エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~8世代目・その6~

世代が解る。 ハッシュタグは「#えるどれ」。適宜トールキンネタトークにでもどうぞ
7
前へ 1 ・・ 6 7 次へ
帽子男 @alkali_acid

一匹のラッコが、おもむろに毛皮の襞から貝殻と石榑を取り出し、腹の上に載せると、打ち鳴らし始めた。 「カッカッカッカッカッカッ」 ぎくりとして青衣の翁等はそちらを見やる。

2020-01-22 22:35:25
帽子男 @alkali_acid

さらにもう一匹が同じように音をさせる。 「カッカッカッカ」 もう一匹、さらにもう一匹と。 「カッカッカッカ」 「カッカッカッカカッカッ」 「カッカッカカッカッカッカカッカッカッカ」 「カッカッカ」

2020-01-22 22:36:23
帽子男 @alkali_acid

すべての昆布の森に住まうほぼすべての民の貝殻叩きがやがて万雷の轟きにも似て海上に響き渡る。 アメノハテとチノハテは畏怖のあまり手をとりあってひしとしがみつきあった。ドレアムはひとり莞爾としている。

2020-01-22 22:37:47
帽子男 @alkali_acid

やがて鳴りやまぬ騒鳴を制して、氷水晶と羅門貝の澄んだ音色が徹(とお)る。ようやくとあたりには静けさが戻ってきた。 黄金の毛皮を持つ乙女が厳かに告げる。 「今の勝負…いずれもまったくの過ちなし。故に引き分けとする」 「待った!」

2020-01-22 22:39:47
帽子男 @alkali_acid

死闘を終えた赤髪の青年が、金のそばかすを散らせた白い肌を汗に濡らしつつ声を上げる。 「…そりゃあよ。違うってよお。確かに氷上踊りっこ対決は、足運びや手ぶりの正しさを競うけどよお。そんだけじゃなえよな?え?踊りの勇ましさ、麗しさも大事だってよお?だとすりゃ優劣はおのずと明らか!」

2020-01-22 22:42:01
帽子男 @alkali_acid

あたりはしんとしわぶきひとつない。密に茂った海藻の木立が、隠微な魔法でもって外洋の荒波も抑えている。 ラッコの化身は言葉をきって、隣の流氷で悠然と立つ宿敵、アザラシの化身をにらむ。 「すかした顔しやがってよお!アザラシ野郎!お前の勝ちだろうがよお!」

2020-01-22 22:44:08
帽子男 @alkali_acid

ナガレルヒの悔しげな降伏に、イテルナミはむっつりと応じる。 「白銀后を侮辱した言葉を取り消すな?」 「取り消すしかねえだろうがよお!」 「…そうか」 海妖精の青年は微笑んだ。優しく穏やかな、どこか無防備と言ってさえ良い笑みだった。

2020-01-22 22:45:46
帽子男 @alkali_acid

娘と紛う極妖精の青年は、雪の如き膚にほのかに朱に染めて後退る。 「気持ち悪ぃんだよお前はよお」 「僕がどうだろうと大切なのは白銀后の歌の完璧さだ」

2020-01-22 22:47:18
帽子男 @alkali_acid

極夜の戦士は舌打ちして裘を受け取ると、獣の姿に戻って水に飛び込む。 「こうなりゃしょうがねえ!ここは俺達の縄張りにはできねえ。昆布の森はこっからどっか移すっきゃねえ」 「誰がそんなことをしろと言った」

2020-01-22 22:49:12
帽子男 @alkali_acid

海底の街きっての天才もまた毛皮をまとい、鰭のある形に還って海に入る。 「貴様等の海藻の森は、この海を静かに穏やかにしてくれる。おかしな巡礼船とかいうのを氷の墓標に近づけすぎない役にも立つ。それに白銀后は、きっと西の島の緑が蘇ったような景色を愛でるだろう。僕はそう信じる」

2020-01-22 22:52:35
帽子男 @alkali_acid

ラッコは一瞬髭をぴんとうれしそうに立てるがすぐ首を振る。 「だからさあ。そりゃよさそうに聞こえてもな?だめだから。もうすぐ海魔がさ?押し寄せてくんだから。極夜の戦士が迎え撃ったら、白銀后ってのが眠る墓標まで巻き込まれんでしょが。え?海魔の力は桁外れだから。無事じゃすまねえから」

2020-01-22 22:54:59
帽子男 @alkali_acid

「海魔か。どうでもいい。本当にここまで来て、白銀后の墓標にはふさわしくなければ、僕が倒すまでだ」 アザラシはあっさりと応じる。

2020-01-22 22:56:55
帽子男 @alkali_acid

「倒すって…お前何?西の妖精を率いる立場かなんか?」 「いや」 「じゃ一人か?だよな?気持ち悪いからそうだろうけどな?一人で海魔を何とかできる訳ないでしょが?え?」

2020-01-22 22:59:15
帽子男 @alkali_acid

海妖精の青年はぐるっとまた回転してから、帆立の浮桟橋の方へ泳いでゆく。 「一人でも不心得ものを滅ぼすのに足りぬことはないが、手伝いもいる。おい、オズロウの縁者。聞こえていたんだろう。耳だけは妖精よりいいからな」 「手伝いまさあ。同じ…白銀后親衛隊として」 「当然だ」

2020-01-22 23:01:02
帽子男 @alkali_acid

イテルナミは貝殻の上によじのぼると、鰭をぱたつかせながら述べる。 「親衛隊員が二人もいれば、白銀后の墓所を守るには十分だ」

2020-01-22 23:02:28
帽子男 @alkali_acid

「わしらもおるわい」 「いい加減挨拶せんかい!」 青の魔法使い二人がしびれを切らして喚く。 「わしらは海原の精霊じゃぞ」 「光の諸王の使節じゃぞ」 「海の魔物から西方を守れるんじゃぞ!」 「そうじゃ!頼って縋らんかい!」

2020-01-22 23:05:27
帽子男 @alkali_acid

アザラシはびたんびたんと腹を打ちながら怪訝そうに老爺達を見上げる。 「以前は白銀后に理解がなさそうだったが?」 「かー!ぺっ!」 「久しぶりにやる気になっとる時に感じ悪いんじゃお前は」

2020-01-22 23:07:06
帽子男 @alkali_acid

イテルナミはまたざぶんと海に飛び込む。 「ガティは身罷った。あの船にいたものも随分減った。だがまだ…」 半狂乱のラッコの群が乱入してくる。斥候のため昆布の森の外へ出ていた少数だ。 「怪物が来る!」 「恐ろしい怪物が!」

2020-01-22 23:09:43
帽子男 @alkali_acid

極妖精は極夜党も白夜党も色めきたつ。 ナガレルヒが激しく石で貝殻を叩く。 「海魔か!女帝そのものか?その子等か?」 「違う!あれは別の…」

2020-01-22 23:11:06
帽子男 @alkali_acid

「どいてくれぬか。踏んづけそうだ」 辺りが暗くなり、頭上から声が響く。いつの間にか雲を頂いた山のような影が近づいていた。波を踏みしめて歩くとほうもなく大きな男。 「バゴ。貴様は無事だったな」 漁りの巨人。海上を二本足で渉猟し、思うがままに網を打つもの。

2020-01-22 23:13:45
帽子男 @alkali_acid

「イテルナミか。周りにいるのはお主の子供か?」 「違うぞ。そちらはもしや、今日こそ白銀后親衛隊、巨人国支部設立を承諾する気になったか」 「なっておらん」 巨人は背負った網の中でもがく透き通った翼と煌めく臓腑を持つ漁果を振り返る。 「これを捌くが、食ってみるか?」

2020-01-22 23:15:59
帽子男 @alkali_acid

「ああん?何?巨人?アザラシ野郎の知り合い?しかも海魔の子を…漁ったての?西のもんはほんと訳解んねえな」 ナガレルヒが同族を森の奥へと退避させながら、呆れ顔で告げる。 「こやつの親も目にしたぞ。拙者は初めて漁るのを諦めて逃げ出したわ。あれは先祖の骨の教える海魔プネウに違いない」

2020-01-22 23:18:42
帽子男 @alkali_acid

「ふん。漁りの巨人バゴともあろうものが」 「拙者も年とった。妹のモダが悲しむと思うとつい腰が引ける」 「それで?北の果ての海魔の女帝とやら。オズロウの船を曳いていた東の果ての竜神の男帝とどっちが厄介だ」 「甲乙つけがたいな」

2020-01-22 23:21:09
帽子男 @alkali_acid

バゴは波の上に腰を下ろすと、捕えた海魔を網から引っ張り出し、どう調理したものかと首を傾げる。 輝く翼持つ異形の、口吻から迸る白い光の筋があたりを薙ぎ払い、瞬時に凍てつかせようとするが、巨人はむずと頭部を掴んでねじり、上空に逸らす。

2020-01-22 23:24:56
帽子男 @alkali_acid

「がらんどうの従者アンググか、さもなければ影の国の黒の料り手なら上手にしたてられようが」 聞いていたドレアムは急に首を前後に揺すると、おっとりと話に加わる。 「オラでよければ料理してみるだ」 「影の国のものか。お主等は皆器用故任せよう」 「んだ。どうせ命さ奪うなら美味くすっだ」

2020-01-22 23:27:15
前へ 1 ・・ 6 7 次へ