剣と魔法の世界で奇祭「風雲あざらし祭り」が行われる話2(#えるどれ)

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まとめ 【目次】エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話(#えるどれ) 人間とエルフって寿命が違うじゃん。 だから女エルフの奴隷を代々受け継いでいる家系があるといいよね。 という大長編ヨタ話の目次です。 Wikiを作ってもらいました! https://wikiwiki.jp/elf-dr/ 21984 pv 167 2 users

前回の話

以下本編

帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ この物語は解放されたエルフの女奴隷が騎士となり復讐を果たすヒロイックファンタジー 略して #えるどれ 宿敵、黒の乗り手によって影の国に囚われた壮絶な奴隷時代のまとめはこちらから↓ togetter.com/li/1479531

2020-05-19 21:46:37
帽子男 @alkali_acid

黒の乗り手の方は当時から代替わりし、今は九代目。失われた領土、影の国へ帰還するため、九つの魔法の指輪を集める探索の途中だ。 指輪はどうやら黒き獣(一部鳥)と呼ばれる奇妙な動物がそれぞれ鎖につないで首から下げているようす。 これまで猫、犬、蝙蝠、小鳥を見つけ、旅の仲間に加えた。

2020-05-19 21:49:41
帽子男 @alkali_acid

五匹目の獣の手がかりを求め、訪れたのは海辺の町。 ここでは邪教「白銀后親衛隊」の巡礼が集まり、奇祭「風雲あざらし祭り」を開催中。 さっそく黒き獣とおぼしき、あざらし、みたいなものを見つけたが、何と白銀后親衛隊の一派、モエルナミ派が祭儀の犠牲として爆発四散させる計画らしい。

2020-05-19 21:51:48
帽子男 @alkali_acid

いったいどうする黒の乗り手。 追い求める指輪所持者が爆発四散させられそうになってる現場に出くわしたら。影の国に帰るどころじゃないぞ。 助け出せ!

2020-05-19 21:53:26
帽子男 @alkali_acid

「むりだと思う…」 初手諦め。 九代目こと黒の乗り手ウィストは、最近調子に乗り過ぎていた自分を勝手に反省し始め、すごく正気に返っていた。 「…部外者だし…」

2020-05-19 21:54:45
帽子男 @alkali_acid

もっともだ。 奇祭に紛れ込んだ、別に同門でも何でもないがきんちょが、 「皆さんが祭儀の犠牲にしようとしている、あざらしめいたボロクズみたいのは私の大切なものなので、譲ってくれますか?」 とか申し出たところではいそうですかとは行かない。

2020-05-19 21:56:09
帽子男 @alkali_acid

「帰った方がいいと思う…」 そう帰る。 家に帰ろう。まず風雲あざらし祭りというものがぴんとこないし。 皆早口で怖いし。変な歌と踊りと仮装が常に練習されてるし。 でもどこへ。どこへ行ってもウィストは厄介を引き起こし、周囲に迷惑をかけてしまう。もう伝説の影の国以外に行くところがない。

2020-05-19 21:58:42
帽子男 @alkali_acid

「うー…」 ウィストは頭巾を抑えてうつむく。おなじみの恰好だ。 「どうしよう」 解らない。隣の人達はまた訳の解らない話をしている。 「何だよお前目録二冊買ったのかよ」 「いや予備あった方がいいかなって」 「買うよ目録ぐらい自分で」

2020-05-19 21:59:41
帽子男 @alkali_acid

「つか重いんだけど」 「だから二冊買うなって」 「捨てっか」 「いやそりゃよくねえべ」 この白銀后親衛隊の巡礼は皆、行儀が良いのか悪いのかよく解らない。 「いや重いしさあ。3日目回る支部んとこだけ切り取って捨ててもよくね?」 「いやーどうかな。そういうのはちょっとな」

2020-05-19 22:01:57
帽子男 @alkali_acid

ウィストはしばらく思考停止したまま固まっていたが、やがて周囲から聴こえてくる言葉が頭に入って来たので、振り返って、深呼吸し、またうなだれ、やっぱり話しかけようとし、ちょっとためらう。 「あ?目録いります?」 向こうから逆に持ち掛けてきた。 「か、買います!」 「いえーい!」

2020-05-19 22:03:56
帽子男 @alkali_acid

ウィストはとりあえず学問の都で餞別にもらった旅費の一部で目録を買った。双頭の鷲の帝国の通貨で、西方諸国ではだいたいどこでも使える。 受け取ってみると確かに目録はずしりと重い。 でもめくってみると、市街図が載っていて便利だ。あちこちに文字と数字が沢山記してあるのは何だろう。

2020-05-19 22:06:28
帽子男 @alkali_acid

「…むずかしい」 説明は単語を並べたものが中心で、文法はあまり要さないが、綴り方が共和国語なので読みづらい。いちおう学問の都で少し教わりはしたが、ウィストはあまり勉強ができる方ではない。 「一日目、二日目、三日目…ってなんだろ…どうして、三枚も地図があるんだろ…」

2020-05-19 22:09:55
帽子男 @alkali_acid

座って読みたいが、あまり座る場所がない。公園などはすでに、巡礼が何かだしものをするための準備をしていて入りづらい。酒場や珈琲店などはすべて埋まっている。 「えーと…えーと…」 きょろきょろ見回すがどこもかしこも人だらけ。 そもそも雑踏が苦手な少年は脂汗をかいてしまう。

2020-05-19 22:12:25
帽子男 @alkali_acid

だんだんと目が回ってきた。 「カミツキ…」 心細げに相棒である黒猫の名前を呼ぶが、またしてもはぐれてしまっている。 「うー…うー…」 乗って来た汽車に戻りたいが、それもままならない。

2020-05-19 22:14:03
帽子男 @alkali_acid

とりあえず読み解けない目録を抱えたまま、うろうろと案内所なるものを探してさまよい始める。 臨時の公衆便所を見かけたが長蛇の列ができていた。 その辺に立小便しないところがすごい。ほかの街と随分違う。 もしかして白銀后親衛隊というのは立派なのかもしれない。

2020-05-19 22:15:28
帽子男 @alkali_acid

「ふざけんな黄金王は絶対金髪幼女だつってんだろ!」 「あ?やんのか?幼女とかきめえんだって。少女!少女だっつってんだろ」 「十歳すぎたら老人だから」 「ありえねーし」 多分そんなことはない。

2020-05-19 22:16:42
帽子男 @alkali_acid

何だか人ごみにもまれているだけで気疲れした頭巾の仔は、狭い肩を左右にふらふらと振って、倒れそうになった。というか倒れた。 折悪しく目の前に誰かが歩いてきたところで。 向こうは何か知らない国の言葉で呟いてから、親切にもかがんで腕をとって引き起こしてくれる。 「随分遠くまで逃げたな」

2020-05-19 22:19:29
帽子男 @alkali_acid

女だった。 褐色の肌。暗く鋭い瞳。丈はそう高くないが、体格よりも大きく感じるような、威風がある。白い巻布を頭につけ、額飾りを吊るしている。帯を締めた腰の左右に拳銃と曲刀を吊るしている。

2020-05-19 22:25:36
帽子男 @alkali_acid

少年は、勉強用に読んでいる稀覯本「妖精の書」にある挿絵のひとつを思い起こす。 確か、はるか南洋にある暑き香料の地の武人だ。 「はじめ…まして」 「黒の乗り手だな」 女は流暢な帝国の言葉で話しかけてくる。男児は目を泳がせながら応じた。 「ひ、ひとちがいです」

2020-05-19 22:27:34
帽子男 @alkali_acid

褐色の麗人は、暗い膚に尖り耳の童の言い逃れに返事もしなかった。 「抵抗するな。お前を最寄りの安置所へ連行する」 「ひ、ひとちがい…」 「無駄だ」 女は少年の腕をしかと掴んで連れて行こうとしながら、ふと相手が抱えている目録に気づく。 「風雲あざらし祭りに参加するのか」 「え…」

2020-05-19 22:31:00
帽子男 @alkali_acid

すと武人の指がゆるみ、呆然としている幼い旅人を離す。 「いいだろう。祭りの間はここへ留まるがいい…まさか"遺物"が白銀后の歌を解そうとはな」 「…え?」 「お前は何派だ?黒の乗り手」 「…?」

2020-05-19 22:33:11
帽子男 @alkali_acid

ウィストはばっばっと首を左右に振り、相棒の黒猫があたりにいはしないかと儚い期待を込めて探したが、生憎と獣のけの字もない。仕方なく正面に向き直って尋ねる。 「何…派…って何…ですか?」 「初参加か…どこの支部だ?」 「し…ぶ?」

2020-05-19 22:36:27
帽子男 @alkali_acid

理解が追い付かないようすの頭巾の仔に、巻布の女は辛抱強く語り聞かせる。 「ともに白銀后親衛隊同士。祭りが終わるまでは、財団と遺物の間柄は忘れよう」 「はえ…はえ?」

2020-05-19 22:37:47
帽子男 @alkali_acid

「私はナモ。共和国海外県第十七支部で入隊した」 「…はえ」 「お前は?明かしたくないか。いいだろう」 「はえ」 「祭りへの参加は認めるが、逃すつもりはない。三日間は付き添わせてもらおう」 「はえ…?」

2020-05-19 22:40:13
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