小池陽慈さんによる「高校生や浪人生のためのテクスト論入門」

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小池陽慈『"深読み"の技法』 @koike_youji

あるいは戦国時代マニアなら、〈k-a-n-i〉という音を耳にしたら、〈可児才蔵(かにさいぞう)〉の〈可児〉を想起するかもしれません。この時その人は、〈k-a-n-i〉というシニフィアンを〈戦国時代〉というコードから解釈していることになりますね?

2018-09-30 14:06:33
小池陽慈『"深読み"の技法』 @koike_youji

また、同じ日本語話者であっても、〈k-a-n-i〉という音を耳にしたのが幼児であったなら、そこに〈蟹〉を解釈しない可能性がある。だってその子にとって、〈蟹〉に結びつくシニフィアンは、〈c-h-o-k-i c-h-o-k-i〉かもしれないのだから。つまりその子は、〈k-a-n-i=蟹〉というコードを持っていない。

2018-09-30 14:11:56
小池陽慈『"深読み"の技法』 @koike_youji

端的に言えば、とある一つのシニフィアンの解釈において参照されるコードには、〈それ〉でなくてはならない必然性などない(=恣意的)のです。これは逆に言えば、【そこで参照するコードをずらし続けていけば、一つのシニフィアンからも、多様な意味が産出されていく】ということですね(←ココ重要!)。

2018-09-30 19:21:04
小池陽慈『"深読み"の技法』 @koike_youji

ここで一つ、面白い事例を。 皆さんは、たとえば街角ですれちがいざまに誰かに舌打ちされたら、どう思いますか? そりゃ、「あ?」てなるでしょう。だって僕らの社会の文化では、〈舌打ち〉というシニフィアンは、〈相手への敵意〉というシニフィエと結びつくわけですから。

2018-09-30 19:21:05
小池陽慈『"深読み"の技法』 @koike_youji

ところがです。以前テレビで海外からの留学生が話していたのですが、彼の出身の社会では、すれちがいざまの舌打ちは、ナンパの合図だというのです! つまりその社会の文化(仮にZ文化としましょう)では、〈舌打ち〉というシニフィアンは、〈相手への好意〉というシニフィエと結びつくってことですね…!

2018-09-30 19:21:06
小池陽慈『"深読み"の技法』 @koike_youji

そうです。同じ〈舌打ち〉というシニフィアンも、 コード=僕らの社会の文化 シニフィエ=相手への敵意 ↕️ コード=Z文化 シニフィエ=相手への好意 となる。

2018-09-30 19:31:53
小池陽慈『"深読み"の技法』 @koike_youji

繰り返します。【そこで参照するコードをずらし続けていけば、一つのシニフィアンからも、多様な意味が産出されていく】ということ。ここ、後々テクスト論について理解する上で、めちゃくちゃ大切な要になります。ので、よく覚えておいてください。

2018-09-30 19:31:54
小池陽慈『"深読み"の技法』 @koike_youji

さて、次に、ひとまず次のツイートの図式、および解説を見てください。ヤコブソンという人が考えたコミュニケーションのモデルを、僕がちょろっと簡略化したものです。

2018-09-30 23:00:20
小池陽慈『"深読み"の技法』 @koike_youji

コンテクスト 発信者→→メッセージ→→受信者 コード ここでは、【発信者が発したメッセージ(=記号の連なり=テクスト)を、受信者は、コードを参照して解釈する】程度の意味で捉えておきましょう。

2018-09-30 23:00:20
小池陽慈『"深読み"の技法』 @koike_youji

ここで気になるのが、【コンテクスト】という概念。これは、「テクストを含む、より広い文脈」などと理解しておけばよいでしょう。 簡単に言えば、僕たちは何らかのメッセージを解釈するとき、それが発されたり受け取られた際の「文脈」も参照する、ということです。

2018-09-30 23:00:21
小池陽慈『"深読み"の技法』 @koike_youji

例を挙げるなら、〈b-a-k-a〉というシニフィアンは、日本語のコードを参照すると、〈相手を見下す思い〉というシニフィエと結びつきます。そして、それが例えば〈皆がイラついている満員電車〉というコンテクストで発されたなら、それはストレートに上記のシニフィエを伝えるテクストとなりますね?

2018-09-30 23:09:11
小池陽慈『"深読み"の技法』 @koike_youji

ところが同じ〈b-a-k-a = 相手を見下す思い〉という記号も、〈カップルが待ち合わせをしており、ちょっと遅れてやってきた彼氏が彼女の背後から目隠ししながら「だ〜れだ♡」てやって、彼女が振り向く〉というコンテクストで彼女の口から発されれば、それは「プンプン!…でも、好きっ」て意味になる。

2018-09-30 23:15:39
小池陽慈『"深読み"の技法』 @koike_youji

そう。先程、【コードをずらし続けていけば、一つのシニフィアンからも多様な意味が解釈される】と述べましたが、ここに【コンテクスト】という概念を導入するなら、一つのシニフィアンは、さらに多様な意味を生産することになるはずです。だってそれが発されるコンテクストは、無数にあるのですから!

2018-09-30 23:21:03
小池陽慈『"深読み"の技法』 @koike_youji

さらに、「記号」の産出する意味の豊穣生について、もう一つ、言及したいことがあります。それは、【デノテーション/コノテーション】という概念です。

2018-10-01 09:57:43
小池陽慈『"深読み"の技法』 @koike_youji

まずは【デノテーション】。これは何らかのシニフィアンが何らかのシニフィエと結合して形成する、第一段階の記号を意味します。例えば、いまだシニフィエを獲得していない〈k-a-n-i〉という音が初めてシニフィエを持ち、〈k-a-n-i = 蟹〉という記号が成立した時、それが、【デノテーション】。

2018-10-01 09:57:44
小池陽慈『"深読み"の技法』 @koike_youji

でも、例えば夏休みに蟹を捕まえて遊んだ記憶とかがあれば、〈k-a-n-i = 蟹〉という記号は、それ全体がシニフィアンとなって、〈楽しかった夏休み〉などというシニフィエと結びつくはず。このように、【デノテーション】にさらなるシニフィエが生成された時、それを【コノテーション】と呼びます。

2018-10-01 09:57:45
小池陽慈『"深読み"の技法』 @koike_youji

この【コノテーション】の生成は、ある種の「連想ゲーム」のようなもので、例えば、 〈k-a-n-i = 蟹〉 →楽しかった夏休み →子どもの時間の豊かさ →辛い今を生きるための心の拠り所 などと、どんどん横すべりに展開していくことが可能です。そう。どんどん。理屈としては、無限に。

2018-10-01 12:26:15
小池陽慈『"深読み"の技法』 @koike_youji

そうです。この、【コノテーション】の生成という観点からも、「記号」が産出する意味が決して一義的なものにはなり得ないこと、いやそれどころか、理屈でいうなら、【一つのシニフィアンからは無限のシニフィエが生産され続けていく】ということがわかりますね!

2018-10-01 12:26:16
小池陽慈『"深読み"の技法』 @koike_youji

ここで思い出してください。僕はこのダラダラと長ったらしい(すみません💦)連ツイの最初の方で、 【テクスト=記号の連なり】 と、ひとまずの定義をしておきました。 それでは、ここまでの考察を前提とするなら、この定義からはいったいどのような結論が帰結されるのでしょうか?

2018-10-01 14:07:55
小池陽慈『"深読み"の技法』 @koike_youji

もちろん答えは、 【テクストとは、無限の意味を生産する現場のことである】 となるわけです。 コード、コンテクスト、コノテーション…様々な要因から、ただでさえ無限の意味を生産する「記号」が、大量に連なっているものが【テクスト】であるのですから…!

2018-10-01 14:07:56
小池陽慈『"深読み"の技法』 @koike_youji

ここまでの内容は、基本、ソシュールの論考をベースに、ヤコブソンやロラン・バルトの考えも参考にしつつ、ちょろっと僕なりの解釈も交えたものとなっています。 そしてここで初めて【ロラン・バルト】の名を挙げたわけですが、端的に言えば、彼こそが【テクスト論】の第一人者なのですよ…!

2018-10-01 15:49:27
小池陽慈『"深読み"の技法』 @koike_youji

(【テクスト論】の第一人者、などという言い回しはおよそ【テクスト論】的な表現ではないのですが、この連ツイを最後までお読みいただいたその際に、なぜそれが【テクスト論】的な表現ではないのかということがお分かりいただけると思います)

2018-10-01 15:49:28
小池陽慈『"深読み"の技法』 @koike_youji

現代思想における超重要人物であるロラン・バルト(以下、バルトと表記します)は、それまで一般に【作品】と呼ばれていたものを、【テクスト】という"比喩"を用いて表しました。 そうです。 実は【テクスト】とは、比喩表現なのです。

2018-10-01 17:51:02
小池陽慈『"深読み"の技法』 @koike_youji

英和辞典で〈text〉という単語を引いてみてください。その〈原義〉を確認してみると、そこには「織られたもの」と記載されているはずです。すなわち、 【テクスト】=【織り物】 問題は、なぜバルトが、一般に「作品」と呼ばれるものをわざわざ「織り物」に喩えたのか、ということですね。

2018-10-01 17:51:03
小池陽慈『"深読み"の技法』 @koike_youji

バルトは、我々が「作品」と呼ぶそれは、実は【引用の織り物】なのであると主張します。 引用の織り物。 すなわち、〈無数の「記号」を「引用」して織りなした、「織り物」〉であると…。

2018-10-01 20:09:17