どんな強い男も雌に変える最凶の魔法少女が誕生する話(#えるどれ)

今回はタイトル詐欺じゃない ハッシュタグは「#えるどれ
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まとめ 【目次】エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話(#えるどれ) 人間とエルフって寿命が違うじゃん。 だから女エルフの奴隷を代々受け継いでいる家系があるといいよね。 という大長編ヨタ話の目次です。 Wikiを作ってもらいました! https://wikiwiki.jp/elf-dr/ 21846 pv 167 2 users

前回の話

まとめ 財団と猫と狐と竜と人魚でてんやわんやするやつ(#えるどれ) いったい何がどうなってるのやら。 ハッシュタグは「#えるどれ」 4158 pv 4

以下本編

帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ この物語はエルフの女騎士がどれだけ頑張っても宿敵たる黒き獣が仕留められないもやもやファンタジー。 略して #えるどれ ↓過去のお話はこちらからどうぞ togetter.com/li/1479531

2020-04-04 16:01:15
帽子男 @alkali_acid

しかし主人公は、エルフの女騎士ではない。黒き獣でもない。 歌好きの小鳥ホウキボシを連れたびびりやすい少年ウィストである。 将来の夢は特にないが、とりあえず世の中の大変なことからなるたけ遠ざかって生きたい。そんな性格。

2020-04-04 16:04:01
帽子男 @alkali_acid

暗い膚に尖り耳。目立つ容姿を隠すために頭巾がわりにぼろ布をかぶって、ちょこちょこ歩いて旅を続ける。 めざすは学問の都。別れ別れになった黒猫と再会し、以前いた街で世話になった先生からの預かりもの、妖精の書を届けなければいけない。 のだが、途中でしょっちゅう訳の解らない邪魔が入る。

2020-04-04 16:06:13
帽子男 @alkali_acid

一番厄介なのが「財団」なる組織。 なんでも、人類に災いをなす超常の存在を「遺物」として確保、収容、防護し、世界を守っているらしいのだが、相手が妖怪変化に天変地異の如きものだからか、財団そのものもちょっとはちゃめちゃなことをやる。

2020-04-04 16:07:37
帽子男 @alkali_acid

何の因果か、財団はウィストを、文明や社会にとっての脅威、すなわち「遺物」と認定してしまい、断固収容しようとしてくるのだ。 はじめはおとなしく従おうとも思ったが、いったん財団の管理する「安置所」なる場所に入ると、無限におかしな実験の対象になり、時には生命の危機があると解ったので、

2020-04-04 16:09:22
帽子男 @alkali_acid

ちょっとやめようかなってなった。 正直、あの実験ておかしいと思う。 かくして財団から逃げ回りつつ、ウィストは一路南へ南へ。今は竜の荒らし場として寂れた街道の一つを辿っている。 科学万能の時代に竜とはまた大時代的だが、本当にいたら嫌なので全力で通り過ぎようと思っていた。

2020-04-04 16:11:27
帽子男 @alkali_acid

「りゅうは…いないよね…」 「リュウ!リュウ!オオグイ!タノシイジャン!」 「たのしくない…」 頭に乗った小鳥とおしゃべりしながら男児は歩く。 「空?空からくるよね…空見てて…」 「アオイ!キレイ!クモ!シロイ!フワフワ!センニョサマノオカシミタイ!」 「せんにょ…だれ?」

2020-04-04 16:12:52
帽子男 @alkali_acid

とりあえずいまいち頼りになるのかならないのか判然としない連れに任せてもおけず、時々空をびくびくと見上げては、なるたけ急ぎ足で進むが、そういつまでも歩きつづけられもしない。 「つかれた…」 「キュウケイ!ウタオ!」 「…うたわない…よけいつかれる」 「ウタオ!ウタオ!」 「えー…」

2020-04-04 16:14:45
帽子男 @alkali_acid

黒歌鳥のホウキボシは歌が好き。音痴のウィストとしてはしんどい。といっても最近はちょっとずつ音程を外さなくなってきた。 相棒が辛抱強く直してくれるせい。感謝すべきかもしれない。 「…アオーイソーラー、シローイクーモー、カゼハヤサシクー」 自分が歌うのは苦手だが、連れの声は好き。

2020-04-04 16:16:53
帽子男 @alkali_acid

道端に座って歌っていると、そよ風に乗ってどこからか別の旋律が混じってくる。 「なに?」 「キレイ!」 「うん…でも…」 どこかぞわぞわする音だ。

2020-04-04 16:18:22
帽子男 @alkali_acid

ウィストは靴紐を結び直すと、疲れた足を強いて立ち上がる。 「ナニ?」 「にげる」 とりあずちょっとでも嫌な予感がしたら逃げる。 「ドコ?」 「え…ど…どこ…」

2020-04-04 16:19:26
帽子男 @alkali_acid

奇妙な楽曲は一方向からでなく、さまざまな場所から聞こえてきた。 しかも次第に大きくなってくる。 前にいた渡瀬の街の三日月の寺院の朝の祈りの呼びかけよりも大きい。 「…なにこれ…」 周囲を見回すと、やがて道の向こうから、藪の間から、後ろからも影が近づいてくる。

2020-04-04 16:21:47
帽子男 @alkali_acid

蒸気を噴き出すからくりだ。 小屋ほどもある山車に、鋼鉄の円筒と吸鍔棹(ピストン)でできた肢がまるで昆虫のようにずらりと並んでつき、不規則に蠢いて前へ進む。 上に向かって幾つもの管が伸びて、伸び縮みしたり、前後したりして金管と鍵盤と太鼓の演奏を自動で行っている。

2020-04-04 16:25:08
帽子男 @alkali_acid

ウィストは急いで身を伏せ、藪の中へ這いこもうとしたが、そちらからも演奏する機械がやってくる。 「ひっ…」 「ナニサ!ヘンナノ!」 どこか歪んだ歌声までもが和して響き始めた。

2020-04-04 16:26:46
帽子男 @alkali_acid

ぎょっとしたウィストが首をもたげると、想像を絶する光景が飛び込んできた。 山車には人も乗っていた。いや人に似たものが。 痩せた女のような姿で、蓬髪を風にたなびかせ、落ちくぼんだ眼窩には目のかわりに鬼火を宿した暗い穴がある。肋もあらわな胸といい胴といいむき出しになっている。

2020-04-04 16:28:52
帽子男 @alkali_acid

手足はいずれも途中で断ち切れ代わりに金属の筒につながっている。臍には金属の管が潜り込み、下も同様だった。 女怪は、聞くものの心をかき乱す慟哭を発するが、すぐに周囲の機械が点滅、回転、振動して痩躯を揺すぶり、あるいは何かの薬液を流し込んで音程を調整し、叫びを歌へと調整する。

2020-04-04 16:31:25
帽子男 @alkali_acid

ウィストはあわてて目を逸らすと、別の機械を直視することになった。三頭の犬の首と、三対の乳房を持つ毛むくじゃらの異形が、やはり四肢を失い、鎖に釣るさがった状態でさかりがついたように吠え猛り、時折甲高く遠吠えして痙攣する。やはり周囲の管から何かが慣れ込み、撥(バチ)が尻や胸を叩く。

2020-04-04 16:33:53
帽子男 @alkali_acid

三つの水槽を据え付けた山車もある。一つは空で、残り二つには上半身が女、下半身が蛇とも魚ともつかぬ鱗を持つ長い鰭を持つ存在が閉じ込められていた。水槽の中の液体の色が変わるつど、どこか焦点の合わない双眸の瞬膜で覆ったり開いたりしながら狂おしく唄いあえぐ。

2020-04-04 16:36:25
帽子男 @alkali_acid

ひときわ大きな山車には、さまざまな化生が複雑に組み込んであるばかりか、頂点のあたりに座って鍵盤をたたく肥満漢と、そばでかそけく歌う銀髪の少女がいた。透き通るように白い肌をした娘はやはり四肢が途切れ、胸の先や股の間につながった糸に震えが走る度、澄み渡るような高音で啼く。

2020-04-04 16:41:16
帽子男 @alkali_acid

演奏と歌唱が急に止んだ。 「うん…今日はかなりいい…ボキの天才がいつにもまして冴え渡るよ」 でぶは異様に大きな耳をひくつかせながら、いきなり側にある音符の入っていない楽譜に筆でさっきまでつむいでいた旋律を書きつけた。

2020-04-04 16:43:22
帽子男 @alkali_acid

「でも…暗黒神賛美歌に必要なのはこんな音色じゃないんだなあ…もっと退廃と堕落と悪徳に満ちてないと、エルカノールは喜ばないんだなあ…やっぱり…想像力の翼を広げるにはよりよい音が大事なんだなあ…ボキに必要なのは完璧な楽器!」

2020-04-04 16:45:47
帽子男 @alkali_acid

肥満漢は、ぐったりと首をうなだれさせ、涎と涙をこぼす銀髪の少女の頭を筆の先でつつく。 「こんな…まがいものじゃなくて、必要なのは鏡の乗り手ダリューテなんだなあ!あの美声を!ボキの楽器にできてこそ!暗黒神讃美歌は完成するんだなあ!!」

2020-04-04 16:50:05
帽子男 @alkali_acid

「速くダリューテを褒美としてもらえるように…ボキも収容任務をがんばらなくちゃなんだな…うふふ…頑張って逃げてるね」

2020-04-04 16:51:07
帽子男 @alkali_acid

でぶが長広舌を振るっている間、ウィストはぼろ頭巾を抑えたままできる限り後退ろうとしていた。しかしどうしてもはかがいかない。なぜって、かすかに聞こえる楽器のうめきについ足が止まる。 「…むり」 物語の英雄や騎士じゃないから救い出せない。

2020-04-04 16:52:33
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