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前回の話
以下本編
◆◆◆◆ この物語はエルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系のウハウハドスケベご都合ファンタジー。 今は八代目ドレアムの時代。勝負好きの男子。カードゲームでもボードゲームでもダイスゲームでもとにかく勝負なら何でも好き。夢は一族に伝わるエルフの女奴隷に勝ち、ダイヤの指輪をせしめること。
2020-01-13 17:01:58しかしエルフの女奴隷、ダリューテはとても強い。もともとは森の妃騎士。つまり武人であり王侯でもあったので、武芸も軍略もそして、そしてたしなみとしての将棋も抜群の腕前。しかも昔の主人にもらったダイヤの指輪を大事にしているので、わざと負けて譲ってくれるということもない。
2020-01-13 17:04:13ドレアムは勝利を掴むため、故郷である影の国を離れ、かつて女奴隷と互角の対局をしたという伝説の指し手ガティの行方を捜す旅に出た。立ち寄った街で聞いた消息によると、はるか南にある広大な曙の大地のいや奥で、誰にも解けない造物(詰め将棋)の棋譜を残したらしい。
2020-01-13 17:08:13さていよいよ舞台は野獣と猛禽の跋扈し、強大な王国がひしめく遠南の地へ、といいたいところだが、その前にドレアムの悪いくせがでた。 勝負好きの血が騒ぎ、ついつい道草というか、あちこちで催される楽しい賭け仕合に夢中になるのだ。
2020-01-13 17:10:14東方と南方の文物が集まる大と下位、南の大湊では手漕ぎ船による競艇が催されており、まずここで勝ちに勝った。 まぐれではない。漕ぎ手の集まる酒場や食堂にひょっこり顔を出し、いつのまにか打ち解けてあれこれと話を聞きこむ。 まだ影の国の仔はまだ幼く、本来ならつまみ出されるはずだが
2020-01-13 17:12:11どういう訳か船乗りの隠語や符丁、あれこれの冗談に通じているのだ。 「ほわー。ええ匂いのええ男がいっぱいや!見てみあの肩の筋肉…しかし目が見えるちゅうのもええもんやね」 口調まで変わっている。なぜか漕ぎ手の中で一番柄のよくなさそうな荒くれやら飲んだくれやら問題児とばかり仲良くなる。
2020-01-13 17:13:53だがそういう荒くれが競艇の組合に残っていられるのは、ひとえにほかに勝る技や力、頭があるせいだ。ドレアムはあっという間にこの賭け事の要諦を掴むと、次は小舟のあいだをちょこまか動き回り、舷側をとんとん、舳先をこんこん。艇の状態を音と匂いですべて掌(たなごころ)にしてしまう。
2020-01-13 17:15:56ちなみに子供は、どの艇に賭けるかといった割符を買えないのでおつきの老爺二人が代わりに購入する。 「うはははは!また買ったわい!わしの星占(ほしうら)の通りじゃわい」 「何を、わしの八卦(はっけ)があたったんじゃ!ま、ドレアムの言う通りに買っただけじゃが」 両翁も上機嫌だ。
2020-01-13 17:17:43だんたんと張る額が大きくなると、そっと近づいてくるものがいる。 「ご老体。寄合衆が許した公の賭け屋なんぞ、ふんだくりの詐欺ですぜ。掛け金のうち合わせて四割は持ってっちまう」 あやしげな風体の地回りだ。 「ほう?ほかにあるのか?」 「もっと良心のあるのみ屋がいますよ」
2020-01-13 17:19:34「おもしれえんでさ!そこへいきましょうや!」 影の国生まれの暗い膚に尖り耳の童児は、まったく臆せずそう応じる。そばにいる褪せた青衣の年寄り達も、とりたてて慎重さというものは持ち合わせていないので同意する。 「もっと儲かるなら歓迎じゃ!」 「そうじゃそうじゃ!」
2020-01-13 17:21:07裏の帳場でも勝って勝って勝ちまくり、資金は膨れ上がる。 老爺等はもう有頂天で、酒をらっぱ飲みし、ふるまいの煙草をふかしまくる。 「うははは!魔法の財布なぞいらんわい!」 「この先一生金貨にも銀貨にも不自由せんわい!」
2020-01-13 17:23:20ちなみに片方が青の占星術師アメノハテ、もう片方が青の風水術師チノハテといい、それぞれ正体は西の果ての光の諸王、つまり神々から遣わされた南方使節と東方使節。要するに天使みたいなものである。それがなりゆきでエルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の食客をやっているのだ。
2020-01-13 17:26:22二人の幸運の印である子供の方はというと、掛け金を丸ごとすってしまいおいおいと泣く巡礼らしきいでたちのおばさん達を慰めている。ろくでなしにみえて、優しいところがあるのだ。多分ね。 「これじゃあ白銀后の聖地、氷の墓標を眺めながら芸も披露できません」 「そのためにお金をためてきたのに」
2020-01-13 17:31:48「魔がさしたんです。あざらし号という船の名前を見てつい」 「…ああ…どうしたら」 御婦人方のそばでぴょんぴょん跳ねながらドレアムははげます。 「つぎにおおきくはってとりかえしゃいいんで!そうだ!てまえが珈琲(コーヒー)と蜜菓子おごりまさ!きんじょに湾の珈琲館のでみせがあるんでさ」
2020-01-13 17:33:59そうこうしているとアメノハテとチノハテが袖をひく。 「もういっぺんじゃ!今日最後の競漕じゃぞ!大一番じゃ」 「こののみやの金をぜんぶ攫うんじゃ!」
2020-01-13 17:37:01「まだお賭けになるんで…そいつは豪儀だ」 のみ屋は顔をひくつかせながらも割符を渡す。ほかにもぞろぞろと買うものは多い。先程の巡礼のおばささん達もどこからか金を都合したのかまた張るようだ。
2020-01-13 17:38:48青の魔法使い二人は今度も連れである影の国の世継ぎの言いなりに艇を選び、勝利をつゆ疑いもしない。だが、のみ屋の後ろに控える地回りの上役らしき男は無言で腕組みをして客のようすを見守りながら、瞳をきらりと光らせた。
2020-01-13 17:40:10華やかに鮮やかな色を縫った艇という艇が、巻貝の笛の音ともに一斉に漕ぎ出す。 予想通り青と黒の老幼三人組が張った艇が先んじる。漕ぎ手も乗り船も優れている。だが途中で奇妙なほど失速し、ほかの船に追い抜かれて、びりになってしまった。
2020-01-13 17:42:13愕然とする老爺等に、のみやは肩を竦める。 「ま、欲を掻きすぎなさったね。まさか大穴が来るとは」 「そ、そんな馬鹿な!」 「わしらの金が!あれでたくさん化石が買えたものを…」
2020-01-13 17:43:16そこへ巡礼の中年女達がどたどたとやってきて、童児の手をとり押し戴かんばかりにする。 「ありがとうおぼっちゃん。あなたのお金で、あなたの言う通り賭けたら…こんなにたくさん…まあどうしましょう…あと十回ぐらいは巡礼しても足りないわ」 「でも私達は自分のお金が戻ってくれば十分。残りは」
2020-01-13 17:44:53といって大金になる割符をあっさり返してよこす。 「ではどうか。あざらしの芸の加護あらんことを」 「清らかな歌の響きあれ…あなたもいつか氷の墓標に詣でるといいわ…きっとご利益があります」
2020-01-13 17:46:20