アメリカ先住民の単一起源説とJCウイルスの進化

ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J

＜伝播様式＞一連のTogetterまとめで紹介してきたように、私たちはJCウイルス（JCV）を指標として、ヒト集団の成り立ちや人類移動を解析し、多くの新しい知見を得てきた。私たちは、JCVがヒト集団の指標として役立つ理由はその独特な伝播様式にあると考え、「一緒に生活している親から子へ伝播する」

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という作業仮説を立て、この仮説を様々な方法で検討してきた。その決定打となったのが、2002年に発表した日系アメリカ人の二世、三世が保有するJCVの調査である（Suzuki et al., 2002）。この調査で母国日本で蔓延しているJCV亜型（CY と MY）が高率に日系アメリカ人二世、三世から検出され（図１）、 pic.twitter.com/3lDMlVRXg8

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母国から持ち込まれたJCVが日系アメリカ人の家族で代々伝播したことが確認された。JCVがヒト集団の指標として役立つ理由は、その独特な伝播様式にあると言える。閑話休題。＜Agostiniらの論文＞1997年にAgostiniらは、USA内の二つの先住民族（ナバホとフラットヘッド）の尿から検出されたJCVの型は、

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以前東京で脳症患者の脳から分離されたJCV（Tokyo-1株）の型（2A、私たちの分類法ではMY）と一致すると報告した。この報告は、１万数千年前にアジア人がアメリカ大陸に渡ってアメリカ先住民になったという通説を支持するものとして注目された。しかし、①USA以外の地域に居住するアメリカ先住民がもつ

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JCVは調べられていない、②高性能の全長解析法で調べた株が少ない、③日本人由来の一株だけで東北アジアのJCVを代表させているなど、この論文には不十分な点が多かった。アメリカ先住民がもつJCVの全貌を明らかにするためには、もっと詳しい解析が必要であった。＜尿収集＞私たちは以前から立てていた

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計画に沿って、アメリカ大陸の４ヵ国に居住する先住民ーグアテマラ先住民、ペルー先住民、メキシコ先住民、カナダ先住民―から尿を採取した（図２、図３）。言語分類により、グアテマラ先住民、ペルー先住民、メキシコ先住民はアメリンド族に属し、カナダ先住民はナデネ族に属した。尿採取に際し、研究 pic.twitter.com/sHbpgBdeYr

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グループの一人が現地に赴き、地元の研究所所員、病院関係者、公衆衛生関係者、JICA関係者、ガイドなどの協力の下、採尿を行った。尿を日本に運び、以下の一連の操作―ウイルスDNAの抽出、塩基配列の決定、分子系統解析―を東京の研究室で行った。＜簡易解析＞部分配列を用いた簡易解析により検出された

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JCVの大分部はMY亜型に分類された（グアテマラで89％、メキシコ、ペルーおよびカナダで100％）（表１）。従来、MYは日本と韓国に局在している考えられていたが、今回の調査で、MYは日本・韓国のみならず、北極圏を除くアメリカ大陸の先住民に広く分布していることが明らかになった。なお、北極圏に住む pic.twitter.com/Oo4eXFWIJh

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先住民（イヌイット）は、ヨーロッパ系のJCV（EU-a1/Arc）を保有していた（前回のまとめ「JCウイルスから見たヨーロッパ系の…」を参照）。＜系統解析＞各アメリカ先住民において検出されたウイルス株のうち代表的な5～6株と既に報告されたMY亜型に分類された株ーUSA先住民から検出された３株、日本人

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から検出された8株、韓国人から検出された2株―に対して、全長配列に基づき、近隣結合法による分子系統解析を行った。作成された分子系統樹（図４）の特徴は以下の通りである。①MY亜型は７つのクレード（MY-a～MY-g）に分岐した（注：クレード、英語表記はclade。分岐群のこと）。②二つのクレード pic.twitter.com/ujVlfRnIMr

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（MY-aとMY-b）は固まったが、他のクレードは互いに固まることはなかった。なお、MY-c以外のアメリカ先住民の4クレード（MY-d～MY-g）が全体として一つに固まっているように見えるが、BP値が低い(61%)ので、4クレードの固まりは系統学的には認められない。③興味深いことに、クレードとヒト集団との

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関連が認められた。MY-aは日本人由来の株のみを含み、MY-bは日本人と韓国人由来の株を含んだ。MY-c、MY-d、MY-e、MY-f、MY-gはそれぞれメキシコ先住民、USA先住民（ナバホ族）、グアテマラ先住民、ペルー先住民、カナダ先住民に由来する株を多く含んだ。＜分岐年代＞次にMYがクレードに分岐した時期を

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検討した。日本人・韓国人に特異的なMY-b、ペルー先住民に特異的なMY-f、カナダ先住民に特異的なMY-gを代表として選び、お互いが分岐した時期を計算した（図５）。その結果、日本人・韓国人に特異的なクレードとアメリカ先住民に特異的なクレードが分岐した年代は1万9千年前、アメリカ先住民に特異的な pic.twitter.com/pSDIhNOocC

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クレード同士が分岐した年代は1万5千年前と計算された。しかし、系統解析の専門家によると、上記の数値は統計学的な誤差を考慮すれば、MYクレード間の分岐は押しなべて30.000年前～10.000年前に起きたと考えるべきとのこと。この推定値は大まかに言って、考古学的な証拠に基づいて推定された「最初の

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アメリカ人」の渡来時期―12,000年またはそれ以上前―と一致している。＜仮説＞私は最近のまとめ「JCVによる日本人の成り立ち・・・」の中で「日本・韓国のMYとアメリカ先住民のMYは2万年前～1万年前に共通の先祖から分岐したことが示された。おそらく東北シベリアに居住した、祖先MYをもつ集団が二つに

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分かれ、そのうちのひとつが日本と韓国に渡来し、他のひとつはベーリング陸橋を渡ってアメリカ大陸に進出したと推定された。」と述べた。今回、先の推定の後半部分が具体的になった。私が着目したのは、考古学的な研究から明らかになった最初のアメリカ人の年代が１万５千年前～1万３千年前だという

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ことである。大まかに言って、この年代はアメリカ先住民がもつMYのクレードの分岐年代―3万年前～1万年前―とほぼ同じだった。このことからJCVの進化に関して、次のようなシナリオが描ける（図６）。「最初のアメリカ人はアメリカ大陸に渡来した時点では祖先型MY（proto-MY、pMY）をもっていた。アメリカ pic.twitter.com/LbhfOagZnN

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大陸の各地に拡散し、定住した時から、MY型JCVは集団に特異的な進化―例えば、カナダ先住民ではpMYからMY-gへの進化、ペルーではpMYからMY-fへの進化―を遂げた。」このようなJCVの進化の筋書はアメリカ先住民（イヌイットを除く）に関する単一起源説を支持する。単一起源説によれば、以下のシナリオが

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想定される。「ベーリング陸橋を通過してアメリカ大陸に侵入した最初のアメリカ人は、アメリカ大陸を南下して生活に適した場所に定住するも、集団の中の一部の者たちはより良き環境を求めて、さらに南へと移っていった。このように、最初のアメリカ人は移動と定住を繰り返して南アメリカの南端まで驚く

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べき速さで到達した。」アメリカ先住民に関する単一起源説は、図らずも彼らが代々受け継いできたJCVから、強い支持を得ることになった。 ＜謝辞＞ 尿を提供した頂いた皆様、尿採取にご協力頂いた皆様に深謝する。

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＜文献＞ 1) Sugimoto C, et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94: 9191,1997. 2) Agostini HT, et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94: 14542,1997. 3) Suzuki M, et al. J. Virol. 76:10074, 2002. 4) Zheng HY, et al. J. Mol. Evol. 56:18, 2003. 5) ナショナル・ジオグラフィック 2015年1月号.