2020-01-07 17:18:21
ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J

株数が少ないので、もっと多くの株を調べれば、他のゲノム型も検出される可能性がある。とは言え、東北シベリアとカナダ北極圏の民族が保有する主要なJCVゲノム型はA型であることは間違いないと思われる。<全長配列による解析>次に、全長塩基配列を用いた精度の高い解析により、先住民がもつA型JCVを

2020-01-07 17:34:21
ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J

詳しく解析した。図1に全長塩基配列を基に近隣結合法により作成された分子系統樹を示した。この系統樹を模式図にしたものを図2に示したので、参考にしてほしい。以下、この分子系統樹から読み取れるポイントを述べる。第一に、A型JCVの第三の亜型、EU-cが存在することが今回初めて判明した。EU-cは pic.twitter.com/GRBkgDg5J3

2020-01-07 17:18:25
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東北シベリアの民族のうち、ナナイとコリマ流域の民族から検出された。この亜型はA型の祖先から最初に分岐しており、現存するA型の3亜型の内、最古の亜型である。今回はデータを示さないが、EU-cは日本の先住民族であるアイヌからも検出された。第二に、ベーリング海峡のロシア側の民族(コリヤーク)

2020-01-07 17:18:26
ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J

とカナダ北極圏民族(イヌイット)から検出されたEU-aはEU-a1/Arcと名付けたグループ(クラスター)を形成した。また、東北地方の日本海側で多く見つかったEU-aはEU-a1/JKと名付けたグループ(クラスター)を形成した(未発表データだが、韓国の一株(SK-6)もこのグループに入った)。第三に、A型JCV

2020-01-07 17:18:27
ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J

の主要な分布域(ヨーロッパ・地中海地域と新大陸)に分布しているJCVゲノム型はEU-aおよびEU-bであるが、前者はEU-aのサブグループ、EU-a1/othersとEU-a2に入った。<解説>図1で、クラスターの節の部分に付した赤色の数字はブートストラップ(BP)値で、この数値が90(%)以上だとクラスターに

2020-01-07 17:18:27
ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J

に対する信頼度が有意に高いとされる。図1で、ほとんどの主要なクラスターに対するBP値が90~100%になっている。全長塩基配列を用いた分子系統解析の効果が見事に発揮されていることに注目してほしい(本まとめの最後の話題「技術的な問題の克服」を参照)。<ヨーロッパ系の人々の東方への大移動

2020-01-07 17:18:28
ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J

以前も述べたように,JCVは移動の際、人類集団と行動を共にしてきたと考えられるから(Suzuki et al., 2002)、図2はA型JCVをもったヒト集団の分化と移動を示していることになる。もしそうなら、図2は太古におけるヨーロッパ系の人々の、東方への大移動が三回あったことを示している。第一波はEU-cを

2020-01-07 17:18:29
ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J

もった集団の移動である。彼らは東北シベリアに辿り着いて、そこに永住した。彼らの一部は北海道に渡り、アイヌの中核になった。第二波と第三波はほぼ同時に進行し、それらのうちの一つはEU-a1/JKをもって東進し、極東に至った後に南下して日本列島と朝鮮半島に渡来した。もう一つはEU-a1/Arcをもって

2020-01-07 17:18:29
ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J

アジア大陸の東端まで進み、その後、北上してベーリング海峡の周辺や北極圏に住み着いた。以上は私が描いたヨーロッパ系の人々の東方への大移動のシナリオだが、信じてもらえるか。なお、次々回くらいに、JCVから見たアイヌの成り立ちを紹介する予定だが、その際、EU-cとEU-a1/Arcが再登場する。

2020-01-07 17:18:30
ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J

技術的な問題の克服>今回のテーマに取り組み始めた2000年頃、私たちが直面した大きな技術的な問題について述べる。論文を投稿しても、拒否されることが続けて起きたのだ。その原因は分子系統解析の信頼度の問題であった。従来は部分配列(610塩基対のIG配列)を使っていたため、塩基置換という情報量

2020-01-07 17:43:14
ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J

が少なく、そのため分子系統樹の信頼度が低いという欠陥があった。この問題を解決する方法としてIG領域に代わって4800塩基対の全コード領域(便宜的に全長配列ともいう)を用いることが考えられた。しかし、私たちのグループには、全長解析法の効果を疑問視する意見も根強かった。そこで私は統計数理の

2020-01-07 17:18:31
ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J

専門家に教えを乞うことにした。選ばれたのが、分子系統学の世界的な権威である長谷川政美・統計数理研究所教授(当時)であった。長谷川教授に電話してアポをとった上で、9月のある日の午後、我がグループで分子系統解析の中心的な役割を果たしている大学院生の杉本智恵(敬称略)と共に、長谷川教授の

2020-01-07 17:18:32
ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J

研究室を訪ねた。私たちが行っている研究や今直面している問題について手短に私が話した後、杉本は「全長解析やれば、ブートストラップ値-は上がりますか?」と単刀直入に尋ねた。長谷川先生は「上がります。」と明言された。それを聞いた杉本はぶつぶつ独り言を呟いていたが、彼女は頭の中で全長解析

2020-01-07 17:18:32
ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J

のスケジュールを立てているようだった。長谷川先生に教えを乞うたのは正解だった。私たちは「全長配列を使った解析の結果でましたら、ご相談に参りますので、よろしくお願いします」と言って、長谷川先生の研究室を後にした。長谷川先生には分子系統解析の基本をご指導いただいただけでなく、先生自ら

2020-01-07 17:18:33
ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J

超高度な最尤法による分子系統解析を担当していただいた。長谷川先生には心から感謝する。 <文献> 1) Sugimoto C, et al., 1997. Typing of urinary JC virus DNA offers a novel means of tracing human migrations. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 94:9191-9196.

2020-01-07 17:18:33
ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J

2) Sugimoto C, et al., 2002. JC virus strains indigenous to northeastern Siberians and Canadian Inuits are unique but evolutionally related to those distributed throughout Europe and Mediterranean areas. J. Mol. Evol. 55:322-335.

2020-01-07 17:18:34
ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J

3) Suzuki M, et al., 2002. Asian genotypes of JC virus in Japanese-Americans suggest familial transmission. J. Virol. 76:10074-10078. 4) 余郷嘉明他. 2007. JCウイルスから見た日本人とアイヌの起源. Virus Report 4:82-92.

2020-01-07 17:20:21

コメント

ゆゆ @yuyu_news 2020年1月7日
ここ2~3世代で移民とか混血増えすぎてこの手の調査が困難になっていたり、検体を探すためにルーツを聞くのも人権問題になりそうな地域が結構ありそう。元の調査がこんな感じなのに、「あなたのルーツは何%が何人!」みたいな遺伝子診断にどこまで根拠があるのやら。
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ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J 2020年1月8日
yuyu_news 前にコメントしたように、JCVは一緒に住んでいる親から子伝播しますが、感染様式は水平感染(出生後の人同士の感染)なので、幾世代もの後にはウイルスの型とヒトの遺伝子の乖離が起きます。JCVを基にヒト集団の成り立ちを論じることはできますが、ある人がEU-aを持っていても、その人が白人系の遺伝子を持っているとは言えません。集団の中の別の人が持っているかもしれませんが。
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ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J 2020年1月8日
Dam_midorikawa チュルク語族とは中央アジア系の民族が対応するのでしょうか。この言語を話す民族にウズベキスタン人やヤクート人も含まれますか。彼らのもつ主要なJCVはB型のB1-bです。極東シベリアの民族がもつ主要なJCVはA型のEU-cかEU-a1/Arcでしたから、チュルク語族を話す民族ではなさそうです。
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