エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~8世代目・その4~

姉畑支遁のこと、俺はずっと覚えてるから。 ハッシュタグは「#えるどれ」。適宜トールキンネタトークにでもどうぞ
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帽子男 @alkali_acid

「お、その性格悪いとこは風の司にからんどるときのオズロウによう似とるの」 「オズロウのよくないとこだけ全部出たみたいな感じじゃな」

2020-01-13 22:35:21
帽子男 @alkali_acid

だがそれどころではなかった。 ドレアムは、家系の初代バンダの狂暴、二代ナシールの狡猾、三代ラヴェインの蠱惑、四代マーリの執念、五代オズロウの無謀、六代ダウバの貪欲、七代キージャの嫉妬、よくない部分をだいたい受け継いでいた。

2020-01-13 22:39:36
帽子男 @alkali_acid

しかもおまけもついている。 「シロキテの旦那さんの研究。手前の頭ん中にありまさ、魔法と学問と…世界を巡る考え。随分役に立つんでさ」 あの迷惑極まりない白の錬金術師の知恵も取り込んでいたのだった。

2020-01-13 22:41:41
帽子男 @alkali_acid

「おお!ならばシロキテの計画を受け継ぐわしらの助けになれそうじゃな」 「そいつぁよかったわい」 「もちろんでさ」 黒の賭け手は井戸へ戻りながら溌剌と応じる。 「手前が受け継ぐつもりでさ。あのおひとの計画を」

2020-01-13 22:44:03
帽子男 @alkali_acid

虚言と甘言の主、奴隷の王、闇の総大将、影の国の最後の太守となるべき嗣子は、正式に黒の乗り手となる前からすくすくとみずからの邪悪さを育てつつあった。一切何の躊躇もなく。

2020-01-13 22:46:35
帽子男 @alkali_acid

井戸に戻って密猟者に縞馬の脅威が去ったことを告げると、初めは信じなかったが、やがていつまでも隠れ潜んでいるわけにも行かないということで、斥候役が上がって来た。槍を投げた狩人だ。 「…縞馬はどこへいった」 「もう戻って来ねえんでさ」 「本当か?あれはもう狩人を何百と踏み殺した怪物だ」

2020-01-13 22:48:42
帽子男 @alkali_acid

「来ねえんでさ」 「そうか…さてお前は影の国の闇の王子だな」 「さっきの仁義の通りのもんでさ」 「ならば盲目のオズロウ…ではなさそうだな。目が見える。六本指…六本指の」 「ドレアムでさ」 「六本指のドレアムか。この井戸を掘った男が影の国のものについて言っていたな」

2020-01-13 22:50:59
帽子男 @alkali_acid

「どんなんで」 「いつか尖った耳に膚の色の薄い男がやってくるかもしれないと。そうしたらあいつの籠る岩山への道筋を教えてやれとな」 「ありがてえんで」 「井戸掘りには恩義がある。岩山への道は案内しよう。ついてこい」 密猟者は再び井戸に降りる。どうやら下から行くらしい。

2020-01-13 22:52:33
帽子男 @alkali_acid

外の平原は乾燥していたが、中の洞窟は湿潤だった。 ぴちょんぴちょんと天井から水が滴る隧道を、少年は松明を掲げた狩人についてゆく。 「この岩穴はずっと岩山まで続いている。水はあるが食べものはない。途中で地上に出られる場所もない。あそこの頭のおかしい連中もこっちには来ない」

2020-01-13 22:54:44
帽子男 @alkali_acid

「岩山にひとがいるんで?」 「いる。井戸掘りを慕ってほうぼうから集まった部族もはっきりしない連中がな。ずっと南の高い山に降る雪のように、膚の白いものさえいる」 「随分遠くから集まったもんでさ」 「奴等は例の将棋とかいうものに血道を上げている。野垂れ死ぬかと思ったが、そうでもない」

2020-01-13 22:57:10
帽子男 @alkali_acid

「へえ」 「井戸掘りの男が遠い地からもたらした芋だとか豆だとかを育てているからな。俺達はああいう食べ物はもっぱら交易で得るが、あいつらはあの岩だらけの土地であれこれやっている。将棋とやらのためだけにな」

2020-01-13 22:58:37
帽子男 @alkali_acid

「随分詳しいんで」 「うちの集落からも一人、あの井戸掘りの男についていったやつがいる。俺の従姉でな。腕の良い狩人だったが、将棋とやらに魅入られてもう帰らん…たまに肉を届けてやるが、ろくろく感謝もしない。誰かの妻にでもなったかと思ったが、そうでもない。訳の解らん奴等だ」

2020-01-13 23:01:58
帽子男 @alkali_acid

「面白ぇ」 「うちもあちこちの部族にいられなくなったはみだしものが作った集落だ。よその縄張りで一等良い獲物を掠めて暮らしている。掟もゆるいが、しかし将棋とやらに群がる奴等はもっとおかしい」 「楽しみでさ」

2020-01-13 23:03:47
帽子男 @alkali_acid

松明は壁に描かれた絵を幾つも映し出す。 「こいつはなんでさ」 「俺達より前に住んでいた連中の残したものだろうさ。意味など知るか」 「面白えのに」 「そんなものあちこちにある。調べるのに夢中になる呪い師もいるが、俺達は違う」

2020-01-13 23:07:55
帽子男 @alkali_acid

「何だか古い魔法が込められてるみてえでさ」 「だったらうかつにさわるな。魔法はたいてい良いことより悪いことを多く引き起こすぞ」 「解らないままでも危ねえんでさ」 「知ろうとして罠にはまった獣みたいになったらどうする。力の及ばないものにちょっかいをかけるのは愚かものだ」

2020-01-13 23:10:21
帽子男 @alkali_acid

狩人と少年のやりとりを、あとから意味を理解した青の魔法使い達は馬鹿にしたように鼻を鳴らす。 「好奇心の足りぬ奴じゃわい」 「そんなんだから縞馬なんぞに追い込まれるんじゃ」 「わしのように呪文を使いこなせればちょちょいのちょうじゃろうに」 「わしの術なら、じゃろ」

2020-01-13 23:13:19
帽子男 @alkali_acid

狩人は途中で止まった。 「松明は、予備も含めてここから折り返すのにぎりぎりだ。俺は引き返す。あそこは好かん。従姉にあったら、さっさと将棋なんぞやめて村に戻れと伝えておけ。お前のための竈は空けてあるとな」 「竈はどこに空けてあるんでさ」 「……俺の死んだ父の家にだ」

2020-01-13 23:15:35
帽子男 @alkali_acid

「合点でさ」 「手探りでたどっていけ。ここからは横穴もなくて迷わん」 狩人が退散すると、松明の赤い光が見えなくなったところで、アメノハテとチノハテがそれぞれ巻貝の杖を抜いて青い灯を点す。 「空気が悪いのう」 「あの松明もかなり弱っとたわい」 「あまり長居できんぞ」 「善は急げじゃ」

2020-01-13 23:17:51
帽子男 @alkali_acid

隧道のどん詰まりまで達すると、階段があらわれる。誰かが刻んだらしいが、幅や高さがとても狭く低い。 「ここに住んどって…絵を描いた連中は、今の人間より随分小さい種族だったんじゃな」 「魔法で縮んだのかもしれん」 「逆に今の人間が魔法で大きくなったかもしれんぞ」

2020-01-13 23:20:32
帽子男 @alkali_acid

小ぶりな階段はしかしどこまでもどこまでもうねりながら続いた。 湿気は徐々に下がるが気温はそれほど上がらない。 「あとどれだけあるんじゃあ…」 「疲れてきたわい」 ドレアムの肩に乗っているくせにアメノハテとチノハテがなぜか文句を言う。

2020-01-13 23:23:11
帽子男 @alkali_acid

とうとう外へ出た。 意外や涼しい風が吹いている。といっても産まれ故郷の世界の北西に比べればやはりかなり暑いのだが、水の魔法の防護がなければひからびて死んでしまうような、平原の焦熱ではない。 「…ここにガティがおるんか」 「あやつが好みそうな辺鄙な土地じゃわい」

2020-01-13 23:25:02
帽子男 @alkali_acid

ごつごつとした岩山の一角に庭園があり、珈琲の木が生えていた。 芋や豆の畑らしきものもあり、雉に似た家禽のいる囲いもある。

2020-01-13 23:27:35
帽子男 @alkali_acid

「珈琲の木。ガティのいる印じゃ」 「あやつの珈琲を飲むのはひさしぶりじゃわい」 老爺等は早くも元気を取り戻してきゃっきゃしている。 少年は妖精靴で岩肌を踏みながら、畑と畜舎を兼ねた庭園の方へ近づこうとする。

2020-01-13 23:31:14
帽子男 @alkali_acid

ふと視線を上げると、切り立った崖に幾つもの真四角の窓が開き、そこで漆黒の肌をした男女が岩の盤に岩の駒を配して将棋を指していた。 さらに高くを仰ぐと、どうやら崖そのものが大きな長細い箱のようになっていた。

2020-01-13 23:33:22
帽子男 @alkali_acid

「四角錐の墳墓は葦の大河沿いに幾つも見たが、こりゃなんじゃ」 「四角柱の石窟とでも言ったところか」 「あんな大きさのものをどうやって削り出したんじゃ」 「魔法じゃろ」 「魔法じゃなあ」

2020-01-13 23:34:52
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