どんな強い男も雌に変える最凶の魔法少女が誕生する話(#えるどれ)

今回はタイトル詐欺じゃない ハッシュタグは「#えるどれ
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帽子男 @alkali_acid

しかし頭で黒歌鳥が囀る。 「ウィスト!」 「むりだよ…にげなきゃ…」 「ウタッテヨ!イッショニ!」 「だめ…またあんなことになったら…」 「アッソ!」 翼ある連れは舞い上がり、一番大きな山車の周りを飛び交う。

2020-04-04 16:54:42
帽子男 @alkali_acid

「アタイノウタヲキケ!!」 「ひょっひょっひょっひょ…ボキの楽器を奪った、群青竜にお礼参りに来たら、もっと重要な収容対象見っけなんだなあ!収容開始!!」

2020-04-04 16:56:32
帽子男 @alkali_acid

黒き禽(とり)が羽ばたきながら歌い始める。 はじめ声はかぼそいが、大気を揺さぶり、大地をおののかせ、無数のからくりに組み込まれた怪異の生気を取り戻させる。 「くうう!!いいんだなあ!!報告通りなんだなあ!!…超常現象…でも媒介は…歌!!この邪神作曲家オイメトには」

2020-04-04 16:59:46
帽子男 @alkali_acid

「貫くべき音楽のかたちがあるんだな!例え黒の乗り手の歌にだって…負けないんだなあ!!」 オイメトが鍵盤を叩き始めると、四肢を欠いた銀髪の娘が悲鳴とともに謳い出し、逆位相の波が生じて黒歌鳥の喉から響く不思議の調べを打ち消そうとする。

2020-04-04 17:01:40
帽子男 @alkali_acid

一瞬、ホウキボシは突風にあおられたように宙でつり合いを失い、しかしまた持ち直してさらに吟唱の勢いを増す。ウィストは拳を握ると、向きを変えて相棒の真下へ駆けた。 「ホウキボシ!!一緒に歌う!」 たちまち黒き翼が畳まれ、まっすぐ急降下する。 少年の唇と小鳥のくちばしが触れ合う。

2020-04-04 17:03:29
帽子男 @alkali_acid

いや。 触れ合う寸前で山車の横腹から伸びた喇叭が轟きと煙を発し、暗い膚に尖り耳の男児を吹き飛ばした。

2020-04-04 17:04:35
帽子男 @alkali_acid

「ぐあっ」 ウィストは地面にはずんで転がる。音が聞こえない。耳が変だ。指で触ると血が出ている。ぎょっとしていると、全身におかしな振動が伝わる。二股に別れた尾を持つ金属の棒があちこちに突き刺さっているのに気づいた。 「ひぐぅあっ」

2020-04-04 17:06:31
帽子男 @alkali_acid

「おひおひひ!報告通り!黒の乗り手は、派生物…使い魔?とかいうのと接触しないと、戦闘形態になれないんだなあ!!」 「ウィスト!」 小鳥がまっしぐらに少年のもとへ飛ぼうとするのを、邪神作曲家は別の鍵盤を叩き、山車から無数の笛を跳び出させて音色と共に穴から針を打ち出す。

2020-04-04 17:08:30
帽子男 @alkali_acid

音が響くたびに、発育不良ぎみの矮躯がもがく。 「よく聞け遺物番号九千ノ三!ボキが遺物番号九千に打ち込んだ音叉杭は、ケログム博士に作ってもらったすごい発明なんだぞ!君達遺物が発する心理汚染作用のある音を歪曲、増幅し、要するに刺さった相手を悶絶させるんだな!」

2020-04-04 17:11:34
帽子男 @alkali_acid

邪神作曲家オイメトは興奮して鍵盤を次々に叩き、またそばにいる少女楽器や無数の異形楽器を苦吟させる。 「そらそらそら!歌いたかったら一緒に歌うんだな!遺物番号九千をもっと躍らせるといいよ!」 歌を封じられた小鳥はしかし、まったく迷わず飛び道具をかわしながら相棒のもとを目指す。

2020-04-04 17:14:34
帽子男 @alkali_acid

少年のもとへ舞い降りると、音叉を嘴で咥えて引き抜こうとする。 そこへまた山車の笛から針が飛ぶ。 幼い掌がぱっと上がって黒い翼をかばり、貫かれる。 「うぎ…」 「ウィスト!」 「にげて…ホウキボシ…」

2020-04-04 17:15:54
帽子男 @alkali_acid

「アタイ、タスケル!」 「カミツキ…探し…うあああ!!」 轟くような交響楽に、ウィストはまたもがき苦しむ。ホウキボシは、音叉を諦め、今度は相棒の唇を求めて跳ね回るが、また飛んでくる針をかわすため飛び立たざるを得ない。

2020-04-04 17:18:18
帽子男 @alkali_acid

「ウィスト!」 「うひょひ!遺物番号九千ノ一!君もボキの楽器になるんだなあ!!」 鋭い尖端を持った音叉が唸りを立てて次々と乱れ飛ぶのを、黒歌鳥は紙一重でかわすが、もう連れのもとへ接近できない。 「コイツウ!!」 「おひょひひ!!」

2020-04-04 17:20:08
帽子男 @alkali_acid

変な高笑いをする肥満漢の頭上に影が差した。 「ん?」 音楽を圧して咆哮が響き渡り、青い鱗を煌めかせて巨躯が舞い降りる。 「げえ!群青竜!わ、忘れてたんだなあ!全楽器包囲態勢!」 オイメトが慌てて鍵盤の弾き方を変えるが、多脚の山車はそこまで素早くは動けない。

2020-04-04 17:22:11
帽子男 @alkali_acid

水晶の山の王は、あたりを睥睨し、匂いを嗅ぐ。 「闇の匂い…こいつだ」 妖精語で呟くと、いきなり少年を鉤爪でとらえ、握り潰しかけてやや力を緩める。 「カラ。待ってて」 「ウィストカエセ!」 小鳥が、万倍も巨きな長虫が飛びつのを阻もうというように進路をふさぐ。

2020-04-04 17:30:14
帽子男 @alkali_acid

「どいつもいこつも逃がさないんだな!」 また音叉の針が雨あられと打ち出されるが、竜は尾の一振りですべて弾き落とし、ちっぽけな邪魔ものを鼻息で吹き飛ばして、烈風とともに舞い上がる。 「ウィスト!」 ホウキボシはくるくると回って地面に落ちながら啼く。

2020-04-04 17:32:29
帽子男 @alkali_acid

青鱗の霊長は矢の如く蒼穹の間に消える。 黒翼の歌い手は後を追って再び天に上がろうとするが、四方八方から悲鳴の呪歌が浴びせかかる。 「どいつもこいつもボキを馬鹿にしてえ!許さないんだな」 「ウィスト…」 ホウキボシは悲しげに鳴き、つぶらな瞳に昏い火を点した。

2020-04-04 17:36:25
帽子男 @alkali_acid

「…アタイ…キゲンワルイ」 「おひひひ!遺物本体と離れ離れになった派生物に何の力がある!」 邪神作曲家オイメトは勝ち誇る。 財団の最高戦力たる機動部隊、終端の騎士団の第三番にして、乙級職員であるこの大兵は、自らの力に加え組織が持つ緻密で迅速な情報網を生かし、遺物を圧倒してきた。

2020-04-04 17:39:25
帽子男 @alkali_acid

だが、終端の騎士に共通する特徴として過信の傾向があり、得られる情報というものは常に完全ではないという事実を軽視するきらいがあった。 遺物番号九千「黒の乗り手」と、派生物である「黒き獣」の関係には不明な点も多い。例えば遺物番号九千ノ一「猫」は、正体不明の能力によって

2020-04-04 17:41:45
帽子男 @alkali_acid

離れ離れになった本体の位置を探り当てたらしく、合流に向けた進路をとっていた。故に進路を推測して待ち伏せが可能だったが、収容のために送り込んだ財団の機動部隊は二つまでが壊滅寸前で撤退する羽目になり、とうとう終端の騎士三騎以上で包囲する羽目になった。

2020-04-04 17:45:24
帽子男 @alkali_acid

つまり本体と別れ別れになっているからといって、黒き獣が弱体化するという根拠はない。この報告はしかし、オイメトの耳にはまだ届いていなかった。 さらにもう一つ、財団が知りようのない事実があった。 黒歌鳥ホウキボシは、繊細な友達ウィストのために、できる限り力を抑えて歌っていたのだ。

2020-04-04 17:48:15
帽子男 @alkali_acid

だが今や大切な相棒を奪われた呪歌の匠は、みずからを律する理由をどこにも見出せなかった。 「アタイノウタヲキケ!!!!」 ちっぽけな禽の喉からあふれた音色は、伝説にある惑わしの海域に荒れ狂う嵐の如く、暗黒の精霊の艦隊が、異土より来った船団を鏖にしたあと、天の帳に響かせる凱歌の如く、

2020-04-04 17:51:45
帽子男 @alkali_acid

一里四方の一切を揺すぶり、ねじれさせ、たわませ、昂揚と歓喜のうちに永遠にやまぬ叫びの谺を残して破壊しつくした。 山車という山車は砕け散り、異形の群は次々と解き放たれると、それぞれ速やかに失った肢や触手や翼や鰭を再生させ、合唱し歌い競い、舞い踊った。

2020-04-04 17:54:45
帽子男 @alkali_acid

邪神作曲家オイメトは、耳と目と口と鼻から血を流しつつ、確かに聞いた。 幼き日より追い求めていた音楽のまったきかたち。 おのれの想像を超える、真に御し難き精霊のあらぶる息吹を。 「ああ…これが…暗黒神讃美歌…これが…ボキの…ずっと探していた」

2020-04-04 17:56:55
帽子男 @alkali_acid

恍惚とともに終端の騎士第三番は事切れた。 小鳥は喉が裂けんばかりに歌うと、ぽとりと地面に落ちた。ばらばらになった山車の間、四肢のない銀髪の少女のすぐそばに。

2020-04-04 17:58:59
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