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エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~8世代目・その4~

姉畑支遁のこと、俺はずっと覚えてるから。 ハッシュタグは「#えるどれ」。適宜トールキンネタトークにでもどうぞ
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帽子男 @alkali_acid

にこにこしているドレアムに、アメノハテとチノハテは激しく睨みつける。 「なんでわしらとあの巡礼どもとに違う船を賭けさせたんじゃ!」 「しかもあの巡礼どもの方がたいまい賭けとる!ずるいんじゃ!」 「卑怯じゃ!」

2020-01-13 17:48:04
帽子男 @alkali_acid

騒いでいるところに地回りの上役らしいのがやってくる。平静を装っているが、怒りに土気色になっている。 「お客さん、店の中でうるさくされちゃ困りますよ。ちょっと奥で話しましょうか」 「がってんでさ!」 童児は機嫌よく応じる。

2020-01-13 17:49:39
帽子男 @alkali_acid

奥には顔に傷の入ったこわもての男女がずらり。腰に短剣だの棍棒だのを吊るしてこれみよがしに威しをかける風だ。 「随分稼がれましたねえぼっちゃん。いやまさか、大穴をあんな風に当ててくるなんてねえ」 「てまえはかけきんをかしただけでさ」 「…いやいや…おみそれしやしたよ」

2020-01-13 17:51:05
帽子男 @alkali_acid

地回りは笑顔で語りかける。 「せっかく花の都は南の大湊で大金を手にしたんだ。これでおわりにしちゃあ夢がねえ。うちには競艇以外の鉄火場もあるんで。賽子遊びをしやせんかい?」 「いいんでさ?」

2020-01-13 17:52:27
帽子男 @alkali_acid

地回りが目で合図をすると、男女がぞろぞろと道を開ける。 南の大湊は今でこそ南と東の交易の要地として、商都として名を響かせているが、もともとは海賊の拠点だ。この町の裏には底知れない闇がある。

2020-01-13 17:54:12
帽子男 @alkali_acid

地回りが連れて行った賽子(サイコロ)遊びの場では、金貨の袋が動く。 特上の鉄火場だが、ドレアムは遠慮なくまた勝ちまくった。 耳を澄ませて、ほんわりした笑みを浮かべて。 「おにーはん。おもろいくせやわ」 といなせな振り手の男に語り掛けると、向こうはどぎまぎして指使いを狂わせる。

2020-01-13 17:56:45
帽子男 @alkali_acid

「そう硬くならんで。落ち着いてからでええで」 ちびた子供のくせに、ぞくっとするほど甘い面立ちになって、囁くと、もう三十を過ぎて海千山千のはずの振り手は何がなんだかわからなくなる。 「…おかしら!おれぁもうだめだ!」 と匕首を抜いて指を落とそうとするのを、氷の飛刀が叩き落とす。

2020-01-13 17:59:03
帽子男 @alkali_acid

「あかんて。ええ男がもったいない」 とぅんく。 こんな童児に。もはや場にいるやくざの全員が魅了されていた。 「…この鉄火場ごと…差し上げるしかねえようだ」 親分は降参する。

2020-01-13 17:59:58
帽子男 @alkali_acid

「ほんまあ?でもワテらそう長いあいだここにはおれんのや…どないする?…あ、かえすわ」 影の国の世継ぎはふとまた表情をあどけなくやわらげて、口調も違ったものになる。 「それじゃ!もっと、おっきなしょうぶをするところへあんないしてくだせえよ!」

2020-01-13 18:01:22
帽子男 @alkali_acid

「もっと大きな勝負ですって…そいつはかたぎの方をお連れできるようなとこじゃ…ちぇっ…しょうがねえ…ぼっちゃんにかかっちゃかなわねえ…よく聞いて考えてくだせえ。この南の大湊には、あたりの海賊衆、抜荷衆、密漁衆、ありとあらゆる悪党すべてが集まる秘密の賭場がある…主催してるのは」

2020-01-13 18:03:50
帽子男 @alkali_acid

「大海賊トラザメ。あの大海賊ハヤブサの再来と言われる、いってみりゃ南方の男王(おのきみ)だ。あの海の都の女王とも互角に渡り合う海賊艦隊の持ち主で、おまけに必勝の賽子を持ってる」 「すげえや!」

2020-01-13 18:07:14
帽子男 @alkali_acid

「トラザメはもとは海底漁(うなぞこあさ)り。ところがある時、大昔に沈んだ、あの影の国の軍船を引き上げたという噂だ。その船の竜骨を削りとって作ったのが必勝の賽子。闇の魔法がかかってて、どんな相手に振らせても必ず持ち主の思い通りの出目が転がる」

2020-01-13 18:10:22
帽子男 @alkali_acid

「そんでそんで?」 「大海賊の賭場に挑むのは、それぞれ大きな海賊の船長や、いくつもの賭場を持つ博徒の頭目、抜荷の船隊を持つ豪商に、密漁の網元…悪党の中の悪党ばかり。勝てばトラザメの縄張りと財宝すべてを得られるが、負ければすべてを奪われる」

2020-01-13 18:12:16
帽子男 @alkali_acid

「…おもしれえんでさ!」 「本当に行くんですかい?」 「いきまさ!」 「かー!惚れた!ぼっちゃんに惚れたぜ!」 博徒の頭目は、南の大湊の闇のいや奥、入り組んだ路地に渡された色とりどりの布張りの屋根と、香料の匂いと魚の匂いが入り混じる先へドレアム等を案内した。

2020-01-13 18:14:52
帽子男 @alkali_acid

今は使われなくなった旧い地下の墓所が、トラザメの賭場だった。 かつて西方人が南の大湊を支配していた際、身分の高いものを葬る霊廟として建てた広い空間だった。 今は明々と灯が点り、賑々しく東の綴織が飾り、半裸の踊り子が妖しく身をくねらせ、さすらいの民の楽士が蠱惑に満ちた琵琶を奏でる。

2020-01-13 18:17:21
帽子男 @alkali_acid

トラザメはでっぷり太った大男だった。 そばには可憐な少年が数人。薄絹だけをまとい、眉墨を引き口紅を挿し、白粉をはたいて艶めかしく化粧をしてしどけなく侍っている。 「ほう新しい酌童か?東方の獣の神々を崇める部族の血筋だな。賭けの代にするか、ただの付け届けか」 嗤って珍客に尋ねる。

2020-01-13 18:19:49
帽子男 @alkali_acid

「…海から戻ってると聞いてたが、元気そうで何よりだ。この御方は、うちの客分のドレアム。今日はあんたと賽子遊びをしたいというんで連れてきたんだ」 博徒の頭目が述べると、トラザメは目を点にする。周囲で酌童達がくすくすと笑たり、ものうげにあくびをしたりする。

2020-01-13 18:21:41
帽子男 @alkali_acid

「そいつは面白い?おいどう思う真珠?」 肥満漢は少年のひとりの尻を撫でながら尋ねると、くすぐったそうな嬌声とともに応える。 「…魔法使いですよ。トラザメ。見た目通りじゃない」 「どいつがだ?年寄りと子供合わせて三人いるぞ」 「多分全員です。そんな匂いがします」

2020-01-13 18:25:11
帽子男 @alkali_acid

「全員か。いやはや…ああすまんな客人。真珠は先祖に妖精の血が入っててな。別に魔法は使えんが、魔法使いを嗅ぎ当てるのさ。重宝してる」 ドレアムがそちらを一瞥する。 「どれいでさ?」 「まさか。俺も影の国の黒の乗り手の嫉妬を招くつもりはない。愛人てやつだ。くく…そういうことにしとく」

2020-01-13 18:27:18
帽子男 @alkali_acid

別の少年が身を起こす。漆黒の艶やかな肌をして、少女のように長い髪を幾本もの筋に結っている。優しげな面立ちだが、双眸は真白になっており、手に持って太った主を仰いでいた扇は、よく見れば鋼でできて尖端が刃になっていた。

2020-01-13 18:29:23
帽子男 @alkali_acid

「まてまて竜涎香(りゅうぜんこう)。落ち着け。まだだ」 トラザメがでっぷりした指で黒い酌童の撫で肩を抑えて座らせる。 「すまんな。こいつは気が荒い。さて、お前ならどれを味見する珊瑚」

2020-01-13 18:33:06
帽子男 @alkali_acid

三人目の赤銅の肌をした酌童が、爪磨きを止めてよそものを一瞥する。 「痩せたのは好みじゃない」 「うはは。まったく嬉しがせてくれる。さてと客人。俺の賭場の決まりは知っているな。勝てばすべてを得て、負ければすべてを失う」

2020-01-13 18:34:42
帽子男 @alkali_acid

トラザメが身を乗り出すと、ドレアムはうんうんとうなずいた。 「しょうちでさ!」 「俺は魔法は使えんし、鬼や竜の軍勢も持っとらんが、勝った賭けの代は必ず取り立てる。本当にやるつもりはあるか?」 「しょうぶ!しょうぶ!」 「…影の国と南方の海賊はながらく持ちつもたれつだった。それが」

2020-01-13 18:36:23
帽子男 @alkali_acid

大海賊は立ち上がって小さな客を睥睨する。 「とうとうすべてを膝下に敷きに来たという訳か」 「しょうぶ!」 「いいだろう!俺が勝ったら、闇の王子。あんたが継ぐべきのあの魔法の国を丸ごと貰う!構わんな!」 「がってんでさ!」

2020-01-13 18:37:54
帽子男 @alkali_acid

肥満漢とちびた子供は向かい合った。 賽子を振るのは四人目の赤銅、鼈甲だ。はるか東方、安息の国の民の特徴がある。 「あんたが魔法を使えば、必ずうちの真珠が嗅ぎつける」 「つかわねえんで!」 「俺がいかさまをしたら…そいつは見抜けなかったあんたが悪い。そういうことだ」

2020-01-13 18:40:09
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