エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~5世代目・後編10~

シリーズ全体の目次はこちら https://togetter.com/li/1479531 ハッシュタグは「#えるどれ」。適宜トールキンネタトークにでもどうぞ。
8

シリーズ全体の目次はこちら

まとめ 【目次】エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話(#えるどれ) 人間とエルフって寿命が違うじゃん。 だから女エルフの奴隷を代々受け継いでいる家系があるといいよね。 という大長編ヨタ話の目次です。 Wikiを作ってもらいました! https://wikiwiki.jp/elf-dr/ 21935 pv 167 2 users

前回の話

まとめ エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~5世代目・後編9~ シリーズ全体の目次はこちら https://togetter.com/li/1479531 ハッシュタグは「#えるどれ」。適宜トールキンネタトークにでもどうぞ。 18744 pv 6 1 user

以下本編

帽子男 @alkali_acid

影の国の大船渠、船の母から新たな子が生まれた。 小人の船大工とがらんどうの僕、ついでに猿や小鬼も力を合わせ、帆船エシファエンは完成し、内海に進水したあと、艤装を終えた。船尾には黒玉、東の灯が取り付けられた。 黒の乗り手と幼馴染、鉄船建てとの挨拶はあっさりしていた。

2019-11-20 20:40:15
帽子男 @alkali_acid

「お前が俺を置いてくのはこれで何度目だ」 「覚えとらん」 「勝手なやつだ」 「あんさんも黒小人の国の棟梁や。連れてけんわ」 「そんなんじゃねえよ。あそこは親方や職人の評定で政をやるからな」 「ほんでも棟梁や」 「…妖精の殿様には会ってくのか?」 「会わんと思うで」

2019-11-20 20:42:48
帽子男 @alkali_acid

「そうか。お前のそばにはあの殿様がいた方がいいと思うけどな。アンググも目覚めねえし」 「アキハヤテはんの側にはワテはおらん方がええ」 「ま、仙女さんがいるしな。いってこい」 「ほないってきま」

2019-11-20 20:44:46
帽子男 @alkali_acid

なお帆船エシファエンの積み荷は結構多い。まずなぜか丸太が五本。あとは横笛ミルドガードと琵琶ナクハイアル、剛鎚メディオン。 船体は、影の国の貴重な緑だった弔いの森に生えた木でできていて、かなりでかい。ちなみに根こそぎ使ったのでもう森はない。 乗員は二人だけだ。オズロウとダリューテ。

2019-11-20 20:50:23
帽子男 @alkali_acid

雨から飲み水を作れるドワーフの大甕があるほか、長旅に耐えるだけの糧食だの何だのも積み込んであるので、どんな港に寄らずともまっすぐ西の果てを目指せるが、しかし盲目の船長は運河を下った後はまず南の大湊へ向かった。

2019-11-20 20:53:02
帽子男 @alkali_acid

「ちょこっとだけ寄り道させてや」 「…アルトゥーセを探しているのか」 主人の釈明に奴隷はすぐ図星を突く。 「探してるっちゅうほどでもないけど。どないしとんのかて思て」 「南の大湊は今や交易の要。ありとあらゆる知らせが集まる。鉄船の噂も入ってくるかもしれぬ…望みは捨てるな」

2019-11-20 20:55:46
帽子男 @alkali_acid

「この前、船作りの港へ行く途中で寄ったときは空振りやったけど。ま、何とかなるやろ」 「お前としろがねの凱歌号の仲間には不思議な絆がある。きっと会える」 「おおきに仙女はん」 今のオズロウは紳士。常にダリューテに恭しく接し、食事はもちろん茶菓の用意も欠かさない。雑事などさせない。

2019-11-20 20:59:26
帽子男 @alkali_acid

洗濯も按摩も何でもやる。 晴れた日には甲板に小さな雲を呼び出して、沐浴の世話もする。 妃騎士も黒の乗り手の側仕えを当然として受け取る。 「猫どもはどうしているか」 「迷路で鼠はんとっとるんちゃう?」 「狼どもは」 「野原で兎はんとっとるんちゃう?」

2019-11-20 21:02:51
帽子男 @alkali_acid

「狼はそうであろうが、猫はどうかな。マーリの建てた植物館に潜り込み、、羽の鮮やかで歌のうまい小鳥をとっているかもしれぬ。あるいは水族館に潜り込み鱗の鮮やかで泳ぎの見事な小魚をとっているかもしれぬ」 「ほわー」

2019-11-20 21:04:17
帽子男 @alkali_acid

「何ものも猫の悪事は止められぬ…私の知る限り、西の果てにああした性のよくない生きものはおらぬ…残念なことだ」 「西の果てはどんなところ」 「争いも憎しみもなく、喜びと幸せのみがある」 「ほんで猫がおらん」 「いない。狼も。かわりに東にはない、美しい鳥があまたいる…あまたな」

2019-11-20 21:07:14
帽子男 @alkali_acid

そうこうしているうちに南の大湊が近づいてくる。 エシファエンはどんな船より早い。帆は風を孕むが、本当に船を動かしているのは、船尾についた黒玉かもしれない。

2019-11-20 21:09:50
帽子男 @alkali_acid

南寇の本拠、大湊もいっときは突然北方に拓いた運河に大混乱を起こしたが、今では新たな航路の恩恵にあずかり、殷賑を極めた都となっている。 かつて西の島から来た民が築いた古い建物の多くは取り壊され、新たに葦の大河の国や安息の国の影響をうかがわせる豪壮な商館が並ぶようになった。

2019-11-20 21:13:21
帽子男 @alkali_acid

行き交う人々の肌や髪や瞳の色、いでたち、話す言葉、ただよわせる匂いもいっそう雑然としている。赤銅の肌をした近南の民はもちろん、漆黒の肌をした遠南の民、浅黒の肌をした近東の民、茶褐の肌をした遠東の民、さらに黄の肌をした東の果ての民まで見かける。

2019-11-20 21:16:08
帽子男 @alkali_acid

「なんやわれ」 「おう。どかんかい」 オズロウやディヴァと同じあちこちの言葉がごちゃまぜになった喋りが幅を利かせつつあった。 それでもまあ素裸の幼児の群が駆け回り、赤子を背負った老翁や、洗濯ものを抱えた老婆、網や荷を携え忙しげな働き盛りの男女など、当たり前の暮らしの景色もある。

2019-11-20 21:18:15
帽子男 @alkali_acid

黒の乗り手は目立たぬように降りて、あれこれ噂に耳を傾けた。 「砂漠を越えた森と河のある遠南の四つの王国で、ばたばた人が死んでるってさ」 「恐ろしいこった。どうしてこう流行病が増えたかね」 「さあな魚の神々がお怒りなのか。ほかの神を崇める連中が来たからな」 「出ていってほしいもんだ」

2019-11-20 21:20:40
帽子男 @alkali_acid

不穏な話として、さまざまな疫(えやみ)がよく人の口の端にのぼった。 オズロウは近づいてはそれとなく水を向けて詳しく聞き出していった。 「人の疫を随分気にかけているな。アルトゥーセを探しに来たのではないか」 森の奥方が問うと、盲目の船長は微笑む。 「黒の渡り手の齎した災いやもん」

2019-11-20 21:26:34
帽子男 @alkali_acid

「しろがねの凱歌号は疫の広がりを防ぐために入念に工夫をしていた」 「波けり丸や精霊の船団もそうやな。せやけど航路が開けば、西と東の交易の妙味がそこらじゅうに伝われば、ほかの船かて前よりよう行き来する。つれて陸の路も盛んになる」

2019-11-20 21:28:41
帽子男 @alkali_acid

「ナシールの知恵か」 「せや。おとーはんが心配しとったこと、今ならよう解るわ」 「だが人のなす業、すべてにお前が責を負う謂れはない」 「責の話やない。行いは取り消せん。ワテがどない考えようと、世界をこないにしたんはワテや」 「…オズロウ…」 「お、奴隷王国の魚料理の匂いや!うまそ!」

2019-11-20 21:31:58
帽子男 @alkali_acid

黒の乗り手と妃騎士は何かを待つようになお数日を大湊で過ごし、新しく入江の西腕にできた珈琲亭にも寄った。遠南の漆黒の肌をした壮年の女が、独自の工夫をした薄口の飲みやすい珈琲を淹れていた。かなりの繁盛ぶりだ。 絵が一枚かかっていた。

2019-11-20 21:35:24
帽子男 @alkali_acid

店の中央の壁に。 「どないな画?ワテ、谺聞いても、詳しいとこまで解らんわ」 「…船だ。舳先の前に海豹(あざらし)が跳んでいる」 「ほかには?」 「甲板に不格好な大釜がいるな」 「ほわー…」 「空には竜」 「ごちゃごちゃや」 「そうだな。しかし達筆だ」

2019-11-20 21:37:39
1 ・・ 12 次へ