剣と魔法の世界で奇祭「風雲あざらし祭り」が行われる話3(#えるどれ)

邪教の奇祭は加速していく。 ハッシュタグは「#えるどれ
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まとめ 【目次】エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話(#えるどれ) 人間とエルフって寿命が違うじゃん。 だから女エルフの奴隷を代々受け継いでいる家系があるといいよね。 という大長編ヨタ話の目次です。 Wikiを作ってもらいました! https://wikiwiki.jp/elf-dr/ 21980 pv 167 2 users

前回の話

以下本編

帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ この物語はエルフの女奴隷が騎士となり復讐を遂げるヒロイックファンタジー 略して #えるどれ 影の国にとらわれた壮絶な奴隷時代は以下のまとめをどうぞ。 togetter.com/li/1479531

2020-05-23 20:16:48
帽子男 @alkali_acid

さてエルフの騎士を奴隷に堕とした卑劣な犯人、影の国の太守、黒の乗り手はどうしているかというと、目下光と闇の大勝負に敗れて失った力を取り戻すため、九つの指輪を集める途上。

2020-05-23 20:18:24
帽子男 @alkali_acid

海辺の町で、指輪を守る黒き獣の一つ、黒海豹(あざらし)を見つけた黒の乗り手ウィストだったが、何とここでは今、太古の歌姫たる白銀后を崇める邪教「白銀后親衛隊」が奇祭「風雲あざらし祭り」を開いており、黒海豹は祭儀の供物として油を染み込ませ、中に火薬を詰めて爆発四散させる予定だという。

2020-05-23 20:20:54
帽子男 @alkali_acid

黒き獣の正体は、それぞれが過去の時代の黒の乗り手であり、指輪がある限り決して滅びぬ幽鬼ではある、が、いかにそうであっても洋上高く打ち上げられ、絢爛たる光と音の出しものとなって粉々に飛び散ってしまえば、やはりどうしようもないのではないか。

2020-05-23 20:23:29
帽子男 @alkali_acid

よく剣と魔法の物語にありがちな物理攻撃無効など笑止。 人類の叡智の結晶である火薬の前では、いかなる魑魅魍魎もひれ伏すのだ。 近代科学は世界一ィイイイイイ!!!!!

2020-05-23 20:25:11
帽子男 @alkali_acid

もはや黒海豹の命運は極まったかに思えたが、しかし当代の黒の乗り手たるウィストは諦めない。その意気込みを次のように引き連れた黒き獣に語る。 「むり…帰る…」 おっと今のなし。 だいたい黒の乗り手に帰る処などない。失われた領土、影の国への道を開かねば、三界に家なしである。

2020-05-23 20:27:37
帽子男 @alkali_acid

いつまでも人間の支配する世界、狭の大地をさすらっていれば、いずれ超常の存在を確保、収容、防護する秘密結社「財団」に捕まるか、復讐に燃える妖精の騎士ダリューテの刃にかかるだけ。 例えやりたくなくても強制参加である。

2020-05-23 20:29:32
帽子男 @alkali_acid

「アタイガヤル!ウィスト!チカラカシテ!」 おつきの黒い鳥もそうだそうだと言っています。 黒き獣という割に鳥がいるのはおかしいですね。 ちなみにこの黒い鳥はぽってりとした胴に愛くるしい目をした黒歌鳥のホウキボシ。歌がとっても得意なんです。

2020-05-23 20:30:59
帽子男 @alkali_acid

「え…まためちゃくちゃになる…」 ウィストは煮え切らない。まったくだらしないこわっぱだ。これまでの黒の乗り手は、いかなる危険も省みず、主君たる闇の女王のために戦ってきた、悪の手先ながらあっぱれなつわものばかりだったというのに、末代にあたる少年はどうにも臆病である。

2020-05-23 20:32:20
帽子男 @alkali_acid

「ヤロ!」 「ええ…」 幸いホウキボシは押しが強い。渋るウィストをせっついてどうにか黒海豹奪還の企てに引き込んだ。 作戦はこうだ。 まずウィストの持つ魔法の力を使って…言い忘れたが、黒の乗り手は恐るべき魔法使いでもある。先祖が卑劣な策略で妖精族から魔法を盗んだからだ。

2020-05-23 20:36:10
帽子男 @alkali_acid

とにかくウィストの魔法を使って、ホウキボシが人間の女に化け、風雲あざらし祭りに参加する。 祭りの第一日目には、白銀后親衛隊の崇拝する太古の歌姫、白銀后の侍女にふさわしい乙女を選ぶ催し「白銀侍女選抜」が行われるのだが、そこへ潜り込むのが狙いだ。

2020-05-23 20:38:24
帽子男 @alkali_acid

白銀侍女に選ばれた乙女は、祭りの間中さまざまな栄誉と特典を得られる。 例えば祭りの呼び物の一つ、悪しき黄金巨神を白銀后の使いあざらしがびんたで倒す宗教劇に登場し、重要な場面で独唱を行ったり、 赤銅后、黒鉄后といった白銀后の陪神に仮装したほかの乙女等とともに記念撮影に臨んだり、

2020-05-23 20:42:18
帽子男 @alkali_acid

黒の乗り手にとって最も重要なのは、あざらしの偶像を爆発四散させる権利を授かるところだ。 「灼熱紅蓮あざらし爆発四散大花火」と呼ばれる祭り屈指の出し物は、白銀后親衛隊の中でも過激な燃波(モエルナミ)派が、執り行うが、今回は白銀侍女に聖火を灯した松明を運んでもらい、

2020-05-23 20:45:34
帽子男 @alkali_acid

しめやかに導火線の端を燃やしてもらう趣向を採用した。 さて回りくどいようだが、黒海豹を爆発四散させるもさせないも、最後は白銀侍女となった乙女にかかっている。 つまり白銀侍女に選ばれさえすれば、すっきりと自分の手で引導を渡してやれるという訳だ。

2020-05-23 20:48:05
帽子男 @alkali_acid

「花火、きれいだろうなあ」 ホウキボシは今から楽しみでしょうがない風だ。 ”ほ、ホウキボシ。目的解ってるよね?” 黒き獣の一匹、黒犬アケノホシが耳を伏せ尻尾を巻きつつ、言葉なき言葉でつぶやく。

2020-05-23 20:50:43
帽子男 @alkali_acid

”海豹を失っては…影の国へ帰ることは…ヤミノカゼの意志に従うならばそうすべきやもしれぬが…いややはりあれを爆発四散さえるのは忍びぬ…” これまた黒き獣の一匹、黒蝙蝠チノホシが、犬の頭に居心地よさげにのっかったまま、同じく声なく意志のみを伝える術でつぶやく。

2020-05-23 20:53:10
帽子男 @alkali_acid

「冗談だってば。問題児でもいなくなったら仙女様が寂しがるかもしれないし…仙女様ってば、ああいう手のかかるやつほど可愛がるしね」 魔法によって、小鳥から暗い肌に尖り耳の乙女へと変わったホウキボシは、そばにいない誰かのことを愛おしげに語る。

2020-05-23 20:57:49
帽子男 @alkali_acid

”君も結構、手がかかったけどね” かたわらの黒犬がくすぐったそうに告げる。 「アケノホシは黙ってて」 乙女はつんと獣を突き放すように述べる。 ”ホウキボシ。どうかあれのことを頼む” 一方で黒蝙蝠は、いつになく情をあらわにしている。

2020-05-23 20:59:53
帽子男 @alkali_acid

「おちびのお願いは聞かないとね」 目くばせして乙女は出かけてゆく。祭りではあちこちで仮装用の衣装も売られている。できばえは必ずしもよくないが、大昔の吟遊詩人の衣装もそろえられた。 「うちの蜘蛛が見たら呆れそう」

2020-05-23 21:02:29
帽子男 @alkali_acid

ぴんと上着をひっぱってから、しかし一生懸命な縫製にうんとうなずいて袖を通す。 服の方は現地調達だが、楽器は自前のを使う。黄金の竪琴に白銀の排笛(パンパイプ)。しかしいずれも木でできたものより軽やかで、扱いやすい。影の国の工匠が作り上げた至高の逸品だ。

2020-05-23 21:05:03
帽子男 @alkali_acid

「ナクハイアルとミルドガードがいないのは寂しいけど、おちびの作ってくれたこの子等だって、あたいの仲間」 かくしておさげに結った髪に腰布(キルト)、旅靴に尖り帽。御伽噺から抜け出してきたような楽士のいでたちとなったホウキボシは、白銀侍女選抜の会場に乗り込んだ。

2020-05-23 21:07:44
帽子男 @alkali_acid

白銀侍女選抜は、祭りの前に世界各地の支部からそれぞれ「侍女・何々支部」というかたちで、候補が予選を勝ち抜き参加するのだが、折角祭りの場に集まった巡礼のためにも飛び入り枠が設けてある。 籤引きを当てた一人だけが対象。

2020-05-23 21:13:09
帽子男 @alkali_acid

純然たる幸運がものを言うはずだが、からくりに明るい黒蝙蝠がこっそり近づき、爪と牙だけで瞬時に籤引機をばらして中をいじり回し、ホウキボシがそばで歌うと当たりがでるよう魔法のいかさまを仕込んだのだ。 「ヤミノカゼの真似事など荷が重い」

2020-05-23 21:14:46
帽子男 @alkali_acid

とか言いつつ、チノホシはあっさりやってのけた。過去にいかさまが得意な別の黒の乗り手と組んで神々を向こうに回して狡賢く立ち回った経験が生きたのかもしれない。 どだい黒の乗り手というのは誰も彼も奸佞(かんねい)の性質(たち)である。廉直そうな蝙蝠とて例外ではない。

2020-05-23 21:17:49
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